辛くて甘い“奇跡のとうがらし” 清水森ナンバの物語
「唐辛子=辛い」と思っている人にこそ知ってほしいのが、青森県弘前市でしか育たない清水森ナンバです。見た目は大きくて鮮やか、でも口にすると、ピリッとした刺激のあとに広がるほんのりとした甘さ。その絶妙なバランスが全国の料理人を魅了しています。
今回の『うまいッ!』(NHK総合)では、天野ひろゆきさんと塚原愛アナウンサーが、青森・弘前の地を訪ね、その魅力を徹底的に紹介しました。この記事では、清水森ナンバの育て方から歴史、そして絶品レシピまでを詳しくお届けします。
巨大で希少!「清水森ナンバ」は津軽生まれの宝
青森県弘前市の清水森地区で古くから栽培されてきた清水森ナンバは、全国的にも珍しい“地域限定の唐辛子”。大きいものでは20センチを超え、赤く熟す前の緑色の状態で食べると、心地よい辛みの中に甘みが広がります。
一般的な唐辛子(鷹の爪など)と比べると糖度が高く、辛さが穏やか。パプリカや万願寺とうがらしに近い品種で、ピーマンのように料理にも使いやすいのが特徴です。
この「清水森」という地名がそのまま名前に残り、地元では昔から家庭料理に欠かせない存在として親しまれてきました。
生産量の3割を支える農家・佐藤俊治さんの挑戦
番組に登場した佐藤俊治さんは、清水森ナンバの生産者の中でも特に大規模な農家。地域全体の収穫量の約3割を担っており、その技術と工夫が高く評価されています。
おいしい清水森ナンバを作るための最大のポイントは「土づくり」。唐辛子はデリケートな作物で、土壌が酸性だと育ちにくくなります。そのため、苗を植える前に土を中性に整え、栄養を吸収しやすい環境をつくるのだそうです。
さらに、苗が小さいうちに咲く花をあえて摘み取ることで、栄養を実の成長に集中させ、大きく立派なとうがらしが育ちます。
また佐藤さんは、マグロ漁で使われていた網を再利用したロープを導入。茎が折れにくくなり、風や雨で倒れるリスクを減らしています。さらに、実が地面に触れて雑菌がつくのを防ぐ効果もあり、環境にも優しい工夫です。
辛さと色の変化にも細やかな管理が行われており、薄緑の「やわ辛」から濃い緑の「ほど辛」「中辛」「大辛」へと成長に合わせて辛さが変化。用途に応じて収穫時期を見極め、ベストな状態で出荷します。
弘前大学が守る“学問の唐辛子”
清水森ナンバは、地元農家と弘前大学が二人三脚で守り続けています。
この唐辛子の種は弘前大学の冷蔵庫で厳重に保管され、他の品種と交雑しないよう、外部への持ち出しは一切禁止。農家が育てる苗は、大学が管理する種から育てたものだけを購入できます。
また、生産者は弘前市を中心とする5市町村に限定され、毎年、行政主催の栽培説明会に参加することが義務化されています。これは品質を保ち、清水森ナンバの“本物の味”を未来へ伝えるための取り組みです。
大学の担当者は定期的に畑を見回り、遺伝的な純度を守る努力を続けています。まさに、「農」と「学」が協力する青森の文化遺産」といえます。
津軽の味を未来へ「清水森ナンバの一升漬」
地元では、清水森ナンバを使った発酵調味料『一升漬』が古くから伝わっています。作っているのは、郷土食文化を守る津軽あかつきの会。
この一升漬は、清水森ナンバ・しょうゆ・こうじをそれぞれ一升ずつ混ぜ合わせて発酵させるという伝統製法。細かく刻んだナンバにこうじをもみこみ、しょうゆを加えて瓶に詰め、1年以上寝かせて熟成させます。
100年以上受け継がれてきた味として、文化庁の「100年フード」にも認定。江戸時代から続くこの調味料は、津軽の食卓に欠かせない存在です。
番組で天野さんが試食したのは、「卵かけごはん」に一升漬をのせたもの。「辛さよりも甘みと香りが広がる」「どんな料理にも合う」と感動していました。焼き肉や炒め物にも使える、万能のごはんのお供です。
清水森ナンバで作る絶品料理
番組では2つのおすすめレシピが紹介されました。中華の定番とタイ風エスニック料理、それぞれの味わいで清水森ナンバの魅力が際立ちます。
『清水森ナンバのチンジャオロースー』
| 材料 | 分量 |
|---|---|
| 清水森ナンバ | 100g |
| 豚ロース肉 | 200g |
| 玉ねぎ | 100g |
| たけのこ(水煮) | 100g |
| しょうゆ・みりん・酒(下味用) | 各小さじ1 |
| オイスターソース・しょうゆ・みりん・酒・ごま油(合わせ調味料) | 各大さじ1 |
| 塩・こしょう | 適量 |
つくり方
・清水森ナンバの種をとり、5mmほどの細さに切る。
・豚ロース肉に下味用の調味料を加えてよくもみこむ。
・清水森ナンバを油で素揚げし、皮がしんなりするまで加熱。
・フライパンを強火にし、豚肉を炒める。
・肉に火が通ったら玉ねぎを加え、塩・こしょうをふる。
・清水森ナンバとたけのこを加え、最後に合わせ調味料を入れて炒める。
・香ばしい香りが立ったら完成。清水森ナンバの甘辛さが豚肉のうまみを引き立てます。
『清水森ナンバのグリーンカレー』
| 材料 | 分量 |
|---|---|
| 清水森ナンバ(青唐辛子) | 60g(大ぶり約4本) |
| 玉ねぎ | 20g |
| レモングラス | 6g |
| えびペースト | 5g |
| にんにく | 5g |
| ガランガル(タイのしょうが) | 5g |
| レモン | 8g |
| コリアンダー・ホーラパー(タイバジル) | 各少々 |
| こぶみかんの葉 | 2枚 |
| ナンプラー・クミン・砂糖・塩 | 各適量 |
| ココナツミルク | 400ml |
| 鶏肉またはシーフード・野菜(ナス・パプリカなど) | 各適量 |
つくり方
・清水森ナンバやハーブ類を細かく切り、香りが立つまで炒める。
・炒めた具材をミキサーにかけ、なめらかなペースト状にする。
・この作業を2回繰り返すと、香り豊かなグリーンカレーペーストが完成。
・鶏肉や野菜を一口大に切り、ペーストと一緒に炒める。
・温めたココナツミルクの半量と水を加えて煮込む。
・具材に火が通ったら残りのココナツミルクを加え、さらに5〜6分煮込む。
・ナンプラーや砂糖で味を調えれば完成。辛さの中にほんのり甘みが残る、津軽風エスニックカレーです。
清水森ナンバの辛さは“成長とともに変わる”
清水森ナンバは、成長過程で辛さと色が劇的に変化します。初期の「やわ辛」は生食や焼きものに、濃い緑の「ほど辛」「中辛」は炒め物や煮込みに、完熟した赤い「大辛」は一味唐辛子などの加工用に使われます。弘前大学ではこの変化を正確に判断するため、専用の「カラースケール」を使って収穫のタイミングを管理しています。こうした科学的管理があるからこそ、味のブレがない高品質な唐辛子が全国に届けられるのです。
まとめ:津軽が誇る“辛くて優しい”伝統の味
この記事のポイントは3つです。
・清水森ナンバは青森県弘前市でしか栽培されない希少な伝統野菜。
・弘前大学と地元農家が協力して、品種を守る厳格な体制を築いている。
・辛さと甘みのバランスが絶妙で、和洋中どんな料理にも合う。
清水森ナンバは、津軽の自然・知恵・文化がひとつになった“生きた食文化”。一口食べれば、その土地の人々の思いが伝わってくるような、あたたかい味わいです。
青森を訪れたら、ぜひこの“辛くて甘い奇跡の唐辛子”を味わってみてください。
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