バラの香りに包まれて〜イザベラ・デステと「トルタ・デッレ・ローゼ」の物語〜
北イタリアの小さな街マントヴァで生まれた伝統菓子『トルタ・デッレ・ローゼ(Torta delle rose)』。その名のとおり、まるでバラの花束のようにふんわりと焼き上がるこのケーキには、ルネサンスの華と呼ばれたイザベラ・デステの美しい物語が隠されています。
「芸術とお菓子が出会ったら?」そんな夢のような問いに答えるのが、このケーキの誕生の背景です。この記事では、ルネサンス文化の中心で生まれた“お菓子のルネサンス”と呼ばれる物語を紐解いていきます。
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イザベラ・デステと祝福のバラ
イザベラ・デステは、15世紀のイタリア・ルネサンス期に活躍した女性貴族で、“ルネサンスの花”と称えられた人物です。彼女はフェラーラ公国の名門家に生まれ、1490年、マントヴァ侯フランチェスコ2世・ゴンザーガのもとへ嫁ぎました。
この結婚は政治的にも文化的にも大きな出来事で、マントヴァの宮廷文化に新しい風を吹き込みました。芸術家や音楽家、料理人たちが集い、まさに“文化の都”として栄えた時代。そんな祝福の日に、特別な菓子として生まれたのが『トルタ・デッレ・ローゼ』です。
このケーキは、生地をくるくると巻いて切り分け、それを花のように並べて焼くことで、まるで咲き誇るバラの花束のような形になります。バターと砂糖の甘い香りが宮廷に漂い、イザベラの門出を祝った――そんな光景が想像できる逸話です。
ルネサンス時代、食もまた芸術だった
ルネサンス期のイタリアでは、「食べること」もまた芸術の一部でした。イザベラ・デステの宮廷では、絵画や音楽だけでなく、料理にも美的感覚が求められていました。
『トルタ・デッレ・ローゼ』が特別なのは、見た目の華やかさと香りの繊細さ。生地の巻き方ひとつで花びらの開き方が変わり、焼き上がりの色合いが“咲き方”を決めます。
このケーキは、ただのデザートではなく「祝福」「美」「誇り」を象徴する宮廷菓子。まさに“お菓子のルネサンス”という表現がふさわしい存在です。
マントヴァが生んだ味の融合
舞台のマントヴァは、北イタリア・ロンバルディア州の古都で、湖に囲まれた美しい街。16世紀から続くゴンザーガ家の統治下で、芸術・建築・料理が融合し、ヨーロッパ文化の中心地のひとつとなりました。
フェラーラから嫁いだイザベラが持ち込んだエミリア地方の食文化と、マントヴァの地元の食材が出会い、新しい菓子文化が生まれました。その象徴が『トルタ・デッレ・ローゼ』です。
当時は高級食材だったバターや砂糖をふんだんに使い、さらに柑橘の香りを加えて上品に仕上げる――この組み合わせこそが“宮廷の香り”。
バラのケーキ『トルタ・デッレ・ローゼ』レシピ
材料(直径18cmマンケ型・1台分)
| 種類 | 材料名 | 分量 |
|---|---|---|
| ブリオッシュ生地 | 強力粉 | 200g |
| グラニュー糖 | 20g | |
| 牛乳 | 100ml | |
| 卵黄 | 40g(Mサイズ2個分) | |
| インスタントドライイースト | 4g | |
| 塩 | 4g | |
| 無塩バター | 100g | |
| 強力粉(打ち粉用) | 適量 | |
| レモンクリーム | 無塩バター | 40g |
| グラニュー糖 | 30g | |
| レモンの表皮(国産) | 1個分 | |
| グレーズ | 粉砂糖 | 25g |
| レモンジュース | 5ml | |
| 食用色粉 | 適量 |
作り方
-
下準備:ボウルにバターを塗っておく。
-
生地づくり:
強力粉と砂糖を混ぜて作業台に広げ、真ん中をくぼませて卵黄と牛乳を入れる。指で混ぜながら徐々に粉を取り込み、8割ほど混ざったらこすりつけるようにしてまとめる。 -
発酵:
ボウルに入れ、ドライイーストをふり、ラップをして冷蔵庫で30分休ませる。 -
練り込み:
イーストをこすりつけて混ぜ、塩を加えてさらにこねる。 -
バターを加える:
麺棒でたたいてやわらかくしたバターを生地に練り込み、滑らかになるまでこすり混ぜる。 -
一次発酵:
ラップをして常温で1時間置き、その後冷蔵庫で一晩(24時間以内)発酵させる。 -
成形準備:
オーブンを30℃に温め、型にバターを塗る。 -
生地を折る:
生地を広げて押さえ、2つ折りにし、麺棒で15×20cmにのばして冷蔵庫で30分休ませる。 -
のばし直し:
再び25×30cmにのばしてラップをかけ、20〜30分休ませる。 -
レモンクリーム作り:
常温に戻したバターにグラニュー糖とレモンの皮を加え混ぜる。 -
巻く準備:
生地を横長に置き、下2cmに水を塗り、残りの部分にレモンクリームを均一に塗る。 -
巻く:
下から巻き、巻き終わりをしっかりと押さえて閉じる。 -
カットと配置:
包丁で6等分し、型の中央に1つ、まわりに5つ並べる。中央が少し高くなるよう押さえる。 -
二次発酵:
型の90%ほどまで膨らむまで約60分発酵させる。 -
焼成:
180〜190℃のオーブンで約40分焼く。焦げそうなときは温度を調整。 -
グレーズを作る:
粉砂糖・レモン汁・食用色粉を混ぜておく。 -
仕上げ:
焼き上がったケーキにすぐグレーズをはけで塗る。少し冷めてから型から外す。
ポイント
・冷めてからが一番おいしいタイミング。
・当日中に食べると香りと食感が最高。
・底にキャラメル化した部分ができることがあるため、取り出すときはやけどに注意。
バラの花びらのように広がるブリオッシュ生地に、レモンの爽やかさが重なる華やかなケーキです。見た目も香りも上品で、祝いの席にぴったりの一品です。
ルネサンスの香りを、現代の食卓へ
『トルタ・デッレ・ローゼ』は、500年前の宮廷文化を今に伝える“食の芸術”。ふわっとほどける食感と上品な香りは、ルネサンスの美意識そのものです。
現代でもマントヴァやフェラーラの老舗パスティッチェリアではこのケーキが並び、結婚式や記念日に贈られる「幸せのケーキ」として親しまれています。
まとめ:お菓子が伝える歴史と祝福の物語
この記事のポイントは次の3つです。
・『トルタ・デッレ・ローゼ』は、イザベラ・デステの結婚を祝うために生まれた伝統菓子。
・華やかな見た目とふんわり香るレモン風味が、ルネサンスの美意識を象徴している。
・現代でもマントヴァの街で受け継がれ、“祝いと愛”を表すケーキとして人々に親しまれている。
芸術と食がひとつになった“お菓子のルネサンス”、その味をあなたのキッチンで再現してみませんか?
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参考・出典リンク
・ウィキペディア:トルタ・デッレ・ローゼ(Torta delle rose)
https://ja.wikipedia.org/wiki/Torta_delle_rose
・ウィキペディア:イザベラ・デステ(Isabella d’Este)
https://ja.wikipedia.org/wiki/イザベラ・デステ
・ウィキペディア:ゴンザーガ家(House of Gonzaga)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ゴンザーガ家
・Bertazzoni公式サイト:Italian Lifestyle – Torta delle Rose
https://us.bertazzoni.com/italian-lifestyle/torta-delle-rose
・PIATTO RECIPES:Italian Rose Cake (Torta della Rose)
https://www.piattorecipes.com/italian-rose-cake-torta-della-rose
・Visit Mantua Blog:The Sweet Roses of Isabella d’Este – Torta delle Rose
https://visitmantua.blogspot.com/2014/02/the-sweet-roses-of-isabella-deste-torta.html
・Scaravelli Official:Torta delle Rose – Storia e Tradizione
https://www.scaravelli.it
・Guideturistiche Mantova:Il centro storico di Mantova
https://guideturistichemantova.it
・イタリア観光局(ENIT):マントヴァ歴史地区(世界遺産)紹介ページ
https://www.enit.it/ja
・NHK番組情報:グレーテルのかまど「お菓子のルネサンス!イザベラ・デステのバラのケーキ」
https://www.nhk.jp/p/gretel/
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