激動ニューヨークが映す“いまのアメリカ”とは?家賃凍結と無料バスが支持される背景
いま、アメリカ最大の都市ニューヨークで、かつてないほどの「生活密着型選挙」が注目を集めています。11月4日に投開票されるニューヨーク市長選挙。その中心にいるのが、若き州議会議員ズーラン・マムダニ氏です。
家賃値上げの凍結、市営バスの無料化、保育の無償化――耳を疑うほど大胆な政策が並びますが、実際に多くの市民が熱狂的に支持しているのです。
「政治は特権階級のためではなく、私たちの暮らしのためにあるべきだ」
そんな声が広がる背景には、長引くインフレと格差の拡大があります。この記事では、マムダニ氏の政策がなぜこれほど支持されるのか、そしてこの選挙が日本にも無関係ではない理由を、経済・社会両面から深く読み解きます。
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“反トランプ”の旗を掲げる新世代政治家・ズーラン・マムダニとは
ズーラン・マムダニ氏は、ウガンダ出身の移民の家庭に生まれ、ニューヨーク・クイーンズ地区で育ちました。銀行員として働いた後、社会的不平等に直面した経験から政治の道に入り、現在はニューヨーク州議会の一員。民主社会主義の理念を掲げ、市民の声を直接政治に届けることを信条としています。
今回の市長選では、「誰もが安心して暮らせる街を」をスローガンに、格差の是正を訴えています。その象徴が『家賃値上げの凍結』と『市営バスの無料化』。これまで一部の富裕層が中心だった都市政策を、市民生活の現場へ引き戻そうとしているのです。
ニューヨークはこの10年で家賃が急上昇し、ブルックリンやクイーンズでは月20万円を超える賃貸も珍しくありません。若者が地元を離れ、働いても暮らせない現状に、マムダニ氏は「都市が人を追い出すようになってはならない」と警鐘を鳴らしています。
また、公共交通機関の無料化は、低所得者層の通勤・通学を助けるだけでなく、車社会による環境負荷の軽減にもつながるという考えです。こうした施策は、既存の民主党主流派が打ち出す“穏健な改革”を超えた、“根本的な構造転換”を意味しています。
「共産主義の狂信者」?トランプ氏の激しい反発
当然ながら、このような急進的政策には強い反発もあります。ドナルド・トランプ前大統領は、演説でマムダニ氏を「共産主義の狂信者」と非難。SNSでは「彼の政策はニューヨークを破産させる」と発言し、保守層の不満を煽っています。
実際に、財源の裏付けについては議論が分かれています。マムダニ氏は「法人税と高所得者への課税強化でまかなう」と説明していますが、企業離れや富裕層の流出を懸念する声も少なくありません。
それでも、街の多くの人々は彼の言葉に耳を傾けています。理由はシンプルです。「もうこれまでの政治では暮らしていけない」という実感が広がっているからです。
ニューヨークではパンの値段が10年前の2倍、地下鉄の運賃も年々上昇。生活必需品が次々と値上がりし、労働者や学生が「働いても報われない」と感じるようになりました。マムダニ氏の政策は、こうした“日常の不安”に直接こたえるものであり、理念ではなく現実の切実さから生まれた訴えなのです。
選挙の争点は「生活」と「未来」
今回の選挙は、単なる政党間の争いを超え、「どんな都市を目指すのか」という問いかけでもあります。
・インフレに苦しむ市民の生活支援を優先するのか
・それとも、企業活動の自由と経済成長を優先するのか
マムダニ氏の“市民派”路線に対し、対立候補は「急激な改革は混乱を生む」として現行の経済政策を維持する姿勢を示しています。
投票日を目前に、支持率は拮抗していますが、若年層や移民系の有権者の多くがマムダニ氏を支持。街頭では「私たちの世代の声を代弁してくれる」といった声も聞かれます。
こうした動きは、単なる地方政治を超えて、“反トランプ”運動の象徴とも言われています。トランプ氏の再登場が現実味を帯びる中、「分断より共存を」「格差より共助を」と訴える市民運動がニューヨークから再び広がりつつあります。
ニューヨークの変化は世界経済に波及する
ニューヨークは世界最大級の金融都市です。市長が変われば、不動産市場、交通政策、税制が変わり、それは世界中の投資家に影響します。
仮にマムダニ氏の政策が実行されれば、企業への課税や規制が強化される一方で、都市生活の持続可能性が高まる可能性もあります。つまり、短期的には経済のブレーキとなっても、長期的には「働く人が安心して暮らせる都市」への再構築が進むとも言えるのです。
ニューヨークの家賃動向や都市開発は、日本の不動産・投資市場にも影響を及ぼします。特に、円安基調の中でアメリカ不動産に注目する日本企業にとって、この選挙結果は大きな関心事となっています。
日米首脳会談で見えた「投資と再編」のシナリオ
時を同じくして、10月28日に開かれた日米首脳会談も注目されています。高市早苗首相とトランプ大統領の会談では、AI・半導体・エネルギー分野での協力拡大、そして「5500億ドル規模の対米投資枠組み」が発表されました。
参加を表明したのは、ソフトバンクグループ、三菱電機、日立製作所など日本を代表する企業。アメリカ国内でのAIインフラ構築や再生エネルギー分野での提携が検討されています。
この動きの背景には、米国経済の“産業再編”があります。インフレ抑制と雇用維持のため、政府は製造・技術の国内回帰を推進。日本企業にとっても、アメリカでの投資が「リスク分散」から「成長戦略」へと変わりつつあるのです。
しかし、こうした動きもニューヨークなどの都市政策と無関係ではありません。増税や規制の方向性次第では、企業が拠点を移す可能性もあり、まさに政治と経済が表裏一体となっています。
“暮らしの政治”が問う次の時代
ニューヨーク市長選と日米経済協議――一見別の話のようですが、根底にあるのは「誰のための成長なのか」という共通の問いです。
格差が広がる中、政治はどこまで人々の生活を守れるのか。企業は社会の一員としてどう責任を果たすのか。そして、市民はどんな都市を選び取るのか。
マムダニ氏が訴える『共助の政治』が支持される背景には、世界共通の不安と希望が交錯しています。
放送後に追記予定
この記事は、11月5日(水)放送予定の『クローズアップ現代「激動ニューヨーク 大統領選挙から1年 アメリカは今?」』の放送前に執筆しています。放送後には、番組で紹介されるニューヨーク市民の声、選挙結果、専門家の分析、そして日本企業への影響を追記して更新します。
まとめ
この記事のポイントは次の3つです。
・ズーラン・マムダニ氏が掲げる『家賃凍結』『市営バス無料化』などの政策は、生活コスト高に苦しむ市民から支持を集めている。
・ドナルド・トランプ氏の批判を受けながらも、「共助と生活支援」を訴える新しい政治の潮流が浮上。
・同時期に行われた日米首脳会談では、日本企業の対米投資が加速し、都市政策の変化がその環境を左右する可能性がある。
ニューヨークの選挙は、単なる一都市の出来事ではありません。そこには、世界経済の行方、社会の公平性、そして私たち一人ひとりの「暮らしの未来」が映し出されています。放送では、この“激動の現場”がどんな姿で描かれるのか、注目です。
(情報ソース:NHK総合『クローズアップ現代』公式サイト/主要海外報道・経済分析)
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