上野彦馬が切り開いた“写真の時代”
このページでは『先人たちの底力 知恵泉 選 日本カメラマン列伝・上野彦馬 新技術にこめた信念(2026年2月17日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
長崎で異国の技術に触れ、独学で写真術を磨いた上野彦馬。坂本龍馬ら志士を写し、日本初の従軍カメラマンとして歴史の現場に立ったその姿は、時代を先取りした挑戦そのものです。彼がなぜ新しい技術に挑み続けたのか。その背景にある信念を、番組でひもといていきます。
上野彦馬という人物像と番組の見どころ
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番組の主人公は、幕末から明治にかけて活躍した写真家の上野彦馬です。長崎で生まれ育ち、当時としては最先端だった写真術にいち早く取り組みました。坂本龍馬や高杉晋作といった志士たちの写真を残し、日本の近代史を「写した人」として知られています。
今回の知恵泉では、写真館の主としての顔だけでなく、薬品づくりに挑んだ科学者的な一面、日本初の従軍カメラマンとして戦場を撮った視点など、「新技術にこめた信念」がいろいろな角度から掘り下げられます。スタジオではフォトジャーナリストの渡部陽一やアーティストの篠原ともえが、その生き方から現代にも通じるヒントを読み取っていきます。
長崎で生まれた日本最初期の写真館と新技術への挑戦
長崎は、鎖国時代から外国との窓口だった港町です。医術や科学、写真などの新しい知識は、まず長崎に入ってきました。そうした場所で、上野彦馬は蘭学者の父・上野俊之丞の背中を見て育ち、若い頃から化学に親しんでいたとされています。
やがて彼は、オランダ人医師ポンペらから舎密学(化学)を学び、写真術にも強い興味を持つようになります。当時の日本では写真に必要な薬品や機材はほとんど手に入らず、「どうやって揃えるか」からのスタートでした。
文久2年(1862年)ごろ、上野は中島川のほとりに日本最初の本格的な商業写真館「上野撮影局」を開きます。最初は長崎に滞在する外国人が主なお客さんでしたが、次第に日本人の客も増え、やがて坂本龍馬や高杉晋作など幕末の志士たちも、ここで写真を撮ったといわれています。
当時の写真撮影は、数十秒から数分間じっと動かずにいなければならず、光の具合も繊細でした。上野は、限られた自然光やレンズの性能を最大限に生かしながら、人物の表情や佇まいを鮮明に写し取る工夫を重ねていきます。こうした試行錯誤の積み重ねが、日本のポートレート写真の原型を作ったともいえます。
書物と牛骨から生まれた薬品づくりの執念
番組の大きなポイントが、写真撮影に欠かせない薬品を自分の手で作り上げていったエピソードです。上野は外国の書物だけを頼りに、感光材料や現像液に使う薬品を一つひとつ自作していきました。
特に印象的なのが、アンモニアを得るために「肉付きの牛骨を地面に埋め、腐らせてガスを取り出した」という話です。強烈な臭いに耐えながら試行錯誤を続けた結果、近所から苦情が出て奉行所に訴えられてしまったというエピソードは、彼の執念深さと、当時の写真技術がどれほど“実験的”だったかを物語っています。
また上野は、化学入門と写真術の手引きを兼ねたテキストをまとめ、自分の知識を他人に惜しみなく公開しました。こうした教科書は、明治初期の若い写真家たちにとって、貴重な指針になったとされています。新しい技術を独り占めするのではなく、“分かち合うことで広げる”姿勢が、彼の大きな特徴です。
ここで少しだけ専門的な補足です。19世紀の写真術では、塩化銀や硝酸銀といった光に反応する化合物をガラス板などに塗り、露光後に現像・定着する必要がありました。薬品の配合を少し変えるだけで、像の鮮明さや保存性が大きく変わります。上野が化学に強かったことは、単なる「趣味」ではなく、写真の品質を左右する重要な武器だったのです。
西南戦争を記録した日本初の従軍カメラマン
明治10年(1877年)、日本は近代国家への転換点ともいえる西南戦争を経験します。このとき上野は、日本初の本格的な従軍カメラマンとして戦場に赴きました。彼が撮った写真には、砲台や兵士たち、野営地の様子などが静かな雰囲気で収められています。
注目すべきなのは、上野が一貫して「亡くなった兵士の姿を写さなかった」と伝えられている点です。欧米の戦争写真では、クリミア戦争や南北戦争のころから、戦死者の姿が生々しく撮られることも多くありました。それに対して上野は、戦場の“空気”や兵士たちの緊張感を記録しつつも、亡くなった人の姿を直接写真に残すことは避けました。
そこには、「写真は真実を伝える道具であると同時に、人の尊厳を守る道具でもある」という考え方があったと解釈できます。彼が撮った西南戦争の写真は、第1回内国勧業博覧会にも出品され、評価を受けましたが、その裏にはこうした哲学があったのです。
現代の報道写真でも、遺体をどこまで映すべきかという議論は続いています。上野の選択は、150年近くたった今も、写真の倫理を考えるうえで一つの基準になりうると言えます。これは番組の中でも重要なテーマとして扱われるポイントです。
放送内容についてのご案内
この記事は放送前の情報をもとに構成しており、実際の放送内容と異なる場合があります。番組では、写真史を切り開いた上野彦馬の歩みや信念が多角的に紹介される予定です。歴史的背景や人物に関する記述は確認できる史料を基にまとめていますが、映像演出や語られるエピソードには変更が生じることがあります。
NHK【謎解きドキュメント】西郷隆盛の“消えた写真”を追え!幕末写真館と隠れ西郷の里の真相 2025年8月12日放送
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