知恵と勇気と幸運の象徴!モンゴルの蒼きオオカミに密着|2025年3月23日放送
2025年3月23日にNHK総合で放送された『ダーウィンが来た!』は、モンゴルの雄大な自然に生きる「蒼きオオカミ」に密着した特集でした。番組では、警戒心が非常に強く、人目につくことが少ないオオカミたちの姿を追い求め、研究者やレンジャーとともに1年がかりで撮影に挑戦。その中で捉えられたのは、過酷な冬を生き抜くたくましい姿だけでなく、仲間との絆や家族愛、そして命をつなぐ知恵にあふれた暮らしぶりでした。番組を通じて、オオカミという存在がただの捕食者ではなく、モンゴルの人々にとって勇気・知恵・幸運の象徴として深く尊ばれている理由が丁寧に描かれていました。
第1章 厳冬に幻のオオカミを見た!
舞台はモンゴルの「ホスタイ国立公園」。ここは野生動物が数多く生息し、とりわけオオカミの研究が盛んに行われている地域です。今回の撮影を支えたのは、現地研究者のウーガンさんと、パークレンジャーのサンジさん。彼らは日々の観察から、園内に7つの群れ、合計40匹以上のオオカミが暮らしていると把握しています。
1月上旬、気温マイナス30℃という極寒の中で捜索をスタート。ウーガンさんが遠吠えを真似ると、遠くにオオカミの姿が。数日後には猛吹雪が襲いかかりましたが、草食動物の動きが鈍くなるこのタイミングこそ、オオカミたちにとっては狩りのチャンス。サンジさんが700メートル先にオオカミの群れを発見し、スタッフたちは密着撮影を決行しました。
その群れは9匹。父と母、そして子どもたちからなる家族構成です。特に父オオカミは一回り大きく、リーダーとしての風格を漂わせています。オオカミの群れには厳格な序列があり、オス・メスのリーダーが明確に存在し、群れ全体を導いています。
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狩りの前には必ずスキンシップを行い、心と体をひとつに
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獲物はモウコガゼル。山の中腹の斜面にいた群れを、連携して包囲し仕留める
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前方から圧をかける個体、横から回り込む個体など役割分担も明確
こうした行動はまさにチームプレー。強さだけでなく、高度な知能と信頼関係がなければ成功しない戦術です。
オオカミは好き?嫌い? モンゴルの人々の声
オオカミはモンゴルでは伝統的に「知恵・勇気・幸運の象徴」とされ、チンギス・ハンの伝説にも登場するなど、神聖な存在として崇拝されてきました。しかし、現実には家畜を襲うこともあるため、現代の遊牧民にとっては悩ましい存在でもあります。
番組ではモンゴルの小中高生にアンケートを実施。「オオカミがヤギや羊を襲うから怖い」「馬の赤ちゃんを食べてしまうから嫌い」といった率直な声も聞かれました。遊牧民にとって家畜は家族同然の存在。オオカミがそれを襲うことは、大きな経済的打撃になるのです。
一方で、オオカミを完全に敵視せず、共に生きる道を模索する人もいます。バヤンガイ村に住むラマス・レンさんは、かつて家畜を襲われた経験があるにもかかわらず、「憎む気持ちはない。人間が自然界に踏み込んでいることの方が問題」と語ります。自然と共存する姿勢を大切にする、モンゴルの人々の深い考え方が表れていました。
第2章 命輝く夏!5兄弟に初密着
季節が変わり、6月のホスタイ国立公園には夏が訪れます。日が傾き始めた頃、生後2ヶ月の5匹のオオカミの子どもたちを発見。その後にやってきたのは、父と母のオオカミ。そして、さらにその上の世代にあたる年上の兄弟たち。実はこの群れ、父母+年上兄弟5匹+赤ちゃん5匹=12匹の大家族です。
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オオカミは父母だけでなく、兄弟も子育てに積極的に関わる
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子どもが幼いうちは、住処を転々としながら安全な場所を探す
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巣穴近くの水場では、無人カメラに仲良く水を飲む3匹の子オオカミが映る
7月になると子どもたちは生後3ヶ月に。日々の遊びの中で、体当たり、噛みつき、引きずるといった動きが見られますが、これらはすべて「狩りの練習」。特に複数で協力して相手の動きを封じる連携プレーは、将来の本番に備えた重要な訓練です。攻撃される側も、痛みを知り、防御の仕方を学びます。
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練習が終わると遠吠えをして絆を深める
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狩りの連携や集団行動は、遊びを通じて学ばれていく
その後、縄張り内にアカシカの大きな群れが出現。日が沈む頃、兄弟たちが子守をやめて動き出し、父オオカミが先頭に立って狩りが始まります。真っ暗になるまで続いたこの狩りでは、見事にアカシカを仕留めたことが、翌朝に残された骨から明らかになりました。
7月下旬、子どもたちはさらに成長し、自分の足でしっかりと歩き、探索するようになります。しかし、彼らを待ち受けるのは初めての冬。自然界では、生後間もない子オオカミの約7割が初めての冬を越せずに命を落とすという厳しい現実があります。
家族の絆と、自然の中で生きる知恵
番組を通じて、オオカミたちの姿からは家族を思う強い気持ち、仲間との協力、そして自然とともに生きるための知恵が伝わってきました。オオカミは、狩りの際だけでなく、日々の生活でもスキンシップを大切にし、毛づくろいや寄り添いながら眠ることで絆を深めています。獲物を仕留める勇ましさの裏には、仲間への信頼や、子どもを守ろうとする深い愛情があります。
モンゴルの人々もまた、オオカミとの距離感を見つめ直しながら共に生きてきました。自然を破壊するのではなく、どうやって調和を保つかを考える姿勢が、番組のメッセージとして強く印象に残ります。
『ダーウィンが来た!』を通して、私たちはオオカミの本当の姿を知り、自然とどう向き合うべきかを改めて考えるきっかけを得ることができました。オオカミは、ただの「野生動物」ではなく、人間にも通じる感情と絆を持った存在なのです。
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