『伝説の“蕩尽王”薩摩治郎八』とは?お金を粋に使った男の生き方を追う
パリ社交界で“バロン薩摩”と呼ばれた薩摩治郎八。
『600億円』ともされる規格外の浪費、芸術家への支援、そして転落と再出発――。
この記事では、2025年12月9日放送の『先人たちの底力 知恵泉』で取り上げられるこの人物の魅力を、放送前に分かっている範囲でまとめています。お金に縛られずに生きた治郎八の歩みは、現代のわたしたちにも多くのヒントを残しています。
パリ社交界で光った“規格外の男”の素顔
薩摩治郎八は1901年、東京・駿河台の大綿問屋の家に三代目として生まれました。海外への視野を早くから持ち、若くしてイギリスのオックスフォード大学へ留学。そこから1920年代にロンドン、さらにパリへ移り住みます。
パリでは16区パッシーに豪奢な邸宅を構え、銀装飾の特注車『クライスラー・インペリアル』を走らせる生活。社交界の中で人々を引きつける明るさと教養を持ち、日本人ながら“バロン薩摩”の名で語られる存在になりました。華やかな生活は一時の夢ではなく、彼が持つエネルギーそのものだったように見えます。
伝説の『600億円』は本当に使われたのか
“蕩尽王”と呼ばれた理由は、やはりその莫大な使い方にあります。
当時の価値で月に1万円以上の仕送りを受け、現在に換算するとひと月で『3000万円』に相当する金額。邸宅、車、パーティー、長期滞在型の欧州旅行、高級ホテル暮らし……すべてが常に一流でした。
そして最も象徴的なのが、『600億円』『800億円』とも語られる巨額の支出です。数字には幅がありますが、社交・文化・旅・芸術支援など、彼の生活すべてを合わせた“トータルな消費”が、常識では測れない規模だったことは確かです。
浪費でありながら、どこか粋な柔らかさがあり、そこに治郎八という人物の魅力が生まれました。
芸術家を支えた“パトロン”としての顔
豪遊ばかりが語られがちですが、治郎八のもう一つの側面が、芸術家への支援です。
パリで活躍していた日本人画家――たとえば藤田嗣治らの生活費や制作費を支え、国際的な文化をつなぐパトロンとして知られました。フランスの文学者・舞踊家・画家との交わりも多く、彼の邸宅は常に文化の香りに満ちていたと言われています。
さらに、彼は自らの私財を出して『パリ国際大学都市日本館(薩摩館)』を建設。日本の若者が海外で学ぶ機会を広げるための支援は、国を越えた文化交流として大きな意味を持ち、フランス政府からレジオンドヌール勲章を授与されました。
“浪費王”と呼ばれつつ、文化を支えた人物でもあったのです。
世界恐慌と家業の崩壊――転落と無一文の帰国
しかし1929年の世界恐慌と家業の悪化が治郎八の生活を直撃します。家業の薩摩治兵衛商店が経営危機に陥り、仕送りは途絶えました。
借金、美術品売却など、かつての豪華な暮らしは急速に崩れていき、1935年に家業が閉店。彼が持っていた財産の多くも失われていきました。
かつて“バロン薩摩”と呼ばれた男は無一文となり、日本へ帰国せざるを得ませんでした。
気品ある生活は消え去り、そこに残ったのは人としての強さだけ。治郎八はそれでも過去を語り、自分の人生を振り返りながら再出発を続けます。転落したからこそ見えた景色があったように思えます。
下町で見つけた小さな幸せ
治郎八の晩年には、はっきりと残る資料は多くありませんが、東京の下町の劇場に関わる仕事をする中で、後に妻となる女性と出会ったとされています。
華やかなパリとはまったく違う、素朴であたたかい環境で育まれたその関係は、彼にとって人生の再生を象徴する時間でした。
豪華な邸宅や社交界から離れ、ふたりで住んだ小さなアパート。浪費王と呼ばれた男が最後に手にしたのは、派手さではなく心のよりどころでした。
お金に縛られない生き方が現代に残すヒント
薩摩治郎八の歩みは、お金がある生活の楽しさと、お金が消えたときの現実、その両方を体現しています。
『パリ社交界』『バロン薩摩』『600億円』といった派手な言葉の裏には、文化支援に全力を注ぎ、最後には質素な生活の中にも幸福を見つけた一人の人物がいます。
お金は道具であり、人生そのものではありません。
治郎八の生き方が教えてくれるのは、財産を築くことよりも「何に使うか」「誰と生きるか」という視点です。文化への投資、人とのつながり、自分の価値観への誠実さ――そのすべてが、現代にも響くテーマとなっています。
まとめ
2025年放送の『先人たちの底力 知恵泉』では、“蕩尽王”と呼ばれた薩摩治郎八の生き方がどのように描かれるのか、放送前の時点でも注目ポイントが多くあります。
パリ社交界の華やかさ、芸術支援、転落からの再生、小さな幸せ。
お金よりも大切なものを探し続けた彼の姿は、2025年のわたしたちにも価値ある視点を与えてくれます。
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