郷土菓子と芸術が出会う場所『塩ようかん』の物語
和菓子といえば「甘い」イメージが強いですが、そこに塩をひとつまみ加えることで生まれる奥深さをご存じでしょうか。今回のグレーテルのかまどで取り上げられたのは、武井武雄が「故郷随一の味」と語った『塩ようかん』です。単純そうでいて奥が深く、子どもから大人まで多くの人に愛され続ける理由があります。「甘いだけのようかんとはどこが違うの?」「昔ながらの郷土菓子を家で作れるの?」といった素朴な疑問に応えながら、この記事では放送内容を踏まえ、文化的背景から実際の作り方までをじっくり紹介します。
武井武雄は大正から昭和にかけて活躍した童画家であり、芸術活動の一方で、食文化の記録者としても大きな足跡を残しました。その代表作が『日本郷土菓子図譜』。日本各地を巡り、169種類もの郷土菓子をスケッチし、味わい、コメントを残した画期的な記録です。甘さが強すぎる、個性が弱いなどと率直に書かれた寸評は、芸術家の主観を超えたリアルな「食の批評」として今も新鮮に響きます。この図譜には、現在では消えてしまった菓子も多く含まれ、当時の食文化を伝える重要な資料となっています。
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大正時代を彩った童画家・武井武雄
武井武雄は1894年に長野県諏訪に生まれました。童画運動を牽引し、子どもの感性を尊重する作品を数多く残しています。彼は「見る人の心をやわらかく包み込む」ような絵を描き続け、後の日本の絵本や児童文化に多大な影響を与えました。その活動の中で特にユニークなのが、芸術家として「食」にも目を向けたことです。
彼が『日本郷土菓子図譜』に取り組んだ背景には、大正から昭和初期にかけての児童文化の高まりがあります。子どもが育つ環境において、日々口にするお菓子もまた文化の一部であると考えたのです。実際に旅先や友人知人を通じて菓子を入手し、自ら食べ、絵に描き、感想を残す。そこには「芸術は暮らしに根ざしてこそ価値がある」という信念が感じられます。
故郷・諏訪の名物『塩ようかん』
そんな武井が「諏訪随一の味」と称したのが、諏訪に伝わる『塩ようかん』です。甘さの中にほんのりと広がる塩味が、ただの甘味とは違う奥深さを生み出します。これは味のアクセントとしてだけでなく、保存性を高める知恵としても役立ってきました。
諏訪の塩ようかんを代表するのが、新鶴本店。明治6年創業の老舗で、今も昔ながらの製法を守り続けています。地元で採れる寒天を用い、薪の火でじっくり練り上げることで、独特の食感と風味が生まれます。その緑色のパッケージは諏訪のおみやげ品としても有名で、観光客が「諏訪らしさ」を感じる一品となっています。市内のホテル売店や駅の売店、道の駅などでも広く販売されており、観光と日常をつなぐ存在です。
番組で紹介された塩ようかんの作り方
今回の放送では瀬戸康史が実際に塩ようかん作りに挑戦しました。材料は少なくシンプルですが、調理過程に伝統的な工夫が光ります。
【材料(流し缶1台分)】
・糸寒天 8g
・水 500ml
・グラニュー糖 260g
・小豆こしあん 700g
・塩 3g
【作り方】
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糸寒天を一晩水に浸して戻す。
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鍋に水と寒天を入れ、完全に煮溶かす。
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グラニュー糖を加え、溶けたらさらしでこす。
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小豆こしあんを加え、全体が1kgになるまでじっくり煮詰める。
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塩を加えてひと煮立ちさせる。
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流し缶に流し入れ、常温で固める。
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固まったら好みのサイズに切り分ける。
さらにアレンジとして『くるみ入り塩ようかん』も紹介されました。ローストしたくるみを粗く刻み、あんと混ぜ込むことで香ばしさと食感が加わります。また、甘酒クリームをサンドした上品な仕上げも提案され、伝統の味に新しい風を吹き込んでいました。
番組の見どころ
グレーテルのかまどは単なる料理番組ではなく、食を通じて人や文化の物語を描く番組です。今回も例外ではなく、キムラ緑子の語りが武井の作品世界を鮮やかに映し出しました。童画家としての姿と、食文化を記録した研究者としての側面。その両方を知ることで、塩ようかんという一つの和菓子が「郷土の象徴」として見えてきます。
甘味と塩味の絶妙なバランスに惹かれるだけでなく、そこには故郷を想う心や、文化を残そうとした武井の情熱が込められているのです。
まとめ
この記事のポイントは以下の3つです。
・武井武雄の『日本郷土菓子図譜』は、芸術と食文化を融合させた貴重な記録
・諏訪の塩ようかんは、甘さと塩味の調和で郷土の味を伝える存在
・番組では瀬戸康史が伝統のレシピとアレンジに挑戦し、新しい楽しみ方も紹介された
『塩ようかん』は、単なる和菓子ではなく、地域の記憶と芸術のエッセンスが詰まった文化の結晶です。一口味わえば、諏訪の風景や武井が見つめた大正の空気までも思い起こさせてくれます。ぜひ家庭でも挑戦し、伝統の味を体験してみてください。
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