「ベルトラッキ贋作事件」世界をだました衝撃の真実
日本の美術館が、数千万円もの税金を投入して購入した作品が“贋作”だった――。
このニュースは全国に大きな衝撃を与えました。番組では、その裏で暗躍したヴォルフガング・ベルトラッキという人物に直接迫り、彼がどのように世界を欺き、なぜ今もなお“天才贋作師”と呼ばれ続けるのかを明かしていきました。
美術館の信頼、文化財の価値、そして「本物の美とは何か」。
この事件が投げかけるテーマは、決して美術界だけの問題ではありません。
NHK【未解決事件 File.06 詐欺村 国際トクリュウ事件】カンボジアの海外詐欺拠点と“かけ子軟禁”の実態に迫る深層まとめ|2025年11月15日
日本で次々と浮上した贋作疑惑の連鎖
2025年、日本の美術館で相次いで“贋作疑惑”が浮上しました。
まず発覚したのは、高知県立美術館が購入した一枚。税金1800万円を投じた作品が、実はベルトラッキが1990年ごろに描いた贋作だと判明しました。
続いて、徳島県立近代美術館でも同様の問題が発生。こちらは6720万円というさらに高額の税金が投入されており、美術館の信用にも大きな影響が及びました。
さらに岡山県鏡野町にある企業ギャラリーでは、ジャン=フランソワ・ミレーやピエール=オーギュスト・ルノワールなどの作品が並ぶ中、「モンパルナスのキキ」に贋作疑惑が浮上。管理を担当する黒瀬さんが調査したところ、作品裏面に“ベルトラッキのラベル”が残されており、疑いは確信へと変わりました。
作品の売買ルート、保管状況、来歴の確認など、全てが美術の信頼を揺るがす重大な問題となっています。
“私は美術史に名を残す男”ベルトラッキの素顔
取材班が向かったのはスイス・チューリヒ近郊。
そこで静かに暮らしていたのが、世界中の美術市場を揺るがせたヴォルフガング・ベルトラッキ本人でした。
彼は取材に対して、普通に絵を描いて売るよりも、“贋作を作るほうがワクワクした”と語りました。
彼にとって贋作は単なる模倣ではなく、まるで芸術家本人になりきって新たな作品を生み出す行為だったのです。
2006年、ドイツのオークションで出品された彼の贋作の一枚は4億4000万円で落札されました。
ところが科学調査により贋作と判明し、ベルトラッキは妻とともに逮捕されました。
しかし、彼の罪が確定したのは14点のみ。
理由は“時効”。
犯行から10年以上が過ぎた作品は法的に訴追できず、最終的には司法取引も行われ、懲役6年で刑期を終えました。
若いころから模写に優れ、パブロ・ピカソの作品を1日で描き上げて周囲を驚かせたという逸話も紹介され、スイスでは“天才贋作師”として扱われています。
世界を欺いた巧妙すぎる贋作の手口
ベルトラッキの手口は非常に巧妙でした。
彼が贋作を描いたハインリヒ・カンペンドンクの作品は、戦禍によって行方不明になったものが多く、“存在していてもおかしくない絵”が多数ありました。
そのため彼は、カンペンドンクの故郷を訪れ、絵画の雰囲気や色彩の特徴を徹底的に研究し、「私が描くのはコピーではない。新しい絵だ」と語りました。
販売役を担っていたのは妻のヘレン・ベルトラッキ。
彼女はクリスティーズに贋作を持ち込み、来歴(プロヴァナンス)も完全に偽装。
「誰が所有してきたか」が美術品の信頼に直結するため、この偽装が美術界に大きな混乱をもたらしました。
彼が偽装した画家は45名以上。
フィンセント・ファン・ゴッホ
ヨハネス・フェルメール
モイーズ・キスリング
など、作品の評価や特徴を再現しつつ、あえて「本物らしい一枚」を作り出すという方法でした。
特に知名度がそこまで高くない画家の場合、真贋の判断が難しく、そこにベルトラッキの付け入る隙がありました。
日本の美術館がなぜ騙されたのか
高知県立美術館の学芸員である奥野克仁さんは、名古屋の画廊から紹介を受けた作品を信じてしまいました。
その画廊はクリスティーズから購入しており、信頼度が高いと判断されたことが要因のひとつ。
しかも当時の美術館は開館から間もなく、収蔵品を増やしたい一心で購入に踏み切ったという背景がありました。
ベルトラッキは取材で「1980年代末、日本の美術ブームは異様なほど熱狂的だった」と語っています。
日本市場は、贋作が入り込みやすい環境だったのです。
“あなたは何のために贋作を?”問いかけの先にあった答え
番組では、岡山のギャラリーが「モンパルナスのキキ」が贋作だったことを公表した場面も紹介されました。
管理担当の黒瀬さんはリモートでベルトラッキと直接やり取りし、問いかけました。
対してベルトラッキは、「その作品は今もキスリングの作品。私は彼になりきって描いたのだから」と語り、謝罪も反省も一切示すことはありませんでした。
この回答は、美術を愛する人々に大きな衝撃を与えました。
行方不明の贋作は今どこに? ハッカーが突き止めた意外な場所
番組では、捜査機関と連携してきた日本ハッカー協会のホワイトハッカーが協力し、ネット上の情報を分析しました。
すると、ベルトラッキの贋作と酷似した絵がSNSに投稿されているのを発見。
さらに調査すると、その作品はスペイン・マドリードのソフィア王妃芸術センターに展示されていたのです。
この美術館は、1995年から約30年間その作品を所蔵していました。
来歴をたどると、その絵画は過去にヘレン・ベルトラッキがオークションに持ち込んだことが判明。
国立美術館が贋作の疑いで作品を取り下げるのは初めてだとされ、世界中の美術機関に大きな波紋が広がりました。
贋作が突きつける“本物の美”とはなにか
贋作がコレクションに混ざると、コレクターの評価や美術館の信頼が失われるため、協力を拒むケースも多いといいます。
しかし、高知県立美術館はあえて“ベルトラッキの贋作”として作品を公開していく方針を選びました。
岡山のギャラリーの黒瀬さんは、
「キスリングの気持ちになって描ける人はキスリングだけ。人の心は分からない」
と語りました。
この言葉には、美術における“本物”の価値と、人が作品に込める思いの深さがあらわれています。
まとめ
・世界を欺いたヴォルフガング・ベルトラッキ
・高知・徳島・岡山など日本でも次々と贋作が発覚
・巧妙な手口で45名以上の画家になりきって作品を制作
・贋作は時に美術市場の盲点を突き、プロでも判断が難しい
・“本物”の価値とは何かを改めて考えさせられる回だった
美術の世界に潜む危うさ、そして芸術の本質に触れる内容で、放送を見た多くの視聴者に深い余韻を残す回でした。
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