30代で染織の道へ…母から受け継いだ草木染めとの出会い
番組の冒頭では、まず志村ふくみの歩んできた道が紹介されます。
志村ふくみは1924年生まれ。
出身は滋賀県の近江八幡市で、若いころから文学や芸術に親しんできました。
染織に本格的に取り組み始めたのは、なんと30代になってからです。
母である小野豊の指導を受け、植物染料と紬糸を使った織物に出会います。
それまでの暮らしから大きく舵を切り、色と布の世界へ入っていったという流れは、番組の中でも印象的に語られます。
「人生の途中からでも、こんなにも深い仕事に出会えるのだ」と、見ている側にも勇気をくれるエピソードです。
補足として、近江八幡は琵琶湖の東側に位置する町で、古くから水運と商いで栄えてきた地域です。
豊かな自然と湖の光は、のちの作品世界に通じる「水」「光」「揺らぎ」といったイメージとも重なっていきます。
身近な植物を色に変える草木染めという仕事
この番組の核になっているのが、草木染めのシーンです。
志村ふくみが使うのは、特別な薬品ではなく、身近な草木。
野山で採った植物や、季節ごとに変わる素材を煮出して、糸に色を移していきます。
番組では、大きな鍋から立ちのぼる湯気、植物を煮出している音、ゆっくりと糸を染めていく手つきが、静かなカメラワークで追いかけられます。
一見すると地味な作業ですが、その一つ一つが「色との対話」になっていることが、映像から伝わってきます。
志村ふくみは、草木染めを「草木が抱く色をいただく」という感覚で語ってきました。
自分の思いどおりに染めるというより、草木が持っている色を引き出す、という考え方です。
一般的に草木染めは、同じ植物を使っても、季節や天候、採取した場所によって発色が変わると言われています。
そのため、レシピのように一度で「正解」が出るものではなく、何度も試しながら、わずかな違いを受け入れていく仕事でもあります。
番組を見ていると、鍋の中でゆらぐ布の表情や、湯気の向こうの光までが、一本の作品の一部なのだと感じられます。
紬糸を織り上げる紬織の表現と着物の手ざわり
染め上がった糸は、そのままでは完成ではありません。
ここから紬織の工程に入ります。
紬糸は、なめらかな絹糸とは違い、ところどころに節があり、少しざらりとした温かみのある質感が特徴です。
志村ふくみは、この紬糸を用いて、色の重なりと質感の両方を生かした着物や帯を織り上げてきました。
番組では、機に座った志村ふくみが、一段一段ていねいに筬を打つ姿が映されます。
一見同じ色に見える布地も、近づくと細い糸が何色も重なり合い、微妙な揺らぎを生んでいることが分かります。
補足として、紬織はもともと農村の副業として生まれた素朴な織物でしたが、戦後、作家たちの手によって芸術性の高い表現へと発展していきました。
志村ふくみの仕事は、その流れの中でも「色」と「ことば」を結びつけた独自の領域として高く評価されています。
藍一色一生が映し出す、色と人生の物語
この番組のサブタイトルにもなっているのが、随筆集のタイトルにもなった言葉、**「一色一生」**です。
一つの色を突き詰めていくことは、一つの生き方を深く掘り下げていくことにも似ています。
番組の中で映し出されるのは、鮮やかな色ばかりではありません。
曇り空のような灰色、夕方の川面のような青緑、枯れ草のような淡い黄土色…。
どれも、自然の中にふと現れる一瞬の色を、布の上に留めておこうとする試みです。
藍は、その中でもとくに大切な色として、くり返し登場します。
深い藍、にごった藍、わずかに紫を含んだ藍。
藍一色といっても、その中には数えきれないほどの表情があります。
藍染は日本各地で受け継がれてきた技法ですが、志村ふくみの藍は、物語や詩と結びついた色として、独自の世界を作り上げています。
紬織で初の人間国宝へ…評価された志村ふくみのまなざし
番組の紹介でも触れられているように、志村ふくみは1990年に人間国宝に認定されました。
分野は「紬織」。紬織で人間国宝となったのは、これが初めてです。
農村の手仕事として見られがちだった紬を、芸術の域にまで高めたことが、その大きな理由とされています。
番組では、その肩書きよりもむしろ、一人の作り手としての素朴な姿が印象的です。
外から見れば「巨匠」ですが、工房の中では、草木の様子や天気の変化を気にかけながら、毎日の染めと織りを続ける職人の顔をしています。
補足として、その後も志村ふくみは文化功労者、文化勲章受章者、京都賞受賞者となり、日本を代表するアーティストとして評価されてきました。
番組は、そうした栄誉の「結果」ではなく、その根っこにある日々の営みを静かに映している点が魅力です。
創作の現場を訪ねて…自然とともに呼吸するアトリエの時間
番組後半では、視聴者は志村ふくみの創作の現場を訪ねることになります。
工房には、染めに使う草木、糸の束、織りかけの反物などが、あわただしくではなく、落ち着いたたたずまいで置かれています。
窓から入る光は強すぎず、布の色がいちばんよく分かる柔らかな明るさです。
志村ふくみは、草木の色の変化だけでなく、そこに吹く風や、季節ごとの匂いも感じ取りながら制作を続けてきました。
番組のカメラも、早回しをすることなく、そのゆっくりとした時間の流れに合わせて動いていきます。
補足として、志村ふくみは娘の志村洋子、孫の志村昌司とともに、京都で芸術学校「アルスシムラ」を立ち上げ、草木染めや織りを次の世代へ伝える取り組みも続けています。
工房は、単なる作業場ではなく、「学び」と「継承」の場としても機能しているのです。
志村ふくみの作品に出会える場所と、広がり続ける草木染めの学び
番組を見終えると、「実物を見てみたい」と感じる方も多いはずです。
志村ふくみの作品は、公立美術館や専門館に収蔵されており、展覧会として公開されることがあります。
たとえば滋賀県の美術館では、収蔵品を中心にした大規模な展覧会が開かれたことがあり、初期から近年までの作品が一度に並ぶこともあります。
また、京都・岡崎にある細見美術館では、2026年に「特別展 志村ふくみ 百一寿 −夢の浮橋−」が開催され、源氏物語シリーズや「紫」をテーマにした作品、新作能「沖宮」の装束などが紹介される予定です。
これは番組本編とは別の情報ですが、テレビで作品世界に触れたあとに、実物の布地や色を体験できる場として、とても貴重な機会だと言えます。
草木染めや紬織に興味を持った人にとって、展覧会や芸術学校の存在は、「見る」「学ぶ」をつなぐ入り口になります。
番組をきっかけに、一歩先の世界へ踏み出せる道が、静かに広がっているのです。
まとめ:草木とともに生きるということを、画面越しに感じる夜
「藍一色一生」というタイトルどおり、この番組は、色とともに歩んできた一人の人生を、静かなトーンで追いかけていきます。
志村ふくみの言葉や手の動きから伝わってくるのは、「特別な人の遠い話」ではありません。
身近な草木を見つめ、小さな変化を受け入れ、それを自分の仕事にしていくという、地に足のついた生き方です。
草木染めや紬織に詳しくない人でも、映像の中の湯気や布のゆらぎを見ているうちに、不思議と心が落ち着いていきます。
それはきっと、自然のリズムと人のリズムが、ゆっくりと重なっていく様子を、画面越しに感じ取っているからかもしれません。
おとなのEテレタイムマシンの「土曜美の朝 藍一色一生 染織家 志村ふくみ」は、派手な演出や大きな事件がある番組ではありません。
それでも、見終わったあとに残る余韻は、とても深く、長く続きます。
色と布、そして草木とともに生きるということを、静かに味わいたい夜に、そっと寄り添ってくれる一本です。
【おとなのEテレタイムマシン】土曜美の朝 現代の用の美を求めて デザイナー柳宗理──代表作とデザイン思想から見える日用品の美しさ|2026年2月24日
志村ふくみさんの歩みを紹介します

(画像元:略歴 | しむらのいろ – 志村ふくみ、志村洋子公式ホームページ | SHIMURA NO IRO by Fukumi Shimura & Yoko Shimura)
志村ふくみさんについて、番組だけでは触れきれなかった背景を少し紹介します。草木と向き合いながら色を生み出し、紬糸を織り上げてきた長い時間には、積み重ねてきた経験があります。作品の奥にある道のりを知ると、番組の内容がさらに深く感じられます。
経歴を紹介します
志村ふくみさんは滋賀県近江八幡市に生まれました。若いころは文学や美術に親しみ、文化学院で学びました。三十代になってから植物染料と紬糸による織物を本格的に始めています。最初から専門家だったわけではなく、暮らしの中で草木と向き合いながら技を育てていった人です。やがて京都・嵯峨野に工房を構え、制作の中心を京都に移していきました。こうした背景を知ると、自然とともにある色の世界がどのように育ってきたのかがわかります。娘の志村洋子さんとともに「都機工房」を作り、作品制作と学びの場所を形にしていった流れも大切な一歩です。
実績と受賞の歩みを紹介します
志村ふくみさんの歩みの中で大きな節目となったのが、1990年の人間国宝認定です。草木染めで染めた糸を紬織として表現する道は簡単ではありませんが、その表現は着実に評価されていきました。紫綬褒章、文化功労者、文化勲章などの受賞は、長い年月をかけて積み重ねた表現が確かな形で社会に認められた証しです。さらに京都賞の受賞により、国内だけではなく世界の工芸・芸術の中でも高い評価を得ています。これらの受賞歴は、作品の裏にある努力と探究心の大きさを物語っています。
代表作を紹介します
代表作の中で特に知られているのが秋霞です。秋の景色の中に見える淡い霞の色を、草木染めの糸で丁寧に重ねて表現した紬織の着物です。一見すると静かな色合いですが、よく見ると細い糸が少しずつ違う色を持ち、重なり合うことで深い表情になっています。志村ふくみさんが草木からいただいた色をそのまま布に宿したような作品で、初期の代表作として今も語られています。
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