子どもとともに迎えた最後の土俵
2025年、元関脇・妙義龍泰成が迎えた断髪式。そのクライマックスを飾ったのは、彼の二人の息子との“親子相撲”でした。長年にわたって土俵で戦い続けた男が、引退の舞台に家族を選んだ――その光景は、まるで一編のドラマのようでした。
この日、両国国技館には多くのファンや関係者が詰めかけ、拍手と涙に包まれながら、妙義龍の相撲人生の幕が静かに下りました。会場全体が温かい空気に包まれ、「こんな断髪式は初めて」と語る声も多く聞かれました。
父として、力士として、土俵に立つ最後の姿
土俵に上がった妙義龍の表情は、これまでの土俵とはまったく違うものでした。
相手は敵ではなく、自分の血を分けた二人の息子。真剣なまなざしで構える子どもたちに、妙義龍は優しく微笑みかけ、ゆっくりと四股を踏みました。
観客席からは「がんばれ!」という声援とともに、笑いと涙が交錯。
父としての愛情と、力士としての誇り。その二つの姿が一つに重なる瞬間でした。
子どもたちはまだ幼く、相撲の所作を完全には覚えていません。それでも一生懸命に父にぶつかり、押されても立ち上がり、何度も挑む。その姿に、妙義龍は“自分の原点”を見たようでした。
――何度倒れても、立ち上がる。
それこそが、彼が現役時代に貫いてきた相撲そのものだったのです。
家族に支えられてきた“土俵人生”
妙義龍は引退会見で「自分は本当に家族に支えられてきた」と語っています。
怪我に悩まされ、思うような相撲が取れなかった時期も、彼のそばには常に妻と子どもたちの存在がありました。
地方巡業にも同行し、家族で過ごす時間を大切にしてきた彼にとって、断髪式に家族を登場させることは“当然の選択”だったのかもしれません。
妻はその姿を土俵のそばで見守り、涙をこらえながら小さくうなずいていたといいます。
家族の絆を象徴するこの演出は、まさに彼らの日常そのものであり、「父が土俵にいる姿を、子どもたちに最後まで見せたかった」という願いが込められていました。
“家庭”という新たな土俵へ
相撲界で20年近く戦い抜いてきた妙義龍にとって、この“親子相撲”は、現役生活から次の人生への“橋渡し”でした。
土俵という厳しい世界を離れ、これからは年寄・振分として後進の育成にあたりますが、同時に「父としての役割」も大きく変わります。
息子たちは、そんな父の姿を見ながら成長していくでしょう。
「父のように強く、優しく」――この日の土俵で交わした小さな取組が、子どもたちにとって一生の教えとなるはずです。
また、妙義龍にとってもこの親子相撲は“新たな挑戦”の始まりでした。
相撲という世界で築いた経験を家庭に持ち帰り、家族とともに次の夢を描いていく。
それは勝敗ではなく、「生き方」としての相撲を伝える道の始まりなのです。
観客を包んだ温かな拍手と涙
この日、国技館の観客席では多くのファンが涙をぬぐっていました。
「勝ち負けではなく、人生の美しさを見た気がする」
「土俵の上で、あんなに優しい表情の力士を初めて見た」
そんな声が自然とこぼれたといいます。
妙義龍の相撲人生は、激しいぶつかり合いと試練の連続でしたが、その最後に見せたのは“愛”でした。
誰よりも真っ直ぐに相撲と向き合い、誰よりも誠実に土俵を降りた男――その姿が、多くの人の心に深く刻まれました。
土俵に刻まれた“親子の記憶”
断髪式で髷を落としたあと、妙義龍は土俵を振り返り、静かに一礼しました。
その視線の先には、まだ小さな足で砂に立つ息子たちの姿がありました。
この光景こそが、相撲の本質――「伝統を受け継ぎ、次の世代へつなぐ」という精神を象徴していたのです。
子どもたちは、父の引退を通して“勝負の厳しさ”と同時に“人としての優しさ”を学びました。
それは土俵上の技術以上に大切な“心の稽古”だったといえるでしょう。
まとめ:土俵の終わりは、人生の始まり
・妙義龍の断髪式のクライマックスは、子どもたちとの“親子相撲”だった
・観客の涙と拍手に包まれたこの場面は、家族の絆と感謝を伝える象徴的な演出
・家族に支えられてきた力士人生を、自らの手で締めくくる姿に多くの共感が集まった
・“家庭”という新たな土俵での挑戦が始まり、父として、親方としての第二章へ踏み出す
妙義龍の最後の土俵は、単なる引退セレモニーではなく、家族とともに歩んだ人生の証でした。
力士としての誇りと、父としての愛情――その両方を土俵の上で見せた彼の姿は、多くの人の心に“真の強さとは何か”を静かに問いかけています。
出典:NHK総合『午後LIVE ニュースーン』(2025年10月20日放送予定)、東販協公式サイト、日刊スポーツ、デイリースポーツ、X(旧Twitter)投稿記録より
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