股関節の痛み、その裏にある「原因」と「希望の治療法」
歩き始めに足の付け根がズキッと痛む、立ち上がる時に違和感を覚える…。そんな経験はありませんか?「年のせい」と我慢してしまう方も多いですが、実はその痛み、重大なサインかもしれません。
股関節の痛みは、単なる筋肉痛ではなく、『関節唇損傷』や『変形性股関節症』、さらに『大腿骨頭壊死症』など、原因はさまざま。この記事では、神奈川リハビリテーション病院 病院長 杉山肇先生の知見をもとに、最新の治療法や早期発見のポイントをわかりやすく紹介します。
この記事を読めば、自分の症状の見極め方から治療の選択肢までが理解でき、痛みのない生活を取り戻す一歩を踏み出せます。
NHK【あさイチ】股関節の痛み・O脚・下半身太り…40代から要注意!1日1分ケア法(9月1日放送)
股関節医療のエキスパート・杉山肇先生
杉山肇(すぎやま はじめ)先生は、神奈川県厚木市にある神奈川リハビリテーション病院の病院長。
1982年に東京慈恵会医科大学を卒業後、大学院を修了し、アメリカ留学を経て整形外科の研究と臨床に40年以上携わっています。
専門は股関節疾患全般。特に『変形性股関節症』『関節唇損傷』『大腿骨頭壊死症』などの治療に精通しています。
資格は日本整形外科学会専門医、リウマチ医。
また、日本股関節学会、日本人工関節学会など多数の学会に所属し、日本股関節鏡研究会代表世話人として、関節鏡手術の普及にも力を注いでいます。
杉山先生の病院では、人工股関節全置換術(THA)や寛骨臼回転骨切り術(RAO)といった高度な手術が行われています。
さらに、手術支援ロボット『MAKO(メイコー)』を導入し、AIが骨の形をミリ単位で解析。患者の関節に最も合う形に調整することで、より正確で安全な手術を実現しています。
また、リハビリでは、水中歩行や筋肉トレーニング、ロボット支援リハビリを組み合わせ、術後の早期回復を目指しています。
関節唇損傷 ― 若い世代にも増えている「見逃されがちな痛み」
股関節のくぼみ(寛骨臼)の縁には「関節唇(かんせつしん)」と呼ばれる軟骨があり、骨頭を包み込み安定させる役割を担っています。
スポーツや転倒などでこの部分が傷つくと、動かすたびに「コリッ」と音がしたり、脚の付け根がズキッと痛んだりします。
典型的な症状は、
・脚のつけ根(鼠径部)の奥の痛み
・靴下を履く、車に乗る、立ち上がる動作での違和感
・夜間や安静時にも痛みが続く
初期段階ではレントゲンで異常が見えにくいため、「腰痛」や「筋肉痛」と誤診されることもあります。MRI検査による正確な診断が重要です。
治療はまず運動療法から。股関節を支える中殿筋や腸腰筋を鍛え、動きを安定させます。
それでも痛みが続く場合は、『関節鏡視下手術』で損傷部分を修復します。
放置すると、関節軟骨がすり減り、『変形性股関節症』へと進行することがあるため、早期の受診がカギとなります。
変形性股関節症 ― 「歩き始めの痛み」は要注意
『変形性股関節症』は、股関節の軟骨がすり減ることで炎症が起き、関節が変形してしまう病気です。
初期症状は「歩き始め」や「立ち上がり時」の痛み。動かし始めに違和感があり、進行すると関節の可動域が狭くなり、歩くのもつらくなります。
主な原因は、
・加齢による軟骨の劣化
・臼蓋形成不全(股関節の受け皿が浅い構造)
・関節唇損傷や外傷の既往
初期段階では、運動療法や理学療法が中心です。股関節周囲の筋力を強化し、体重を支える負担を減らします。
そして、2021年から保険適用となった新しい注射薬『ジョイクル関節注30mg(ジクロフェナクエタルヒアルロン酸ナトリウム)』が注目されています。
この薬はヒアルロン酸に抗炎症成分を結合させたもので、関節の炎症を抑えながら動きをなめらかにする効果があります。月に1回の注射で持続効果があり、副作用も少ないのが特徴です。
さらに、自分の血液から作る『PRP療法』『APS療法』といった再生医療も導入されており、軟骨の修復を促す新たな選択肢となっています。
進行例では「骨切り術」「人工股関節置換術」
保存療法で改善しない場合には、手術が検討されます。
比較的若い世代には『寛骨臼回転骨切り術(RAO)』を行い、股関節の受け皿を深くして関節のズレを矯正します。
一方、変形や軟骨の損傷が進んだ場合は『人工股関節全置換術(THA)』が適応となります。
神奈川リハビリテーション病院では、AI支援ロボット『MAKO』を用いた手術で高精度な調整を実現。
個々の骨格に合わせた人工関節を設置できるため、術後の歩行バランスが安定し、回復も早いといわれています。
手術後はリハビリが重要です。水中歩行や筋トレ、ロボットリハビリなどを組み合わせ、早期に日常生活へ復帰できるよう支援しています。
大腿骨頭壊死症 ― 静かに進む「血流の病」
『大腿骨頭壊死症』は、股関節の骨頭部分に血液が行き渡らなくなり、骨の細胞が死んでしまう病気です。
原因として、ステロイドの長期使用やアルコールの過剰摂取、外傷などが知られています。
初期はほとんど痛みがなく、レントゲンでも異常が出にくいため、気づいたときには進行していることがあります。
壊死が進むと骨頭がつぶれて変形し、強い痛みで歩行が難しくなります。
初期治療では『骨穿孔術(ドリリング)』により血流の再開を促します。
進行した場合は、『骨切り術』や『人工股関節手術』が選択肢になります。
早期に診断・治療を行うことで、関節を温存できる可能性が高まります。
早期発見が「歩ける未来」を守る鍵
股関節の病気は「我慢してしまう」ことで悪化します。
杉山肇先生は、「少しでも違和感があれば、早めに整形外科で検査を受けてほしい」と呼びかけています。
特に次のような方は要注意です。
・スポーツで股関節に負担をかけている
・歩き始めや立ち上がり時に痛みがある
・ステロイド治療や多量飲酒の経験がある
MRI検査による早期発見ができれば、進行を止め、手術を避けられる場合もあります。
この記事のまとめ
・股関節痛の主な原因は『関節唇損傷』『変形性股関節症』『大腿骨頭壊死症』
・保存療法では『運動療法』と『ジョイクル関節注』が有効
・進行例では『骨切り術』や『人工股関節手術』が選択肢
・AI支援ロボット『MAKO』による正確な手術が可能
・痛みを我慢せず、早期発見・早期治療が回復への近道
痛みの先にある「希望」
股関節の痛みは“老化”ではなく、体からのSOSです。
正しい知識を持ち、信頼できる専門医に相談すれば、もう一度軽やかに歩く未来は取り戻せます。
歩ける喜び、好きな場所へ行ける幸せ――その第一歩を、今日から踏み出してみてください。
最後に、この内容は番組の内容と異なる場合があります。
参考・出典リンク
・神奈川リハビリテーション病院 公式サイト(https://www.kanagawa-rehab.or.jp/)
・ホスピタルズ・ファイル 杉山肇 医師紹介ページ(https://hospitalsfile.doctorsfile.jp/)
・PMDA「ジョイクル関節注30mg」医薬品情報(https://www.pmda.go.jp/)
・オノ薬品工業株式会社 プレスリリース(https://www.ono.co.jp/)
・みえロコモリウマチクリニック 関節注射情報(https://mie-locomo.com/)
・東京医科歯科大学 整形外科 再生医療研究(https://www.tmd.ac.jp/)
・産業医科大学 若松病院 整形外科(https://www.uoeh-hosp.jp/)
・人工関節ドットコム(https://www.jinko-kansetsu.com/)
・津山中央病院 整形外科(https://www.tch.or.jp/)
・パークタワー西新宿整形外科クリニック(https://www.parkortho.com/)
・北水会記念病院 股関節外科情報(https://hokusuikai-kinen.jp/)
・神奈川新聞 タウンニュース 医療特集(https://www.townnews.co.jp/)
(出典の内容は番組および関連資料に基づくものであり、最新の医療情報は各公式サイトをご確認ください)
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