戦後80年を見つめる“地方の時代”映像祭の深層へ
このページでは『TVシンポジウム 第45回「地方の時代」映像祭2025(2026年2月15日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
戦後80年という節目に、地域で生きる人々の声と戦争とメディアの関係を改めて問い直す特別な回です。
静かに始まる語りの中に、今を生きる私たちへの問いが潜んでいます。地方の現場から紡がれた映像が、なぜ今これほど深い意味を持つのか。その理由を読み解いていきます。
戦後80年を見つめる「地方の時代」映像祭とは
番組の舞台になっている「地方の時代映像祭」は、1980年にスタートしたドキュメンタリー映像の祭典です。吹田市と関西大学、NHK、日本民間放送連盟、日本ケーブルテレビ連盟などが主催し、「地域と時代を伝える記録」をテーマに全国から映像作品が集まります。これまでに集まった作品は7,000本以上。半世紀近く続く、大規模なコンテストです。
第45回となる2025年大会は、第二次世界大戦の終結から戦後80年という節目の年。会場は関西大学千里山キャンパスで、贈賞式、記念講演、グランプリ作品上映、そして今回の番組で大きく取り上げられるシンポジウムが行われました。
今回のシンポジウムのテーマは、番組タイトルにもなっている「戦後80年“戦争とメディア”を問い直す」。ウクライナや中東で戦争が続き、SNSで情報があふれる今、「戦争をどう伝えるべきか」という重い問いを、現場を知るジャーナリストたちが語り合います。
冤罪と向き合い続けた袴田ひで子さんの記念講演
番組の前半では、記念講演の様子が紹介されます。登壇するのは、1966年の「袴田事件」で死刑判決を受け、その後の再審で無罪が確定した袴田巌さんの姉、袴田ひで子さんです。
袴田事件は「戦後最大の冤罪事件」とも呼ばれています。静岡県の味噌工場で起きた一家4人殺害事件をめぐり、元プロボクサーの袴田巌さんが逮捕・起訴され、長年死刑囚として拘束されました。その後、証拠のねつ造などが指摘され、再審の末に無罪判決が言い渡されます。
講演でひで子さんは、弟の無実を信じて58年間闘い続けた日々を、静かな口調で語ります。裁判所に通い続けたこと、メディアの取材に応じてきたこと、そして高齢になっても「同じような冤罪で苦しむ人を二度と出したくない」と願い続けていること。
番組では、会場で真剣に耳を傾ける参加者の表情とともに、事件を伝えてきたニュース映像やドキュメンタリーの一部も挿入されます。ここで浮かび上がるのは、「メディアは弱い立場の人にどこまで寄りそえたのか」「誤った報道は人の人生をどれほど左右してしまうのか」という問いです。
背景として、冤罪事件を追い続けてきた報道記者や映画監督が、長期取材を通して真実に近づいていく事例も紹介されます。これは世界各地でも同じで、アメリカやヨーロッパでは、冤罪をテーマにした調査報道が司法制度を変えるきっかけになったケースも多くあります。
森達也さんが導く「戦争とメディア」の本音トーク
シンポジウムのモデレーターを務めるのは、映画『A』『A2』などでオウム真理教報道を問い直してきた作家・映画監督の森達也さんです。
森さんは、「戦場を語るとき、メディアはつい『善と悪』『勝者と敗者』で世界を分けてしまう」と指摘します。そして、報道する側が抱えがちなバイアスや、視聴者が「わかりやすさ」を求めるあまり複雑な現実が切り捨てられていく危うさに触れていきます。
パネリストとして登壇するのは、次の4人です。
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大島隆之さん(NHKエンタープライズ シニア・プロデューサー)
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伊藤秀男さん(伊那ケーブルテレビジョン 常務取締役)
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松本早織さん(沖縄テレビ放送 報道局 報道部 記者)
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須賀川拓さん(戦場記者・元TBS中東支局長)
番組では、それぞれのこれまでの代表作や、取材で訪れた地域も紹介されます。たとえば大島さんは、戦争体験の継承をテーマにしたNHKのドキュメンタリー制作を通して「家族の記憶をどう映像にするか」を考え続けてきた人。伊藤さんは長野県伊那市を拠点に、ローカル局だからこそ撮れる戦争体験者の証言番組を手がけてきました。
松本さんは、沖縄戦の記憶と基地問題を重ね合わせる取材で知られています。基地の町で育った若者たちのインタビューを積み重ねることで、「戦後」と「今」が地続きであることを描いてきました。
須賀川さんは、シリアやイラクなど中東の紛争地から、現地住民の生活や子どもたちの姿を伝えてきた戦場記者です。番組では、防弾チョッキやヘルメットを身につけて取材する映像が流れ、「カメラの後ろには常に恐怖がある」と率直に語る場面も映し出されます。
地域から見える「戦争」の影と、ローカルメディアの役割
シンポジウムで大きな柱になるのが、地方メディアが戦争をどう伝えてきたかというテーマです。
伊那ケーブルテレビジョンが制作した、地域の戦争体験者にじっくり話を聞く番組では、東京のニュースではなかなか扱われない、小さな町の物語が掘り下げられてきました。出征兵士を送り出した村の小さな駅、戦争孤児を支えた人々、空襲を受けた地方都市など、どれも「全国ニュース」にはなりにくいテーマです。
しかし、そうしたローカルな記録こそが、のちに歴史研究や教育で貴重な資料になります。番組の中では、地方局やケーブル局が撮りためてきたフィルムやビデオが画面いっぱいに映し出され、「地方の時代」映像祭がそのアーカイブを発掘・評価してきたことも紹介されます。
ここで、一般的なメディア研究の知見として「戦争体験の継承は、ナショナルな物語だけでなく、地域ごとの等身大の記憶からなるモザイクだ」といった説明も挿入されます。全国ネットの番組だけでは決して見えてこない細部を、ローカルメディアが支えている、という視点です。
ウクライナ・中東…今も続く戦争とニュースの難しさ
討論の後半では、視線が現在進行形の戦争へと移ります。
ウクライナ侵攻やガザ地区をめぐる戦闘では、SNS上で映像が瞬時に拡散し、人々は現場の映像をほぼリアルタイムで目にすることができます。その一方で、情報の真偽が分かりにくく、プロパガンダ映像も大量に流れています。
ここで議論になるのが、「プロのメディアはSNSとどう違うのか」という点です。パネリストたちは、次のようなポイントを挙げます。
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情報の出どころを徹底して確認すること
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被害者だけでなく、加害の側の歴史や背景も取材すること
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感情的な映像だけでなく、数字や地図、時間軸で補足すること
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一枚の写真を切り取る前後に何が起きていたのかを伝えること
番組の中では、ウクライナや中東のニュース映像が例として流れ、「この映像だけで何がどこまで分かるのか」を一つ一つ検証していきます。視聴者にとっても、「ニュースを受け取る側のリテラシー」が問われていることが自然と理解できる構成です。
また、海外メディアとの比較にも触れます。欧米の公共放送が、政府の発表とは距離を置きながら戦争報道を続けている事例や、現地のフリーランス記者が命がけで情報を伝えている現状など、国際的な視野からも戦争とメディアの関係が語られます。
視聴者一人ひとりに向けられた「問い」
最後に、シンポジウムと番組がいちばん伝えようとするメッセージは、「メディアを信じるかどうか」だけではありません。
それは、視聴者である私たち一人ひとりが、
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どんなニュースを選んで見ているのか
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「好き・嫌い」だけで情報源を決めていないか
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自分の意見と違うニュースに触れる機会を意識的につくれているか
を、戦後80年の今あらためて考えてみてほしい、という呼びかけです。
「地方の時代」映像祭は、地方の声や少数者の声に光を当ててきた映像祭です。その舞台だからこそ、戦争とメディアという重いテーマを、「専門家だけの議論」ではなく、地域で暮らす人たちと共有する場にしようとしていることが、番組全体から伝わってきます。
視聴し終えたとき、きっと「ニュースをただ流し見するのではなく、少し立ち止まって考えてみよう」と感じるはずです。地方から、そして現場から問い直される戦後80年。その中で、私たち自身がどんな姿勢でメディアと向き合うかを考えるきっかけになる回だと言えます。
まとめ
この記事は番組内容をもとに構成していますが、実際の放送と異なる場合があります。
戦後80年の節目に、地域から見える声と戦争とメディアの関係を深く考えさせられる内容でした。多様な立場の語りが重なり合い、私たちが日々受け取る情報の意味を改めて見つめ直すきっかけになります。
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