小泉八雲・セツ・西田千太郎が交差した“松江の奇跡”
連続テレビ小説『ばけばけ』と『歴史探偵』の世界がつながり、小泉八雲、小泉セツ、そして彼らを陰で支えた西田千太郎の人生が立体的に描き出された今回の放送。明治という激動の時代の中で、松江という町に偶然のように集まった3人の歩みが、いま私たちが知る『耳なし芳一』や数々の怪談作品につながっていく。その背景を丁寧に拾い上げた45分でした。
NHK【小泉八雲のおもかげ】ばけばけの俳優トミー・バストウが見た“八雲の原点” ニューオーリンズのガンボスープと精霊の森の記憶|2025年11月3日
ドラマ出演者が語る「ばけばけ」の裏側とハーンとの共通点
冒頭、スタジオには高石あかりさんとトミー・バストウさんが登場。
高石さんは『ばけばけ』の撮影現場で「笑ってしまってNGがすごく多い」と話し、作品全体が想像以上に明るく熱量のある現場で進んでいることを実感させていました。
一方のバストウさんは、自らも世界を転々としてきた経験を持ち、その放浪人生が**ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)**と重なることを明かしました。異文化の中で生き、外の視点から日本の魅力を見つめる姿勢に、彼自身も強く共感している様子が印象的でした。
武士の娘・小泉セツが背負った現実と、怪談との出会い
番組は次に小泉セツの背景に迫ります。
セツは松江藩に仕えた上級武士の家に生まれましたが、明治政府の改革によって家禄が廃止され、収入は途絶えます。元武士の3割が飢餓に苦しんだとされる時代で、セツの父も詐欺に遭い、家の財産はほとんど失われました。
その結果、セツは小学校を辞め、機織りで家計を支える生活に入ります。
そんな日々の中で、母が語る怪談が唯一心をほぐす存在でした。
この「語り」に触れ続けた経験こそが、のちに八雲の作品世界を支え、物語の“血肉”となる重要な要素だったことが番組全体から読み取れました。
ハーンが日本神話に魅了され、松江へ辿り着くまで
ラフカディオ・ハーンはアイルランドで暮らし、19歳でアメリカへ渡ります。
新聞記者として働く中で『古事記』や日本神話の世界に心を奪われ、日本文化をもっと深く知りたいという思いが芽生えました。
そんな彼の前に現れたのが、島根県からの“英語教師としての赴任依頼”。
1890年、ハーンは松江へ派遣され、生活や風習、文化に関する記事を書きながら暮らし始めます。
松江に来た当初、ハーンは旅館を通じて「怪談・昔話を知る人を紹介してほしい」という広告まで出していたことが紹介され、彼の探求心の強さがよく分かる構成になっていました。
1890年の松江は“厳しい冬”。そこから生まれた縁
スタジオでは、八雲とセツの出会いに触れた佐藤二朗さんが
「ステキすぎて無理」
と興奮気味に語ります。
1890年12月の松江の平均気温は9.9℃、翌1月には2.8℃。
ハーンは寒さから体調を崩し、身の回りの世話をしてくれる女中が必要になりました。その時に働き始めたのがセツです。
この“必要性から生まれた出会い”が、結果として日本文学史を動かす大きな縁につながっていくのが、歴史の面白いところだと改めて感じられます。
松江の秀才・西田千太郎がつないだ、もうひとつの物語
そして今回の放送の重要な軸が西田千太郎です。
西田は松江藩の貧しい武士の家に生まれつつ、学問に打ち込む努力家で、成績優秀から『大磐石』と呼ばれた人物。18歳で教師に任じられるほどの逸材でした。
英語が堪能だったため、ハーンの授業や生活を支え、深い信頼関係が生まれます。ハーンが松江に滞在した1年3ヶ月の間に、西田の家を30回以上訪問していたという事実は、番組でも特に強調されていました。
さらに、西田が書いた紹介状によって、八雲は西洋人として初めて出雲大社本殿に上がることを許されます。
日本神話を愛していた八雲にとって、これは大きな体験でした。
また、ハーンは西田の子どもに英語の本を贈るなど、互いの家族を思いやる関係が築かれていたことも紹介されました。
ハーンの手紙に残る“日本の友”への深い思い
歴史研究者の河合敦氏は、八雲が西田について
「私の悪いことをすべて行ってくれる」
と言っていたと解説。
これは単なる冗談ではなく、自分の弱さや欠けている部分を西田が補ってくれるという意味で、八雲が“もう一人の自分”を見るほど深く信頼していた可能性がある、と河合氏は語ります。
さらにハーンは、セツとの手紙のやり取りをカタカナで行い、時に出雲弁を交えたことも紹介されました。
これは、外国人である彼が日本の文化へ強く寄り添おうとしていた証でもあります。
『耳なし芳一』の誕生と、セツがもたらした語りの力
番組後半では、講談師の神田山緑さんによる朗読で『耳なし芳一』の物語が紹介されました。
この作品の原点は、江戸時代に出版された怪談集『臥遊奇談』に収録された9ページほどの短編。
セツは八雲に語るために、こうした本を買い集め、物語を自分の言葉で語りました。
八雲はセツに
「本を朗読するのではなく、自分の言葉で」
と求めていたことが番組で明かされ、セツの語りに宿る温度や感情が、作品の土台となっていたことがよく分かります。
小泉夫妻のひ孫、小泉凡名誉教授は
「1回、セツの体内を通ってきたという価値観が入っている」
と語り、二人が紡いだ物語が50以上にのぼることを紹介しました。
ドラマ「ばけばけ」と重なる“怪談を語る姿”
ドラマの中でも、冒頭でトキがヘブンに『耳なし芳一』を語るシーンが象徴的に描かれています。
高石あかりさんは、セツが身振り手振りも交えながら創意工夫をして八雲に語ったのではないかと話し、役作りへのヒントを語っていました。
トミー・バストウさんは
「八雲さんのように日本文化の素晴らしさを世界に伝えるため、全力を尽くします」
とコメント。さらに、ドラマのオーディション後に八雲の墓を訪れた際、蚊に刺されたという出来事も紹介されました。
八雲は著作の中で
「亡くなる時は蚊になりたい。墓を訪ねる友達を刺したい」
と書き残しており、この偶然の一致にスタジオは盛り上がりました。
まとめ
今回の『歴史探偵』は、日本の怪談文学の裏側にある「語り」の文化と、人と人とのつながりが積み重なって生まれた奇跡を丁寧に掘り下げた回でした。
小泉八雲、小泉セツ、西田千太郎。
松江を舞台に出会った3人の人生が交わり、その影響力は2025年のテレビドラマにもつながっていることが改めて理解できる内容でした。
語り続ける人がいる限り、物語は未来に残り続ける――そんなメッセージが確かに伝わる45分でした。
松江の“八雲ゆかりの地”を紹介します

ここからは、私からの提案です。小泉八雲の世界をもっと深く知りたい人に向けて、松江に残る八雲ゆかりの地を紹介します。八雲が実際に暮らした家、原稿を書いた机、散歩した通り、心を動かされた神社などは、そのままの形で今も訪れることができます。現地を歩くと、文章だけではつかみきれない空気や景色が伝わり、まるで作品の中に足を踏み入れたような感覚になります。ここでは、特徴や見どころを実際の雰囲気がわかるようにまとめました。
小泉八雲記念館と小泉八雲旧居
八雲記念館と旧居は、松江の塩見縄手に並んで建っています。昔の城下町の空気がそのまま残る場所で、静かな水辺と白壁の家が続く落ち着いた一角にあります。記念館の中には、八雲が使っていた机や椅子、愛用の万年筆、初版本などが丁寧に展示されていて、創作に向き合った日々を想像しやすくなっています。自筆原稿の筆の流れを間近で見ると、作品の背景にある気迫や集中が伝わってきます。見学にかかる時間は30〜50分ほどですが、その短さの中で八雲が松江で受けた影響を実感できます。季節により開館時間は変わりますが、年間を通して訪れやすいスポットです。
塩見縄手と城下町の風情が残る通り
八雲記念館と旧居がある塩見縄手は、松江城の北堀に沿って武家屋敷が並ぶ美しい通りです。白壁の家々と水辺の緑が調和し、まっすぐに伸びた道の向こうにゆっくりと風が流れる光景を楽しめます。堀川を挟んでゆらゆらと動く水面や、落ち着いた町並みを歩くと、八雲が散策したころの雰囲気を想像しやすくなります。遊覧船に乗れば、堀の上から城下町を見られ、町の静けさの中にある奥ゆかしさが感じられます。どこか懐かしい情景が広がり、時間がゆっくり流れているように感じる通りです。
神魂神社など、八雲が関心を寄せた古社
神魂神社は、出雲地方を代表する古社のひとつで、静かな森に囲まれた神秘的な場所です。八雲は、日本の古い伝承や民話に強い関心を持っていたため、このような神社にたびたび心を動かされていたと言われています。境内に入ると、澄んだ空気が広がり、木々の間から見える光が神話の世界に入ったような気持ちにさせてくれます。出雲地方全体に広がる信仰や伝承にふれることで、八雲が作品で表現した日本の精神性をより深く理解できます。
ほかにもある“八雲ゆかりの地”の散策スポット
松江には、八雲ゆかりのスポットが14か所以上案内されています。その中には、石狐が並ぶ城山稲荷神社、八雲が通った学校の跡地、そして宍道湖の夕日などがあります。水辺の表情や静けさは、八雲が描いた日本の風景を思い出させます。また、地元の怪談や伝承をめぐる“松江ゴーストツアー”といった企画もあり、八雲の作品に影響を受けた土地ならではの体験ができます。歴史、自然、文化がすべて重なり、どの場所にも八雲が感じた“日本の美しさ”が息づいています。
なぜ“ゆかりの地巡り”が魅力なのか
書籍や情報だけでは届かない、八雲が見た景色や空気を体感できるところに魅力があります。城下町の落ち着いた町並みや、静かな水辺、古社の深い森は、どれも写真映えし、訪れる人の心に強く残ります。文学や歴史に興味がある人はもちろん、散策が好きな人や旅好きの人にも響く要素が多い地域です。実際に歩くと、八雲が松江でどんな刺激を受け、どんな思いで作品を書いたのかが自然と伝わってきます。ブログでも紹介しやすく、読者にも旅行のきっかけを与えられるテーマになります。
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