なぜ早口ことばを言うようになったの?言葉遊びのルーツを探る
「東京特許許可局」「赤巻紙青巻紙黄巻紙」——誰もが一度は口にしたことのある“早口ことば”。言えそうで言えない、つい何度も挑戦してしまうあの独特の面白さ。けれど、なぜ人はわざわざ噛みやすい言葉を速く言おうとするのでしょうか?
2025年10月10日放送予定の『チコちゃんに叱られる!』では、この“早口ことばの謎”がテーマのひとつとして取り上げられる予定です。この記事では放送に先がけて、早口ことばの起源や広まりの背景をじっくり掘り下げてみます。
平安時代に芽生えた「速い言葉のリズム文化」
早口ことばのルーツは、意外にも平安時代初期にまでさかのぼります。当時の貴族社会では、文字だけでなく「言葉の響き」や「テンポ」を重んじる文化がありました。その中に、「早歌(はやうた・そうか)」と呼ばれる、速いテンポでリズミカルに詠む滑稽な歌が存在していたのです。
この「早歌」は、恋愛や風刺、世間話などを題材にしたもので、宴席で披露されることが多かったといわれています。つまり、当時の人々は言葉の“速さ”そのものを楽しむ感覚を持っていたのです。今でいう「早口ラップ」や「早口漫才」の原型に近い文化が、すでに千年以上前からあったということになります。
また、平安時代の貴族たちは「ことば遊び」や「なぞなぞ」を好み、リズム感や音の響きを重視した表現を美徳としていました。これが後の日本語の音韻感覚や「語呂合わせ」「早口言葉」といった文化につながっていったのです。
江戸の庶民が作り出した“滑舌のエンタメ”
時代が移り、江戸時代になると、庶民の間で「舌捩り(したもじり)」と呼ばれる言葉遊びが流行します。これは、発音が難しい言葉をあえて繰り返し言い、速く正確に言えた人を褒め称えるという遊び。寺子屋や茶屋、芝居小屋など、人が集まる場所で盛んに行われました。
当時の江戸の人々は、口調や間合い、言葉のテンポに非常に敏感でした。「粋(いき)」とされる話し方には、滑らかで歯切れのよい言葉運びが求められたため、早口で正確に話せることは一種の“技”とされていたのです。
特に有名なのが、歌舞伎役者 二代目市川團十郎による演目『外郎売(ういろううり)』。この作品の長台詞は、発音の難しい語句や同音反復の連続で構成されており、まるで現代の早口ことばのよう。
「盆豆、盆米、盆ごぼう」「菊、栗、菊、栗」「あわせて百八文」など、リズムの心地よさと滑舌の妙技が観客を魅了しました。観る人はそのスピードと正確さに感嘆し、笑いと驚きが混ざる時間を楽しんだといわれています。
この『外郎売』は後に、俳優や声優の発声練習にも使われるようになり、現代でも「日本語の滑舌トレーニングの原点」として受け継がれています。
早口ことばがもつ“文化としての意味”
では、なぜここまで人は「早口」に魅了されたのでしょうか?そこには、日本語ならではの言語文化が関係しています。
・遊びと笑いの文化
江戸の庶民文化では、言葉遊びや語呂合わせが娯楽の中心でした。早口ことばもその一環で、滑舌に失敗するほど場が盛り上がる“笑いのネタ”だったのです。
・技芸・話術の象徴
速く正確に話せることは、話芸や演劇における“腕前”の証明。話し手の力量を測る一種のステータスでもありました。
・音の美学
日本語は母音が多く、音の響きが柔らかい言語です。そのため、リズミカルな言葉の連続に独特の快感があり、耳で楽しむ文化が発達しました。早口ことばは、まさに「音を楽しむ日本語の芸術」といえます。
・教育と訓練の側面
寺子屋や現代の学校教育でも、発声練習や暗唱に早口ことばが活用されてきました。明治時代には“朗読練習”としても使われ、滑舌の鍛錬に最適な教材とされていたのです。
現代の早口ことばは“文化遺産”
現代では、テレビ番組やYouTubeなどでも「早口ことばチャレンジ」が人気を集めています。声優やアナウンサーが練習に使うだけでなく、バラエティ番組の定番企画にもなっています。
SNSでは、1分以内で噛まずに言えるかを競う動画も話題となり、「早口ことば」は世代を超えて楽しめる“日本語の遊び”として再評価されています。
また、心理学的にも早口ことばは脳の活性化に効果があり、発声によって口の筋肉や呼吸が整うため、健康面でも注目されています。まさに、言葉の歴史と人間の知恵が融合した“生きた文化遺産”といえるでしょう。
まとめ
この記事のポイントは以下の3つです。
・早口ことばの起源は平安時代の『早歌』で、速いリズムの言葉遊びがすでに存在していた。
・江戸時代には『舌捩り』や『外郎売』を通じて、庶民文化と話芸の中に定着した。
・現代では遊び・訓練・芸術の要素が融合し、SNSや教育現場でも息づいている。
『チコちゃんに叱られる!』(2025年10月10日放送予定)では、この早口ことばの歴史や文化的背景をチコちゃんらしい視点で楽しく解説。番組では「最も難しい早口ことばコンテスト」も行われる予定で、放送後にはその結果や挑戦者たちのエピソードも追記予定です。
ソース:
・ウィキペディア「早口言葉」 https://ja.wikipedia.org/wiki/早口言葉
・マナラボ「早口言葉の起源と話芸文化」
・JCKアカデミー「日本語における言葉のスピード表現史」
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