未解決事件「逃亡犯へ 遺族からの言葉」心の叫びが突き刺さる夜
人が生きていくうえで、時間は何よりも大切なものです。しかしその時間が、ある日突然“止まったまま”になる人たちがいます。愛する人を理不尽に奪われ、犯人が見つからないまま年月だけが過ぎていく——。2025年11月1日放送のNHK総合『未解決事件 File.04 逃亡犯へ 遺族からの言葉』は、そんな「止まった時間」を生きる遺族たちの“心の声”に寄り添いました。
この記事では、番組で紹介された2つの事件——名古屋市西区の主婦殺害事件と、埼玉県熊谷市の小学生ひき逃げ事件——を中心に、その真実と想いを詳しくたどります。
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名古屋市西区主婦殺害事件 26年間の沈黙を破った真実
名古屋市西区で発生した主婦殺害事件は、1999年に起きた痛ましい事件です。主婦が自宅で何者かに襲われ、命を奪われました。事件当時から警察は懸命に捜査を続けましたが、決定的な手がかりをつかめず、25年以上が経過。遺族である高羽さんは、事件の風化を恐れ、情報提供を呼びかけ続けてきました。
番組では、高羽さんが「隙を見せたら捕まえるよというプレッシャーを与え続けたい」と語っていました。その言葉には、怒りよりも“信念”がありました。長年、犯人が自由に暮らしている現実と向き合いながら、希望の火を消さなかったのです。
警察はこれまでに複数の似顔絵を作成し、犯人像を追い続けてきました。捜査員たちは「犯人は60〜70代になっている」と見て、関係者や目撃情報を洗い直しました。
そして2025年10月31日、衝撃の展開が訪れます。69歳の女性が警察署に自ら出頭し、「私があの事件の犯人です」と名乗り出たのです。しかも、その人物は高羽さんの高校時代の同級生でした。
事件発生から実に26年。警察は高羽さんに対し、「26年間、お待たせして申し訳なかった」と涙ながらに伝えたといいます。この言葉には、長年事件を追い続けた捜査員たちの無念と、ようやく報いることができた安堵がこもっていました。
遺族にとっても、事件は“解決”ではなく、“一区切り”。それでも、26年間抱え続けた重荷をようやく少し下ろせた瞬間だったのでしょう。高羽さんは「これで母の魂が安らげる」と静かに語りました。
埼玉・熊谷 小学生ひき逃げ事件 「時効まで4年」母の終わらない闘い
2009年9月30日、埼玉県熊谷市。夕方、習い事の帰りに自転車で走っていた10歳の男の子が、車にはねられて亡くなりました。事故を起こした車はそのまま逃走。男の子の母、代里子さんは、一瞬にして息子を失いました。
夫を早くに亡くし、息子と二人で支え合ってきた生活。事件から15年以上が経った今も、代里子さんの時間はあの日のまま止まっています。
この事件には、奇妙な点がありました。事故現場には複数の車の痕跡があり、「二台の車が関与した可能性」が指摘されていたのです。番組に出演した小林大地さん(元捜査官)は、「1台目が接触し、転倒した少年を、2台目の車が避けきれずにひいた可能性が高い」と分析しました。
さらに小林さんは「どちらの運転手も衝撃を感じていたはず。気づかなかったという言い訳は通らない」と断言。この発言に、代里子さんは静かにうなずきました。真相を知る誰かが、まだ沈黙している——そんな現実を見つめ続けています。
事件の時効は2029年。残された時間はあと4年です。しかし、代里子さんは止まることなく行動を続けています。毎年命日に現場を訪れ、通り過ぎる車のナンバーを記録。さらに「死亡ひき逃げ事件の時効撤廃」を訴え、全国に署名を呼びかけてきました。その署名数はいまや15万筆に達しました。
心が折れそうな日々の中で、彼女を支えているのは、息子が初めて自分のために買ってくれた小さなお土産。「これを見ると、あの子が“まだ一緒にいる”気がする」と話していました。
2024年の命日、代里子さんは地元ラジオ局に出演し、犯人に向けて手紙を読み上げました。「あなたの人生は、誰かの命の上にあります」と。その声は、静かで、しかし強い決意を宿していました。現在も熊谷警察署が情報を求め続けています。
遺族の言葉が社会を動かす力になる
番組の中で語られたのは、決して“過去”の出来事ではありません。事件の現場も、遺族の痛みも、今も現在進行形で続いています。和久田麻由子アナウンサーが冷静な語り口で事件の経緯を整理しながらも、言葉の端々にこもる温かさが印象的でした。
また、江川紹子さんは「事件を風化させないためには、社会全体が“忘れない努力”をすることが必要」と語り、壇蜜さんは遺族の思いに寄り添う表情で画面越しに涙をこらえていました。番組が単なる再現ドキュメントではなく、“命の尊厳”を見つめる時間になっていたのです。
「未解決事件」という言葉の裏には、いまだに“終わらせられない人生”が存在します。
遺族たちは「犯人を恨むためではなく、真実を知りたいだけ」と語ります。犯人に向けた言葉は、怒りよりも「どうして?」という問い。番組タイトル『逃亡犯へ 遺族からの言葉』は、まさにその“問い”を形にしたものでした。
まとめ:未解決のまま終わらせないために
この記事のポイントは次の3つです。
・名古屋市西区の主婦殺害事件は、26年を経て犯人が自首。高校の同級生という衝撃の真実が明らかになった
・埼玉県熊谷市の小学生ひき逃げ事件は、時効まで4年。母親が署名活動を続け、15万人が共感と支援を寄せている
・番組全体を通して、「風化させない」という強い意志と、“人の声が社会を動かす”という希望が描かれた
未解決事件を追うのは、過去を掘り返すことではありません。それは、未来に同じ悲しみを繰り返さないための行動です。ひとつの情報提供が、長い年月を越えて真実を導くかもしれません。
もしも記憶の片隅に気になる出来事や人物がいるなら、今こそ声を上げる時です。その声が、誰かの止まった時間を、再び動かす力になるかもしれません。
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