現代の暮らしに息づく柳宗理の“用の美”
このページでは『おとなのEテレタイムマシン土曜美の朝 現代の用の美を求めて デザイナー柳宗理(2026年2月24日)』の内容を分かりやすくまとめています。
1998年に放送された映像がよみがえり、柳宗理がどのように日用品の美しさと使いやすさを形にしてきたのかが描かれます。
静かな映像の中に、暮らしを支えるデザインの力がじわっと立ち上がるような回です。
手に取った瞬間に「これ、いいな」と感じる理由が少しずつ見えてきます。
柳宗理の原点と「おとなのEテレタイムマシン」の放送概要
この回では、日々の暮らしに静かに溶け込みながら、気づけば長く使い続けている道具たちに焦点が当たります。派手な装飾ではなく、手に持ったときの軽さ、洗うときの扱いやすさ、食卓に置いたときの佇まい。そうした細部の積み重ねを通して、デザイナーの発想の源に迫っていきます。
この番組の主役となるのは、工業デザインの世界で大きな足跡を残したデザイナー、柳宗理です。戦後の日本で「デザイン」という言葉がまだ新しかった時代に、彼がどのように生活の道具を考え、形にしてきたのか。その思考をたどることが、この放送の大きな軸になっています。
戦後日本を変えた工業デザインと「用の美」という考え方
柳宗理は、二十世紀を代表する工業デザイナーのひとりと言われています。戦後日本で量産技術が急速に発展するなか、彼は単なる「モノづくり」ではなく、日々の生活の質を上げるための道具づくりを目指しました。
その根っこには、父である柳宗悦が掲げた用の美という考え方があります。民藝運動が大切にしたのは、名もなき職人が、日々の暮らしのために作った素朴な器や道具の中にこそ、美しさが宿るという視点でした。息子である柳宗理は、その視点を受け継ぎながらも、量産される工業製品の世界で同じ「用の美」を実現しようとしたのです。
番組では、作品そのものだけでなく、スケッチや試作品を通して、「見た目の美しさ」と「使いやすさ」を同時に満たすためにどれほど試行錯誤していたのかが語られていきます。デザインの現場というと、ひらめきの一瞬が強調されがちですが、柳の言葉から伝わってくるのは、どちらかというと地道な観察と改善の積み重ねです。
背景として知っておきたいのは、第二次世界大戦後の日本では、台所用品や家具などの生活用品が急速に工業製品へと置き換わっていったということです。それまで木や土、竹で作られていたものが、金属やプラスチックになっていく。そんな時代に、「大量生産だからこそ、きちんとした形と使いやすさを」という柳の視点は、とても先進的でした。
バタフライスツールに象徴されるフォルムと機能のバランス
柳宗理の代表作として、必ず名前が挙がるのがバタフライスツールです。二枚の成形合板を金具で留めただけの、驚くほどシンプルな構造なのに、横から見ると蝶が羽を広げたような優雅な曲線が浮かび上がります。1950年代に発表されたこの椅子は、山形県天童市の家具メーカー天童木工とともに開発され、完成までに数年にわたる研究と試作が重ねられました。
現在では、バタフライスツールは世界各地の美術館に収蔵され、日本発のデザインを代表する一脚として知られています。ニューヨークのニューヨーク近代美術館 (MoMA)や、パリのルーブル美術館にもコレクションとして収められており、生活のための椅子でありながら、美術作品としても高く評価されているのです。
番組では、このような代表作を手がかりに、「座り心地」「強度」「見た目」のバランスをどうとったのか、柳自身の言葉や映像で辿っていきます。紙を折ったり曲げたりする「手遊び」から形が生まれ、そこから合板の技術を活かして、実際に人が座れる家具へと育てていくプロセスは、デザインに興味がある人にとってはもちろん、ものづくりが好きな子どもにも分かりやすい物語になっています。
キッチンツールと日用品に宿る、暮らしのためのデザイン
一方で、柳宗理の仕事は美術館に置かれるような名作家具にとどまりません。むしろ多くの人が毎日手に触れているのは、ステンレスボールやパンチングストレーナー、カトラリー、やかんなどのキッチンツールです。なめらかな曲線とマットなステンレスの質感を持つボールは、混ぜる・和える・泡立てるといった動作がしやすいように、サイズごとに形が工夫されています。
たとえば、ステンレスボールの小さいサイズはドレッシングや調味料を作るのに向き、中くらいのサイズは下ごしらえ、さらに大きなサイズはメレンゲやサラダの盛り付けに適した形になっています。フチの立ち上がり方や底の広さまで細かく調整されていて、「とにかく使いやすいから、つい毎日こればかり手に取ってしまう」という声が多いのも納得です。
番組では、こうした日用品が、単なる「便利グッズ」ではなく、用の美を体現する存在であることが語られます。派手なロゴも説明書きもない、けれど手に取るとしっくりくる。食卓やキッチンに置いても主張しすぎず、長く付き合うほど良さが分かってくる。そんな道具を作るために、柳宗理がどのようにサイズ展開や素材、仕上げを決めていったのかが、具体的な製品の例とともに紹介されます。
少しだけ背景を補うと、柳のステンレスシリーズは、プロの料理人だけでなく一般家庭にも広く普及し、「長く使える台所道具」として愛されてきました。これは、買い替えを前提とした消費ではなく、「いいものを選んで、長く使う」という暮らし方とも相性が良く、今日の価値観から見ても古びないデザインと言えます。
民藝運動と家族、そして金沢美術工芸大学との深い縁
柳宗理を語るうえで欠かせないのが、民藝運動とのつながりと、教育者としての顔です。彼は、民藝運動の中心人物だった父・柳宗悦と、声楽家の母・柳兼子の長男として生まれました。幼いころから工芸品や音楽、美術に囲まれて育ち、やがて前衛芸術や絵画に傾倒します。
やがて彼は、父が見つめていた「名もなき職人の仕事」に敬意を払いながら、工業製品の世界で同じ価値を実現しようと考えます。「デザイナーの名前が前に出る作品」よりも、「誰が作ったかを意識しなくても、自然に暮らしに溶け込む道具」を理想としたと言われますが、これは民藝の精神と工業デザインをつなぐ橋渡しのような姿勢でした。
また、柳宗理は金沢美術工芸大学でおよそ50年にわたり教鞭をとり、多くのデザイナーを育てました。その縁から、2012年には柳の作品や図面など約7000点が大学に寄託され、「柳宗理記念デザイン研究所」が設立されています。ここでは、バタフライスツールをはじめとする家具やキッチンツールが、実際の生活空間をイメージした展示のなかで公開されており、柳の「暮らしのためのデザイン」を体感することができます。
番組の中でも、こうした教育者・研究者としての側面や、民藝運動とのつながりが語られることで、ひとりのデザイナーの人生が立体的に浮かび上がってきます。
いま、柳宗理を振り返る意味と番組の見どころ
今回の「おとなのEテレタイムマシン」で放送される「土曜美の朝 デザイナー 柳宗理」は、1998年という少し昔の番組です。それでも、映像に映る道具や言葉は、いまの私たちにもまったく古さを感じさせません。むしろ、安くて早くて新しいものが次々と出てくる時代だからこそ、用の美という静かなテーマが心に残ります。
番組の見どころは、大きく三つあります。
ひとつ目は、デザイナー本人の声で語られる「考えるプロセス」です。完成した製品だけでなく、その裏側にあるスケッチや手の動きが紹介されることで、「形には理由がある」という当たり前のことが、驚きとして伝わってきます。
ふたつ目は、暮らしのなかに置かれた道具たちの静かな存在感です。テーブルの上のポット、コンロの横のやかん、シンクの中のボール。どれも見慣れた光景ですが、少し目線を変えるだけで、「ここにも誰かの工夫と美意識が隠れている」と気づかせてくれます。
そして三つ目は、「長く使えるものを選ぶ」という、ごくシンプルだけれど大切な態度を思い出させてくれるところです。柳宗理の作品は、流行のかたちではなく、暮らしのリズムそのものに合わせて作られています。その姿勢は、ものがあふれるいまの時代にこそ、大きなヒントになるはずです。
番組を見終えたあと、自分の家のキッチンや食卓をぐるっと見回してみると、「これは長く付き合いたい」「これは見直したい」と、道具との付き合い方が少し変わって見えてくるかもしれません。
そんな視点で、この「デザイナー 柳宗理」の回を楽しんでみてください。
デザイナー 佐藤卓が人生の最後に語る「なぜデザインは人を変えるのか」【最後の講義】|2026年1月7日
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