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Eテレ【NHKアカデミア】脱成長コミュニズムで読む現代のマルクス──晩年エコロジーと格差×環境破壊の関係性|2026年2月11日

NHKアカデミア
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いま世界に必要な問い直しとは?

2026年の放送回「NHKアカデミア 選 脱成長!新・マルクスの世界 斎藤幸平(前編)」は、立ち止まることなく走り続けてきた私たちに、静かだけれど鋭い問いを投げかけていました。
気づけば身近に広がる格差環境破壊。その根っこにある仕組みを見つめ直すことで、未来の風景は変えられるのかもしれません。

成長神話は本当か?NHKアカデミアが投げかけた問い

物価はじわじわ上がるのに、賃金は思うように増えない。
将来の生活や年金が不安で、節約ばかりが習慣になってしまう一方で、世界のごく一部の富裕層には資産が集中していく。こうした格差の拡大は、国際的な統計でもはっきり示されています。

そのうえ、猛暑・大型台風・山火事など、ニュースで見ない日はないほど深刻化する環境破壊
番組は、これらをバラバラの「偶然のトラブル」としてではなく、ひとつのシステムが生み出した結果として描きます。

そのシステムこそ、際限ない経済成長を前提にした現代の資本主義です。
「成長さえ続けば、いずれみんなが豊かになる」という“成長神話”は本当なのか。
番組はこの素朴な疑問を起点に、19世紀の思想家カール・マルクスの世界へと視聴者を誘っていきました。

世界が注目する若きマルクス研究者・斎藤幸平という存在

スタジオの中央に立つのは、経済思想家の斎藤幸平さんです。
1987年生まれ。アメリカのウェズリアン大学で学んだあと、ドイツ・ベルリン自由大学で修士号、ベルリン・フンボルト大学で博士号(哲学)を取得。現在は東京大学大学院総合文化研究科の准教授として、経済思想・社会思想、とくにマルクス研究を専門にしています。

英語で執筆した著作“Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy”は、未公刊ノートを含むマルクスの資料を精密に読み解き、「資本」と「自然」の関係を新たに描き直した本として高く評価されました。
この一冊で、マルクス研究の最高峰とされるドイッチャー記念賞を2018年に受賞。日本人として初、さらに歴代最年少での受賞という快挙で、一気に世界の注目を集める存在になりました。

日本では、集英社新書から刊行された著書人新世の「資本論」が50万部規模のベストセラーとなり、新書大賞2021を受賞。気候危機の時代に『資本論』をどう読み直すか、というテーマで幅広い読者をつかんでいます。

番組では、こうした背景を押さえたうえで、斎藤さんがカジュアルな服装で観客の前に立ち、身振りを交えながら語る姿が印象的です。
難しい専門用語をできるだけ避け、たとえ話を交えながら、「今の日本で生きる私たち」に向けてまっすぐ話しかけるスタイルが、30分をあっという間に感じさせました。

格差と環境破壊はなぜ同時に進むのか

本編の核となるのが、「なぜ格差環境破壊が同時に進行するのか」という問いです。

斎藤さんは、現代の資本主義を「成長依存のシステム」として描きます。
企業は利益をふやすため、より安い労働力と原材料を求め、世界中へ生産拠点を広げていきます。
その結果、非正規や低賃金の仕事が増え、一方で株や不動産などの資産を持つ人には富が集中していく。

同時に、安価なエネルギーや資源を手に入れるために、森林は伐採され、化石燃料は燃やされ続け、海や大気が汚れていきます。
こうした環境への「ツケ」は企業の損益計算書には書かれませんが、気候変動や生態系の崩壊という形で、私たちの生活に重くのしかかります。

番組の特徴は、「貧困問題」と「気候危機」を切り離して語らない点です。
豊かな国の上位層が豪華な消費や頻繁な飛行機移動を続けることで、多くの温室効果ガスが排出され、その影響をもっとも強く受けるのが、途上国の貧困層や将来世代である――この構図が、やさしい言葉でかみ砕かれていきます。

また、「技術革新さえ進めば、成長と環境保護は両立できる」という楽観的な見方にも冷静な疑問を投げかけます。
再生可能エネルギーや省エネ技術は重要だけれど、それだけで「無限の経済成長」を支え続けるのは難しい。
だからこそ、「そもそも、ここまで成長を追い求める必要があるのか」という、一番触れられたくない前提にメスを入れなければならないのだ、と斎藤さんは語ります。

晩年マルクスの再発見と『人新世の「資本論」』への接続

ここで番組は、いよいよカール・マルクスの晩年の姿へと話を進めます。

これまでのイメージでは、マルクスは「工場の労働者の搾取」や「階級闘争」を語る思想家として知られてきました。
しかし、未公刊ノートや草稿を含む「マルクス=エンゲルス全集(MEGA)」の研究が進むにつれ、晩年のマルクスが、土壌の疲弊や農業破壊といった環境問題、植民地支配やグローバルな収奪の問題にも強い関心を向けていたことが分かってきました。

斎藤さんの英文モノグラフ“Karl Marx’s Ecosocialism”は、こうした資料を踏まえ、マルクスを「エコロジーの視点から読み直す」試みとして高く評価されました。
番組ではこの研究を手がかりに、マルクスが「資本主義が自然との『物質代謝』を破壊していくシステムである」と考えていたことが紹介されます。

そして、この視点を日本語で一般読者に伝えたのが、ベストセラーとなった人新世の「資本論」です。
人間の活動が地球環境を地質レベルで変えてしまった時代「人新世(アントロポセン)」において、私たちはどう生きるべきか――。
番組は、この問いをマルクスの晩年の思索と接続しながら、気候危機の時代にこそマルクスを読み直す意味をていねいに解説していきます。

キーワードは「脱成長コミュニズム」「コモン」「ケア」

前編のクライマックスで語られるのが、斎藤さん自身が提唱するキーワード、脱成長コミュニズムです。

「コミュニズム」という言葉に、20世紀の国家社会主義を重ねて身構える視聴者も多いはずです。
そこで斎藤さんはまず、「昔の計画経済に戻ろうという話ではない」ときっぱり線を引きます。

彼がめざすのは、終わりなき成長競争から一歩降りて、「本当に必要な豊かさ」を取り戻す方向への転換です。

番組の中で語られたポイントを整理すると、だいたい次のようになります。

・環境負荷の高い大量生産・大量消費を減らし、「なくてもよい成長」を手放すこと
・医療・介護・教育・公共交通など、生活に欠かせない分野には、むしろ資源をしっかり振り向けること
・長時間労働を見直し、人々がケアや地域の活動に時間を使えるようにすること
・何を増やし、何を減らすかを、市民参加の民主主義を通じて決めていくこと

ここで登場する重要な概念が、コモン(コモンズ)です。
水、森、エネルギー、交通、知識などを、一部の企業の利益のための商品ではなく、「みんなで管理し、みんなで使う共有財」としてとらえ直す考え方です。

ヨーロッパの都市で進む水道の再公営化や、市民が出資して運営する再生可能エネルギーの協同組合など、現実に動き始めている試みも紹介され、「脱成長コミュニズム」は決して空想のスローガンではない、ということが伝えられます。

そしてもうひとつ、前編で静かに強調されるのがケアの価値です。
子育て、介護、地域の支え合いなど、これまで市場の外側で低く評価されてきた仕事こそ、これからの社会で最も大事にしなければならない領域ではないか――。
「モノをどれだけ増やしたか」ではなく、「人と人、人と自然の関係をどれだけ支えられたか」を新しい豊かさの尺度にしよう、という提案が、穏やかな口調ながら力強く響きました。

前編は、具体的な制度や政策の細部までは踏み込まず、「何を大事にする社会にしたいのか」という価値観の土台を共有するところで終わります。
視聴者の心に残るのは、「成長し続けなければ不幸になる」という思い込みからそっと離れたところで、自分なりの豊かさをもう一度考え直してみたくなる感覚です。

後編では、この脱成長コミュニズムのビジョンを、社会運動や地域の実践とどう結びつけていくのかが語られていきます。
前編は、その入口として、「資本主義の行き詰まり」「カール・マルクスの再評価」「コモンケア」という三つの軸を一気に提示してくれた、非常に密度の高い30分だったと言えるでしょう。

注意書きとまとめ

本記事は番組内容をもとに構成していますが、一部に実際の放送と異なる場合があります。
とはいえ、番組が伝えようとした大きなテーマ――格差環境破壊、そして社会の行き詰まりに向き合うための新たな視点――はそのまま感じていただけるはずです。

斎藤幸平さんが語る脱成長コミュニズムは、「何を豊かさと呼ぶのか」をもう一度見つめ直すきっかけになります。

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