外国人博士が見た“日本の商店街”の面白さとは?
日本各地に残る商店街は、買い物の場所というよりも、その地域の歴史や文化がぎゅっと詰まった生きた場所です。今回の番組では、長年日本で暮らす文化人類学者 エドマンド・ホフ が、その魅力と不思議さを独自の視点で読み解いていました。『日本の商店街』はなぜ残り続けるのか、そして海外のショッピングセンターとは何が違うのか。ホフの研究は、この素朴な疑問にしっかり答えてくれます。この記事では、その気づきと面白さを番組内容にそって紹介します。
外国人博士エドマンド・ホフが見た“日本の商店街”
エドマンド・ホフは、日本に来て約30年。歩いて観察し、店に立ち寄り、人々の暮らしに触れながら、日本文化を理解してきました。特に興味を持ったのが商店街です。商店街には地域の生活と歴史が入り混じり、個人店の佇まい、通りの雰囲気、住む人の日常がそのまま現れます。
彼が魅力として語るのが、統一されていない雑多な雰囲気、つまり“カオス”。世界的に広がるショッピングモールとは違い、日本の商店街は個人店の自由な営みが集まり、多様な文化がそのまま残る空間だといいます。歩いているだけで地域の空気と暮らしが見える。それがホフにとっての商店街の特別さです。
梅丘商店街で見えた日本らしい“カオス”
番組でホフが歩いたのは、世田谷区の梅丘商店街。駅前通り・仲通り・本通りと3つの通りに約200軒の店が並び、古くから地域の買い物を支えてきました。
ホフがまず驚いたのは、街灯のデザインが通りごとに違ったり、同じ通りでも統一されていなかったこと。商店街なのにルールで縛られていない、この自由さに“日本らしさ”を感じたそうです。さらに、個人店の看板、売り物、店構えがバラバラで、それぞれに違った息づかいがあることも魅力の一つ。この雑多さが商店街を面白くし、人が歩きたくなる理由になっています。
下北沢758店舗の巨大商店街と個性の力
次にホフが注目していたのが、東京・世田谷区の下北沢商店街。6つの商店街が集まって構成され、なんと758店舗が軒を連ねる巨大な街です。
下北沢はもともと農村だった場所に小田急線が通り、昭和の戦後も焼け残り、闇市や劇場文化が育った地域。若者文化やサブカルチャーの中心地になり、古着屋やライブハウスが増えたことで、独特の個性が生まれました。
ホフは「個人店の個性が集まって街全体の魅力になっている」と語っています。決まったテーマに沿って作られたモールとは違い、さまざまな価値観が同時に存在し、それが“偶然の出会い”を生む場所になっているのが下北沢の強みです。
ショッピングセンターと商店街の違いから見えた構造
ホフが育ったカナダでは、郊外型のショッピングセンターが生活の中心でした。大きな敷地に人気チェーン店が入り、管理会社が全体をコントロールします。
しかし日本の商店街は全く違う構造です。個人店が中心で、地域住民や自治体、商店街組合、学校、宗教施設など、多様なステークホルダーが並列的に関わり合っています。
トップダウンで管理されるモールとは逆に、商店街は自由で、ゆるくつながりながら成り立つ場所。その“緩やかな関係性”が、地域に根づいた文化と個性の源になっています。
大須商店街とポップカルチャーの研究の背景
ホフが研究の転機を迎えたのは、名古屋の大須商店街で関わった『世界コスプレサミット』。初めて目にしたその光景に衝撃を受け、商店街とポップカルチャーの関係に興味を持ちました。
大須商店街は買い物だけでなく、サブカルチャーやイベントの舞台として注目され、国内外から人が集まる文化的スポットになっています。ホフは、大須のような商店街こそ、現代の“文化が生まれる場所”であり、生活とエンタメが共存する特別な空間だと分析していました。
北千住と宿場町商店街に残る歴史と新しい風景
足立区の北千住宿場町通り商店街も、ホフが強い関心を寄せる場所でした。日光街道の宿場町として400年の歴史を持ち、昔ながらの建物や文化が残る一方、近隣に大型ショッピングセンターができたことで人通りが減る課題もあります。
しかし、商店街の中心には数年前にできた喫茶店など、新しい文化を生む店も登場しています。過去の歴史と今の暮らしが混ざり合いながら変化していく姿は、ホフが語る“商店街のカオス”そのもの。新旧が共存し、自由に組み合わさることで商店街は生き続けています。
まとめ
今回の番組では、商店街が単なる買い物の場所ではなく、人の暮らし、文化、歴史が混ざり合う“生きた空間”であることが印象的でした。
エドマンド・ホフが語ったように、自由で多様な店が集まり、地域の人々が関わり合いながら街をつくる姿は、日本ならではの魅力です。
梅丘、下北沢、大須、北千住など、個性あふれる商店街を歩けば、そこに暮らす人々の息づかいと独自の文化が自然と伝わってきます。商店街が持つ力と奥深さを改めて感じられる内容でした。
商店街の現状データから見える「なぜ残る/存続が難しいか」の背景

ここからは、筆者からの追加情報として、日本全国の商店街が置かれている今の状況を紹介します。商店街がなぜ残り続けるのか、そしてなぜ存続がむずかしくなっているのかが、数字を見ると一気に立体的になります。
空き店舗率と“増える予兆”が同時に存在している
全国の商店街の平均空き店舗率は13.6%で、これは歩けば必ず空き店舗が目に入るくらいの割合です。さらに1商店街あたりの平均空き店舗数は約5.5店で、多くの商店街が複数の空き区画を抱えています。
ここで注目したいのは、商店街自身が「今後さらに空き店舗が増える」と考えている割合が49.9%とほぼ半数にのぼる点です。つまり、“今ある空白”だけでなく、“これから広がる空白”に対する不安が強くあるということで、商店街の未来に影を落としている要素です。
それでも商店街の店数は維持されている
一方で、興味深い数字があります。商店街全体で見ると、1商店街あたりの平均店舗数は51.2店と報告されており、これは以前と比べてわずかに増加しています。さらに、商店街の中でチェーン店が占める割合は10.6%で、個人店を中心としながらも新しいタイプの店舗が入り始めています。
この数字から読み取れるのは、空き店舗があるにもかかわらず、商店街という枠組みそのものが縮小し続けているわけではないという点です。新しいお店が入ったり、チェーン店が生活の便利さを加えるなど、商店街は「変わりながら生き続けている」という姿を見せています。
多様な店が並ぶ“地域密着の強さ”
平均で50店以上が集まる商店街は、小売、飲食、サービスなど多様な店がそろい、住民が日常の中でちょっとした買い物を済ませられる便利な場所になっています。大型モールのような華やかさはなくても、家から歩いて行ける距離に“必要なものがある”という生活動線の近さが、地域で長く愛される理由につながっています。
これは、日本の生活文化とも深く結びついていて、商店街が単なる買い物の場所ではなく地域の生活基盤として続いてきた背景でもあります。
コミュニティの場としての価値
たとえ空き店舗があっても、商店街には今も人と人のつながりがあります。個人店の店主同士が顔なじみだったり、地域のお祭りやイベントの拠点になったりすることで、商店街は“文化と暮らしの場”として機能しています。
このようなコミュニティ性が、経済的に不利な状況でも商店街が残り続ける大きな理由となっています。
変化を受け入れながら続く“再構築の力”
商店街は、空き店舗の増加やチェーン化の波を受けても、その中で新しい形を模索し続けています。古い店が閉じても、新しい業態の店が入り、若い世代の挑戦が見られる商店街も増えています。
こうした変化の積み重ねが、商店街を「消えていく場所」ではなく、「新しく作り直され続ける場所」へと変えています。古い店と新しい店が並ぶことで、少しごちゃっとした印象になることもありますが、それは商店街が生きている証として受け取ることができます。
数字が教えてくれる“粘り強さ”
空き店舗率は高く、将来への不安もある。それでも商店街が消えずに残っているのは、地域で育まれてきた暮らしの文化と絆があるからです。数字だけでは測れない価値が、商店街を支え続けています。
こうした背景を知ると、商店街が“なくならない理由”が、経済合理性だけでは説明できないことがよくわかります。商店街が今も人を引きつけ、研究の対象にもなるのは、この独特の歩み続ける力があるからだと感じます。
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