双極性障害(双極症)と最新治療情報
双極性障害(双極症)は、かつて「躁うつ病」と呼ばれていた精神疾患です。気分が大きく変動し、ハイテンションで活動的になる「躁(そう)状態」と、落ち込みが強く無気力になる「うつ状態」を繰り返すことが特徴です。うつ病と混同されやすく、最初に受診したときには「うつ病」と診断されてしまうケースが多いのも事実です。そのため、正確な診断までに平均7年ほどかかるというデータもあります。
躁状態のときは自分でも「調子がいい」と思うため病気だと気づかず、家族や周囲から見て初めて異常が分かることも少なくありません。こうした診断の遅れが、治療開始を遅らせてしまう要因になっています。
Ⅰ型とⅡ型の違い
双極性障害には大きく分けてⅠ型(Bipolar I)とⅡ型(Bipolar II)があります。
Ⅰ型では、強い躁状態が1週間以上続くのが特徴で、社会生活に支障をきたすほどの行動が見られます。幻覚や妄想など精神病症状が出て入院が必要になることもあります。うつ状態も伴いますが、診断の必須条件は「躁状態の存在」です。
Ⅱ型では、躁状態ほど強くはない軽躁状態(hypomania)が4日以上続くのが診断のポイントです。入院するほどではなく、周囲から「元気そう」と思われることもあります。しかし必ずうつ状態を伴い、この抑うつはⅠ型よりも長期化・重症化しやすいとされます。そのためⅡ型は自殺リスクが高いという報告もあり、早期の支援が欠かせません。
躁状態で見られる症状
躁状態になると、次のような症状が見られることが多いです。
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活動性・エネルギーの亢進:睡眠をほとんど取らなくても疲れずに活動し続ける
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多弁・多動:話が止まらない、次々にアイデアを話す
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衝動的行動:高額な買い物、ギャンブル、突発的な投資などをしてしまう
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注意散漫・思考奔逸:一つのことに集中できず、考えが飛びやすい
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自信過剰・誇大妄想:根拠なく「自分は特別だ」と思い込む
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易刺激性・イライラ:些細なことで怒りやすくなる
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社交性の増加:知らない人に話しかけるなど普段と違う行動をする
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病識の欠如:自分では「調子がいい」としか感じない
本人に自覚がないため、家族や周囲が異変に気づいて医療につなげることが非常に大切です。
最新の治療法(2025年時点)
治療は薬物療法を中心に、心理療法や生活習慣の整備を組み合わせるのが基本です。近年は新薬や非薬物療法の進歩によって、選択肢が広がっています。
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薬物療法の進展
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炭酸リチウム・バルプロ酸・ラモトリギン:今も治療の中心。特にラモトリギンは再発予防に有効。
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ルラシドン:うつ症状に強い効果が期待され、体重増加が少ないのが特徴。
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ブレクスピプラゾール(レキサルティ):双極性障害のうつ期への有効性が研究で報告されている。
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補助療法薬(プラミペキソール、コエンザイムQ10など):反応が不十分な場合に追加されることがある。
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非薬物療法
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ECT(電気けいれん療法):重症のうつや躁状態に効果があり、最近は安全性が高まった。
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rTMS(反復経頭蓋磁気刺激法):うつ病で広く使われ始め、双極性障害のうつにも有効性が期待される。日帰り可能で侵襲性が低い。
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治療立て直し入院(順天堂大学):短期集中で脳画像や脳波を調べ、個別の治療計画を立てるプログラム。
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心理社会的支援
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認知行動療法(CBT)や対人関係・社会リズム療法(IPSRT):ストレス管理や生活リズムの調整に効果的。
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家族療法・心理教育:家族も病気を理解し、支援体制を整えることで再発を減らせる。
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オンライン診療やデジタル支援:通院が難しい人も治療を継続しやすくなっている。
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研究最前線
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双極性障害ではミトコンドリアの機能異常やエネルギー代謝の乱れが関与している可能性が示されており、将来は新しい治療薬の開発につながると期待されています。
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早期診断のポイント
双極性障害は診断が遅れやすいため、早期発見のために次の点が重要です。
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「調子が良すぎた時期」がなかったかを振り返る
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抑うつが繰り返し現れる場合は要注意
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抗うつ薬で改善しない、または躁転した場合は双極性障害を疑う
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睡眠リズムの乱れ(寝なくても平気な時期)があったか確認
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家族歴に精神疾患がある場合は注意
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医師がYMRS(Young Mania Rating Scale)などを用いて評価することも有効
家族の支援の重要性
治療を続ける上で、家族の役割は非常に大きいです。
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安心感の提供:理解と共感で孤独感を減らす
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治療継続の後押し:服薬や通院の支援、症状の変化への早期対応
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家族療法・心理教育:コミュニケーション改善と再発防止につながる
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家庭環境の安定:ストレスを減らし社会復帰を助ける
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家族自身のケア:支える側も支援や相談窓口を利用することが大切
まとめ
双極性障害は、気分が大きく上下に揺れる病気で、Ⅰ型とⅡ型で症状の特徴が異なります。診断には時間がかかりやすいため、早期に正しく見極めることが重要です。最新の治療法では、新薬・非薬物療法・心理社会的支援の組み合わせによって治療の幅が広がっています。特に家族の理解と支援は、回復と再発予防に欠かせません。
もし「気分が上がりすぎた時期」や「落ち込みが長引く」などの心当たりがあれば、精神科や心療内科で相談することを強くおすすめします。
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