戦国の風雲児・尼子一族と山中鹿介
2025年6月18日(水)夜10時からNHK総合で放送される「歴史探偵」は、中国地方の戦国史を語るうえで欠かせない尼子氏と、家の再興を目指した山中鹿介を特集します。戦国時代に8か国を支配した有力大名・尼子氏の栄光と落日、そしてその復活に命を懸けた若き風雲児・山中鹿介の物語を、歴史スポットや経済戦略とともにわかりやすく紹介する番組です。
尼子氏とは?中国地方8か国を治めた戦国大名
尼子氏は、出雲国(現在の島根県東部)を本拠地とした戦国大名で、中国地方の広範囲に勢力を広げていました。中でも第11代当主・尼子経久(あまごつねひさ)の時代に急成長を遂げ、山陰から山陽にかけての8か国を支配するほどの大勢力となりました。具体的には、安芸・備後・石見・出雲・伯耆・因幡・美作・備中の各国がその版図に含まれていました。
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安芸(現在の広島県西部)や備後(同県東部)では毛利氏と対立しながらも支配を確立
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石見・出雲は中核領として経済と軍事の中心に
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伯耆・因幡は山陰道を押さえる重要地帯
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美作・備中は山陽方面への進出の拠点となりました
このように、各地の国を戦略的に押さえながら、軍事と経済の両面で着実に勢力を伸ばしていったのです。
尼子経久は、それまで守護の補佐役である「守護代」だった立場から、時代の流れである「下剋上」をうまく利用し、周囲の大名たちを圧倒してのし上がりました。実際、中央からの正式な任命がなくても自らの軍事力と交渉力で領国を拡大し、「実力で地位を築く」戦国大名の典型ともいえる存在です。
その強さの支えとなったのが、本拠地・月山富田城(がっさんとだじょう)です。この城は、標高184メートルの月山という山全体を利用した天然の要害で、城郭の周囲には深い谷と急峻な崖が広がっており、敵が容易に近づけない構造になっていました。
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本丸に至るまでには三の丸・二の丸を経て登る必要がある
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狭く折れ曲がった通路や石垣、堀切などで敵の動きを封じ込める
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自然の地形を活かして防御力を最大限に高めた設計
特に、月山富田城の最大の特長は「難攻不落」と呼ばれるほどの防御力にあります。毛利元就との何度もの戦いでも、この城はなかなか落ちることがなく、尼子氏の象徴としてその存在感を放ち続けました。実際に陥落するのは1566年、経久の孫・晴久の時代であり、それまでおよそ50年以上にわたって強固な本拠として尼子家を支えてきたのです。
このように、月山富田城という鉄壁の城と、経久の巧みな政治・軍事戦略によって、尼子氏は中国地方で最も影響力のある大名の一つに成長していきました。現在でもその城跡は島根県安来市に残されており、戦国時代の緊張感を今に伝えています。
経済も豊かだった尼子氏の戦い方
尼子氏の勢力が中国地方で広がった背景には、単なる軍事力だけでなく、優れた経済戦略がありました。とくに注目されるのが、石見銀山の早期確保です。この銀山は当時の日本において最大規模の銀の産地で、世界的にも価値がある資源でした。尼子経久は早くからその価値に目をつけ、毛利氏や大内氏との対立の中でもいち早く支配を確立します。
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石見銀山では採掘・精錬・搬出までの体制を整備
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周囲の山間部に作業小屋や水路を構え、効率的な生産を実現
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銀を京や堺などに流通させ、貨幣と物資を獲得
こうした仕組みにより、尼子氏は軍を維持するための安定した軍資金を得ており、戦いの継続や兵の確保に大きく貢献しました。
さらに、美保関や境港といった海に面した港町も掌握しており、ここを経由して朝鮮半島との交易も行っていました。特に美保関港は、朝鮮や中国からの船も寄港する重要な拠点で、たたら製鉄で得られた鉄製品を積み出したり、交易品を仕入れて流通に乗せるなど、経済のハブとしての役割を担っていました。
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港を通じた鉄・銀の積み出し
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漁業や港湾労働を通じた地域経済の活性化
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海上交通の管理で関銭(税)を徴収
さらに、尼子氏は城下町を発展させて商人や職人を呼び込み、地域の流通を促進しました。たとえば、出雲の富田などでは市が開かれ、遠方からの商人が集まることで物資が豊かに流れ、税収も安定しました。
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市場の開設と保護によって商人の流入を促進
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課税対象を増やし、年貢とは別に貨幣収入を確保
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銀・鉄・米を中心とした経済循環を形成
このように、「戦いながら稼ぐ」構造を自ら築いたのが尼子氏の特徴です。戦国時代の多くの大名が合戦に明け暮れる中、尼子氏は戦の裏で着実に経済基盤を整え、財力と実行力で領国を支えていた大名としても知られています。こうしたしたたかな経営感覚が、長く広い領土を維持する力となったのです。
山中鹿介が挑んだ“再興”の戦い
月山富田城が毛利元就の手に落ち、尼子氏が戦国大名としての地位を失ったあとも、その家名を再び掲げようと立ち上がったのが山中鹿介(やまなかしかのすけ/幸盛)です。若くして軍功を挙げ、「山陰の麒麟児」と呼ばれた彼は、主家への忠誠心を胸に秘めたまま、再興の道を突き進みました。
鹿介はまず、京都の寺にいた尼子勝久(あまごかつひさ)を見出し、出家していた勝久を還俗させて再び当主に据えました。そしてかつての家臣団をまとめ上げ、約6700人の兵を率いて出雲へ進軍します。この再興軍は、単なる復讐ではなく、綿密な作戦を伴った本格的な軍事行動でした。
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京都から出雲への遠征という大規模な移動
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戦意を失っていた旧臣たちの心を再び奮い立たせた説得力
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出雲進軍のための軍資金と物資の調達
その中でも特に知られるのが1570年の布部山の戦いです。鹿介率いる軍は、毛利軍という圧倒的な敵に対し、夜襲や奇襲といったゲリラ戦術を繰り返しながら応戦。敵の補給路を断ち、予想外の方向から襲撃するなど、柔軟で俊敏な戦い方が注目されました。
また、但馬や丹後の水軍との連携も見逃せません。海路を利用して兵を迅速に移動させる作戦を成功させ、陸路に頼らない独自の兵站ルートを構築しました。こうした動きは、単なる武力ではなく機動力と情報戦を意識した新しい戦術でもありました。
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水軍との連携による機動展開
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陸と海の複合作戦による出雲再攻
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現地民との協力による補給体制の確保
さらに、鹿介は外交面でも行動を起こし、織田信長に接近。当時、織田と毛利は全国支配をかけて対立しつつあり、鹿介は自らの立場を利用して織田方との同盟を模索します。織田家からの支援を得ることで、再興への突破口を切り開こうとしたのです。
一方、敵方に捕らえられた際には、腹痛を装って厠へ行き、自らの排泄物で体を覆って敵の目を欺いて脱走したという逸話が残ります。これも彼の冷静な判断と覚悟を物語る話として伝えられています。
最期は、播磨・上月城での籠城戦で毛利軍に包囲され、尼子勝久が自刃。鹿介も捕らえられ、護送中に命を落としました。しかしその直前、彼は夜空の三日月に向かい、「願わくば我に七難八苦を与え給え」と誓ったと伝えられます。この言葉は、今でも戦国時代を象徴する名セリフのひとつとして語り継がれています。
山中鹿介は、単に主家への忠義を貫いただけでなく、時代を読んだ戦術と連携、そして信念に満ちた行動で、再興の夢に全力を捧げました。その姿は、戦国の風雲児と呼ぶにふさわしい生き様でした。
名所にも注目、島根の魅力再発見
番組では、戦国時代の激動を支えた月山富田城だけでなく、島根県が誇る二つの歴史的名所にも光が当たります。出雲大社と石見銀山。いずれも日本の歴史と文化を語るうえで欠かせない存在です。
まず登場するのは、出雲大社(いずもたいしゃ)。ここは縁結びの神様として知られる大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)を祀る神社で、日本神話の重要な舞台でもあります。古代から神々が集うとされる「神在月(かみありづき)」には、全国の八百万の神々が集まるとされる伝承もあり、全国からの参拝者が絶えません。
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本殿は日本最古級の大社造で、荘厳な佇まい
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神楽殿には国内最大級のしめ縄
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境内には歴史的建造物や縁結びの象徴「ムスビの御神像」も
出雲大社は信仰の場であると同時に、神話と歴史が融合した文化体験の場でもあります。特に、毎年秋に行われる「神在祭」は出雲独自の神事として全国的に注目されています。
そしてもうひとつの名所が、石見銀山(いわみぎんざん)です。2007年に「石見銀山遺跡とその文化的景観」として世界遺産に登録されました。戦国時代から江戸時代にかけての銀の採掘地として栄え、その銀は日本国内だけでなく、ポルトガルや中国、ヨーロッパにも輸出されていました。
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採掘跡の坑道(間歩)が多数残る
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精錬施設の跡地や鉱山町・大森地区の街並みが良好に保存
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銀の輸送に使われた街道や水路も含めて「文化的景観」として評価
この石見銀山を通じて、当時の産業技術や交易、自然との共生のあり方が今も体感できるようになっています。たとえば「龍源寺間歩(りゅうげんじまぶ)」などは一般公開されており、実際に鉱山跡を歩くこともできます。
これらの名所は、ただの観光地ではなく、戦国時代の歴史や日本文化の奥深さを伝える貴重な遺産です。番組をきっかけに、戦国の舞台裏を支えた島根の歴史と自然の魅力にも目を向けてみると、新たな発見があるかもしれません。
放送で見えてくる、もうひとつの戦国時代
番組では佐藤二朗さんと片山千恵子アナウンサーが司会を務め、ゲストに歴史学者の河合敦氏を迎えて解説が進められます。戦国時代の合戦や大名だけでなく、経済、外交、信仰など多面的な視点で当時のリアルが描かれる予定です。
鹿介の策略や尼子氏の経済基盤を知ることで、「武力だけではない戦国の知恵」を学べる45分。戦国ファンも歴史ビギナーも楽しめる内容になりそうです。放送後、詳しい情報を元にさらに内容を深掘りしてご紹介します。
放送の内容と異なる場合があります。
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