心ゆさぶる鉄道の旅へようこそ!観光列車がつなぐ日本の美と人のぬくもり
旅と聞くと、飛行機や車を思い浮かべる人も多いかもしれません。でも「列車の旅」には、ほかにはないゆったりとした時間と、心を満たす“物語”があります。窓の外に流れる景色、木の香りがただよう車内、そして一皿ごとに土地の恵みを感じる食事。そんな“動くホテル”のような観光列車の魅力を、藤井隆・朝日奈央・柴田理恵が案内役となり紹介したのが、2025年11月3日放送のNHK総合『観光列車タイムマシン』です。
列車ファンだけでなく、普段旅に出ない人の心までとらえたこの番組。この記事では、登場した観光列車の数々や、そこに込められたデザイン・食・おもてなしの物語をたっぷり紹介します。読めばきっと、あなたも「次の休日は列車で旅したい」と感じるはずです。
【最深日本研究】〜外国人博士の目〜 鉄道を知りたい|乗り鉄文化と観光列車の魅力を解明!(2025年9月9日放送)
伊豆の海を走る“動く美術館”ザ・ロイヤルエクスプレス
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最初に紹介されたのは、東急電鉄が誇る観光列車『ザ・ロイヤルエクスプレス』。2017年に運行を開始し、今ではチケットが取れないほどの人気を誇るこの列車は、伊豆の自然と芸術が融合した“走る美術館”のような存在です。番組では、ミュージシャンの斉藤ノヴと女優の夏木マリが実際に乗車。伊豆高原駅から伊豆急下田駅までの区間を旅しました。
列車の中は、まるで高級ホテルのラウンジ。格天井には繊細なステンドグラス、窓枠には日本の伝統技法「組子細工」が使われています。照明のやわらかな光が木材を包み、どの車両にいても心が落ち着く空間です。デイリー・テレグラフ電子版でも“アジアで最も美しい鉄道トップ10”に選ばれた理由が、一目でわかる仕上がりです。
この旅の楽しみは、何といっても料理。車内ではシェフが腕をふるう懐石料理が提供され、うなぎ兜煮こごり 三河赤みそ仕立て、アオリイカのタルト、ハナダイのクレープなど、季節ごとの味覚が彩ります。事前にツアーデスクでヒアリングがあり、アレルギーや好みに応じてメニューをカスタマイズできる点も人気の理由です。さらに、生演奏をリクエストできる特別なサービスも。まさに“心に残る一日”を演出するための舞台が、この列車には整っています。
全国に広がる観光列車ブームとその背景
近年、日本では“移動を楽しむ時代”が到来しています。番組では、全国の観光列車を紹介。
・TRAIN SUITE 四季島(JR東日本) – 北海道から東北を巡る、鉄道の最高峰と呼ばれる豪華寝台列車。
・TWILIGHT EXPRESS 瑞風(JR西日本) – 京都から下関まで、山陰・山陽を走る優美な列車。
・etSETOra(JR西日本) – 瀬戸内の海を望む2両編成の列車で、車窓からは多島美が広がる。
・嵯峨野トロッコ列車(嵯峨野観光鉄道) – 京都の自然を満喫できる、レトロな観光列車。
・かんぱち・いちろく(JR九州) – 九州南部の海岸線を走り、地元食材を使った駅弁が人気。
これらの列車には共通点があります。それは“地域と旅人をつなぐデザイン”です。観光列車の発展は、ただの移動手段から「その土地を感じる体験」への変化を象徴しています。
食堂車の原点は大正時代にあった
観光列車の贅沢な食事文化は、実は1915年(大正4年)の大正天皇即位の礼にまでさかのぼります。京都御所から皇居への長距離移動の際、「温かい食事を提供したい」という思いから、初めて食堂車が登場しました。
この小さな工夫が、現代の“グルメ列車”文化の始まりです。番組では、TOHOKU EMOTION(JR東日本)やTWILIGHT EXPRESS 瑞風、明知鉄道のじねんじょ列車が紹介されました。どの列車も、地元の旬食材を取り入れた創作料理で乗客をもてなし、まるでレストランで食事しているかのような満足感を味わえます。
デザインで革命を起こした男・水戸岡鋭治
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観光列車の人気を支えるもう一つの要素が、デザインです。その中心人物が工業デザイナーの水戸岡鋭治。彼が手がけた787系特急つばめ(JR九州)は、1992年のデビュー当時から「観光列車の革命児」と呼ばれました。
当時の列車は金属的で無機質なデザインが主流でしたが、水戸岡はそこに“木の温もり”を取り入れます。ガラス張りのボックス席、木製テーブル、そしてホテルのようなビュッフェスペース。当時、木材を列車に使うことは火災のリスクからタブーとされていましたが、彼は「アルミに木材を貼り合わせた不燃シート」を独自開発。安全性と美しさを両立させたのです。
彼の手による列車は、ななつ星 in 九州や或る列車、そしてザ・ロイヤルエクスプレスへと受け継がれています。鉄道を“走る美術作品”へと変えた水戸岡の功績は、今も観光列車デザインの礎となっています。
SLの煙とともに復活する大井川鐵道の挑戦
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静岡県の大井川鐵道は、SLを観光資源として蘇らせたパイオニアです。1976年、経営難に苦しむ中、全国で廃止が進む蒸気機関車を再び走らせたことで注目を集めました。以来、“きかんしゃトーマス号”など、家族連れに人気のイベント列車を運行。
しかし3年前の台風で路線の約3分の1が不通に。復旧には莫大な費用がかかるなか、会社はあきらめませんでした。SLが引く“食堂車付き列車”という新しい企画を立ち上げ、クラウドファンディングや地域の支援を受けながら、観光再生に挑んでいます。列車に込められたのは「走り続ける勇気」と「地域を元気にする使命感」です。
“お手振り文化”が生んだ奇跡 伊予灘ものがたり
愛媛県の『伊予灘ものがたり』(JR四国)は、2014年に運行を開始したローカル列車。松山駅から大洲市まで、青い海と山並みを眺めながら約2時間の旅を楽しめます。この列車の名物は、なんといっても“お手振り”。沿線住民が列車に手を振る姿が途切れません。
この日は、道端や自宅の窓から200人以上が手を振っていました。中には、180回以上乗車したリピーターも登場。「地元の人の笑顔が見たくて、何度でも乗りたくなる」と語ります。いつしか彼自身も“手を振る側”に回り、旅人を迎えるようになったそうです。鉄道が地域と人をつなぐ温かな文化を生み出していることが伝わる場面でした。
車内で起きた心温まるサプライズ
『ザ・ロイヤルエクスプレス』の旅のクライマックスでは、感動の瞬間が訪れます。列車内で流れたのは、斉藤ノヴと夏木マリがリクエストした『One of Love』の生演奏。これは、二人が長年取り組む社会貢献プロジェクトのテーマ曲でもあります。
実はこの日、夏木の誕生日と結婚記念日を兼ねたサプライズが用意されていました。スタッフが協力し、花束とともに祝福のメッセージを贈るシーンに、観客も涙。観光列車の旅は、単なる移動ではなく「人生の節目を彩る舞台」でもあるのです。
まとめ:観光列車は“走る文化遺産”
この記事のポイントは3つです。
・観光列車は“移動”ではなく“体験”を味わう旅へ進化している
・デザイン・食・おもてなしが融合し、地域の物語を伝えている
・人と人、旅人と地域を結ぶ“心の交流”が最大の魅力である
『観光列車タイムマシン』が伝えたのは、鉄道という小さな空間の中に詰まった“大きな物語”。ザ・ロイヤルエクスプレス、伊予灘ものがたり、大井川鐵道——どの列車にも、作り手と乗る人の思いが重なっています。
現代の観光列車は、過去と未来をつなぎ、地域の誇りを乗せて走る“走る文化遺産”。旅の中で出会う人の笑顔や、車窓に広がる景色こそが、最高の贅沢なのです。次の旅は、あなたも“窓の外の物語”を探しに出かけてみませんか?
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