大鹿村に息づく“神様の木”をたずねて
長野県の山あいで静かに立ち続ける ブナ巨樹。
その足元には、森の仲間たちとつながる見えないネットワークが広がっています。
しかし今、この大切な木々が リニア新幹線 の工事によって危機に立たされています。
自然と人の暮らし、そのどちらも守りたいという思いが揺れる現場に番組は迫りました。
このページでは『にっぽん巨樹の旅ミニ(7)「神様の木に会う 大鹿村のブナ(長野・大鹿村)」(2026年2月9日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
大鹿村の山奥に立つ“神様の木”とは
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番組が向かったのは、長野県南部・南アルプスのふもとにある山あいの村、大鹿村です。
村の面積のおよそ9割が森に覆われた、小さな山村で、中央構造線が村のまん中を走ることで知られています。
その山奥に、樹齢300年以上といわれる2本のブナの巨樹が立っています。
太い幹は大人が何人かで腕を回しても届かないほどで、幹には長い年月で刻まれたコケやシミ、風雪の跡がびっしり。春から夏には濃い黄緑の葉を大きく広げ、足元はしっとりとした落ち葉のじゅうたんに覆われます。
村の人たちは、昔からこの2本のブナを、山の恵みと暮らしを見守る “神様の木” のような存在として大切にしてきました。
周りには同じように年を重ねたミズナラやカエデが立ち、谷から吹き上がる風が、枝と枝のあいだをゆっくり抜けていきます。番組は、その静けさと圧倒的な存在感を、ナレーションと映像でじっくり見せていきます。
リニア新幹線送電線計画と、2本のブナが直面する危機
けれど今、この2本のブナ巨樹は大きな岐路に立たされています。
理由は、リニア新幹線(正式には リニア中央新幹線)に電力を送るための高圧送電線計画です。
計画では、村の山中に最大高さおよそ80メートルの鉄塔が9基建てられ、そのための送電線が約4.1キロにわたって森の上を通ることになっています。鉄塔1基あたり、1,000〜3,000平方メートルの森が伐採される見込みで、その伐採地の中に、問題の2本のブナが含まれているのです。
番組では、鉄塔予定地の地図と実際の山の風景を重ねながら、「このラインの上に送電線が通ると、ここに立つブナ巨樹は切られてしまう可能性がある」と説明していきます。
森の中に立つ計画看板、伐採の目印として立てられたピンク色のテープ。そうした細かなカットが、静かに迫る危機を伝えます。
さらに番組は、この送電線工事が、トンネル掘削や残土置き場など、すでにいくつも進んでいるリニア関連工事の「一部」に過ぎないことも指摘します。
山あいの小さな村に、これ以上負担をかけていいのか。大鹿村の風景と、森に立つブナの姿を映しながら、「巨樹伐採の愚行を問う」というシリーズ全体のテーマを重ねていきます。
根っこでつながる森 ブナと木々の“会話”の正体
番組の中盤で焦点が当たるのが、「ブナと周りの木々は、地下でつながり合っている」という最新の研究です。
世界各地の研究で、大きな木の根と、そのまわりの若い木や草花の根が、土の中でキノコの仲間の糸のような菌(菌糸)を通じてつながり、栄養や情報をやりとりしていることがわかってきました。
この地下ネットワークは「菌根ネットワーク(マイコリザル・ネットワーク)」と呼ばれ、ある種の大木は、森全体をつなぐハブとして働いているのではないか、と考えられています。
番組では、カナダなどで行われてきた研究を例にとりながら、「森には、子どもの木を支えるマザーツリーともいえる木がいる」という話が紹介されます。
光合成で作った糖分を、菌を通じて周りの木に分けたり、逆に弱った木からシグナルが戻ってきたり——そんな“会話”のイメージを、アニメーションやCGでわかりやすく見せてくれます。
ここで番組は視点を再び大鹿村のブナ巨樹に戻します。
この2本のブナも、単にそこに「1本ずつ」立っているのではなく、足元では周りのブナや針葉樹、低木たちと根っこや菌を通じてつながり、森全体の水や養分の流れを支えている可能性が高いのです。
雨をため、ゆっくりと川へ流し、土砂崩れを防ぐ役割を森が担っていることも、専門家の解説を交えて説明されます。
つまり、伐採されるのは「2本のブナだけ」ではありません。
その背後にある、見えない地下のつながり、森のバランス、そして山あいの暮らしそのものにまで影響が及ぶかもしれない——番組は、そんな目に見えにくいリスクを丁寧に描き出していきます。
ブナを守りたい 大鹿村の若者たちの小さな一歩
もう一つの主役は、このブナ巨樹を守ろうと動き始めた、大鹿村の若者たちです。
番組では、村で暮らす若い世代が中心となって、高圧送電線工事の見直しを求める署名活動や情報発信を続けてきたことが紹介されます。
オンライン署名サイトでは、「リニア送電線工事のために樹齢約300年のブナの木を伐採するのは止めてください」というタイトルで、多くの賛同が集まりました。
若者たちは、単に「リニア反対」と声を上げるだけではなく、森がもたらしてきた水や土、空気の恵み、そして山里の景観や心のよりどころとしての “神様の木” の意味を、一つひとつ言葉にしていきます。
子どものころから見上げてきたブナの木を前にして、「自分たちの世代で、これを失ってはいけない」と話す姿は、とても静かですが強い説得力があります。
番組の語りを担当する シシド・カフカ が、その声に寄り添うように、「開発の“便利さ”と引き換えに、何を失うのか」という問いを視聴者へ投げかけます。
なお、番組では主に「危機のただ中」にある姿が描かれますが、その後の報道では、このブナについて伐採計画が見直され、少なくとも一時は「残された」とする情報もあります。
それでも送電線やリニア工事自体は続いており、山の環境や暮らしへの影響をめぐる議論は今も続いています。
“神様の木”が私たちに問いかけるもの
ラストに向けて番組は、「本当にかけがえのない神様の木は、どこにあるのか?」という問いをもう一度掲げます。
それは、目の前にそびえる2本のブナ巨樹だけではなく、森全体、山の水の流れ、村の暮らし、そして私たち一人ひとりの価値観そのものかもしれません。
遠く離れた都市で暮らす人にとっても、電気のスイッチを入れるたび、どこかの山で木が切られているかもしれない——そんなつながりを、番組は静かに示しています。
最新の研究が明らかにした、菌と根がつくる地下のネットワーク。
そこに立つマザーツリーのようなブナ巨樹。
そして、その木を前に何度も立ち止まり、自分たちの暮らしと未来を考え直そうとしている大鹿村の人々。
たった10分ほどの短い回ですが(番組内では時間に触れません)、映像の一つひとつに、「森と人の関係をもう一度見直してほしい」というメッセージが込められています。
この回を見終わったあと、きっと読者の方も、近所の大きな木や、何気なく通り過ぎていた街路樹のことを、少し違った目で見上げてしまうはずです。
その瞬間、あなたの中にも、小さな “神様の木” へのまなざしが芽生えているのかもしれません。
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