別府温泉・油屋熊八の人気アップ戦略とは
もうすぐ夏休みが始まります。観光地の計画を考えている方も多いのではないでしょうか。そんな時期にぴったりのNHKの番組「先人たちの底力 知恵泉」では、大分県の別府温泉を全国区に押し上げた油屋熊八(あぶらや くまはち)の知られざる挑戦とアイデアが紹介されます。今では誰もが知る別府温泉も、かつては地味な湯治場にすぎませんでした。そんな別府を観光地として生まれ変わらせた熊八の知恵と行動力にスポットが当たります。
地味な湯治場を観光地に変えた男
油屋熊八は1863年、愛媛県宇和島の米屋の長男として生まれました。若いころは大阪に出て、米相場で成功を収めますが、その後大きな失敗をし、財産をすべて失ってしまいます。しかし熊八はあきらめず、人生を立て直すためにアメリカ、カナダ、メキシコを巡る旅に出ます。この旅の中で出会ったキリスト教の教えに心を打たれ、「旅人を懇ろにせよ」という精神を学びます。この経験が、後の別府の観光づくりに大きな影響を与えることになりました。
帰国後の1911年、熊八は別府に「亀の井旅館(現在の亀の井ホテル)」を創業します。宿泊客を丁寧にもてなすことを大切にし、洋風料理を提供したり、駅までの迎えや自動車の手配、さらには病気やケガのときの看護まで用意するなど、当時としては革新的なサービスを実現しました。さらに熊八は旅館経営だけにとどまらず、観光バス会社「亀の井バス」を立ち上げたり、港や自動車道の整備にも積極的に関わり、別府全体を大きく発展させていきました。
奇抜なアイデアが生んだ別府の人気
熊八が別府観光の目玉として考えたのが「地獄めぐりバスツアー」です。別府には昔から温泉の噴気が立ち上る「地獄」と呼ばれる場所がありましたが、当時は不気味な場所として嫌われていました。ところが熊八はこの「地獄」を逆に観光資源に変えてしまったのです。
1928年には日本で初めて女性バスガイドを起用し、地獄めぐりを案内するバスツアーをスタート。七五調の楽しい語り口でのガイドが大人気となり、観光バスのスタイルが全国に広がりました。地獄と呼ばれていた場所が、今では別府観光に欠かせない名所になったのです。
また、熊八は自身の大きな手のひらを活かした「全国大掌大会」を考案し、別府の名前を広めるユニークなイベントを開催。さらに、「山は富士、海は瀬戸内、湯は別府」というキャッチコピーを作り、富士山頂に標柱を立てたり、全国各地で別府の宣伝看板を掲げるという大胆な発想で話題を集めました。さらには、大阪の空に飛行機を飛ばし、空からビラを撒くという奇抜な宣伝方法まで実行しました。
影響力のある人を活用したPR戦略
熊八は当時の有名な文化人や実業家との交流を大切にし、別府の魅力を全国に広めました。大正時代には「別府宣伝協会」を設立し、作家や芸術家たちを別府に招待。彼らが別府の良さを広めることで、多くの観光客を呼び込むことに成功しました。
特に1914年には渋沢栄一を別府に招き、数日間、熊八と妻が心を込めておもてなしをしました。この訪問は新聞にも大きく取り上げられ、別府の知名度が一気にアップしました。また、「全国大掌大会」には歌人の与謝野鉄幹・晶子夫妻を審査員として招き、会場を盛り上げるとともに、その話題性が全国に広まりました。
こうした文化人や影響力のある人たちと協力し、熊八は別府温泉を観光地として育てていったのです。
豪華列車「ななつ星」と熊八の共通点
今回の番組には、JR九州の豪華列車「ななつ星 in 九州」をプロデュースした唐池恒二さんも出演します。唐池さんは熊八の発想に深く共感し、尊敬している人物です。「ななつ星」も、ただ移動するだけでなく、九州各地の食材や音楽、景色を楽しめる贅沢な旅として、多くの人に感動を与えています。
熊八も「見る温泉」「楽しむ温泉」という新しい観光スタイルを別府で実現しました。二人の共通点は、感動を生む発想力と、地域を盛り上げたいという強い地域愛です。また、熊八は富士山頂や全国で別府の看板を掲げるなど大胆な宣伝を行い、唐池さんも鉄道以外の事業にも取り組み、地域全体の魅力を高めています。
二人とも「感動こそが人を動かす」という考え方を大切にし、人とのつながりを通じて地域を元気にしてきました。
熊八の知恵から学ぶ、これからの観光
「先人たちの底力 知恵泉」では、こうした熊八の挑戦と知恵をわかりやすく紹介します。地元別府に住む中島知子さんも出演し、初めて知る熊八のエピソードに驚きます。観光地づくりのヒントや、現代にも通じる地域活性の知恵がたっぷり詰まった内容です。夏休みの旅行を考えている方や、地域を盛り上げたいと思っている方におすすめです。
【番組情報】
放送日:2025年7月1日(火)
時間:22:00~22:45
放送局:NHK Eテレ(教育テレビ)
番組名:「先人たちの底力 知恵泉」別府温泉・おきて破りの人気アップ戦略
【出演者】
ゲスト:唐池恒二さん、中島知子さん、植松三十里さん
司会:藤井彩子さん
【ソース】
https://www.nhk.jp/p/chieizu/ts/KX6VJ4LJ56/episode/te/GP9MN1WPM3/
https://ja.wikipedia.org/wiki/油屋熊八
https://city.beppu.oita.jp/doc/gakusyuu/bunkazai/yukemuri_keikan/02_08.pdf
https://www.kotobus-express.jp/column/2020/03/post-157.html
https://www.projectdesign.jp/201812/book/005734.php
現在の別府温泉の楽しみ方と最新スポット紹介

ここからは、私からの提案です。別府温泉は、油屋熊八が築いた観光の基盤の上に、今も進化を続けています。温泉だけでなく、体験型施設やカフェ、SNS映えスポットが増え、国内外から多くの観光客が訪れています。
「地獄めぐり」は、別府観光の定番コースとして有名です。現在は7つの個性的な地獄を巡るスタイルが主流で、それぞれに違った湯けむりや色の温泉が楽しめます。特に最近は「夜の海地獄」のライトアップが話題になっています。湯けむりとカラフルな光が幻想的に交わり、写真映えすると人気です。昼間とは違った表情を見せる夜の地獄は、カップルや家族連れにもおすすめです。
さらに、別府ではSNS映えするカフェも増えています。「地獄温泉ミュージアム」併設の「50CAFE」では、温泉の歴史を学んだあと、スイーツや足湯でゆっくり過ごせます。ガラス張りの店内からは、湯けむりの風景が見え、観光の合間の休憩にぴったりです。
また、韓国発のスイーツ「クロッフル」が楽しめる「Cozy Kroffle Cafe」も、若者を中心に注目されています。温泉街のレトロな景色とモダンなスイーツの組み合わせが人気で、海外観光客の姿も多く見かけます。
インバウンド観光客にも人気の最新スポットとしては、2022年にオープンした「地獄温泉ミュージアム」があります。ここでは、雨が地下にしみこみ、温泉水として湧き出すまでの流れを、床一面のプロジェクションマッピングで体験できます。英語対応も充実しており、外国人観光客にもわかりやすく、学びながら楽しめる施設です。
別府の老舗温泉「ひょうたん温泉」も見逃せません。ミシュラン三ツ星を獲得した施設で、サウナや砂湯、家族風呂など様々なスタイルの入浴が楽しめます。天然の湯けむりに包まれながら、ゆったりとした時間が過ごせるため、リピーターも多い場所です。
地元グルメも進化を続けています。昔ながらの製法を活かした「地獄蒸しプリン」は、温泉の蒸気でじっくり蒸し上げた濃厚な味わいが特徴です。岡本屋売店などで販売されており、SNS映えするスイーツとしても注目を集めています。
鉄輪エリアでは、「ジオサウナ」や砂湯も人気です。温泉地ならではの自然の恵みを活かした体験型の観光が充実し、昔からある湯治の文化を、今風に楽しめるようになっています。
旅行者が別府で楽しめるポイントはたくさんあります。
・夜のライトアップ地獄で幻想的な湯けむり写真が撮れる
・歴史が学べる地獄温泉ミュージアムで、足湯とスイーツのセットが楽しめる
・ミシュラン三ツ星のひょうたん温泉で贅沢な入浴体験
・名物「地獄蒸しプリン」を巡る食べ歩きもおすすめ
・鉄輪地区で、砂湯やジオサウナといった自然を活かした体験ができる
熊八の時代から続く観光の知恵が、現代のスタイルと結びつき、別府温泉は今も多くの人を惹きつけています。家族旅行や女子旅、インバウンド観光まで、誰でも楽しめる魅力が詰まった観光地です。
コメント