勝負を分ける「一手」とは?
この日の『明鏡止水 武のKAMIWAZA』は、シリーズの中でも特に熱量の高い回でした。
案内役は俳優であり武術家としても知られる 岡田准一、そして格闘技好き芸人としておなじみの ケンドーコバヤシ。そこに、世界トップレベルで戦う4人のファイターが集まりました。
テーマはシンプルで強い言葉です。
それが 「勝負を決める一手」。
ボクシング、極真空手、総合格闘技、ブラジリアン柔術。
ルールも体格も戦う場所も違う選手たちが、「ここだ」という瞬間に何を見て、どんな技を繰り出しているのか。
番組は、派手なハイライト映像ではなく、技の裏側にある“考え方”と“体の使い方”にじっくりカメラを向けていきます。
世界3階級制覇ボクサー・中谷潤人「ビーストモード」の正体
最初に登場したのは、プロ戦績 32戦32勝24KOの無敗、世界3階級制覇王者のボクサー 中谷潤人 です。
舞台になったのは、以前の世界戦。相手は 28戦無敗・ダウン経験なし の強敵。普通なら様子を見ながら慎重に戦いたくなる相手ですが、中谷はチャンスを見逃しませんでした。
そこから一気にスイッチが入るように、怒涛の連打で相手をロープへ追い詰め、キャンバスに沈めていきます。
この必殺ラッシュが、彼の 「ビーストモード」 です。
中谷がスタジオで見せたのは、そのビーストモードの“設計図”でした。
ポイントは大きく2つ。
ひとつは、相手の 死角に入るフットワーク。
もうひとつは、体を芯からひねり出す 軸回転パンチ。
正面からただ殴るのではなく、わずかに外側に踏み込み、相手の視界から自分の姿をズラす。そこから軸を回すように打ち込むことで、パンチは小さい軌道でも大きな威力を生みます。
ボクシングの世界では、足・腰・肩の「連動」がとても大事だと言われます。
中谷のパンチは、まさにこの連動が極まった形です。力任せではなく、体の構造を上手に使うからこそ、後半になってもスピードとキレが落ちないのだと分かります。
極真空手レジェンド・八巻建志「一撃必殺の突き」が生まれるまで
続いて登場したのは、極真空手のレジェンド 八巻建志。
八巻は、全世界空手道選手権大会優勝、さらに100人連続で対戦する「百人組手」を完遂した選手として知られています。
打たれ強さと攻撃力を兼ね備えた、まさに“鉄人”のような存在です。
そんな八巻が、生涯をかけて磨き続けてきたのが 「一撃必殺の突き」。
番組では、中谷潤人の弟・ 中谷龍人 が八巻の突きを実際に受けることになりました。
ミットではなく、胸に直接受けたその一撃に、中谷龍人は「芯に残る感じがする」と驚きます。
ここで専門家ゲストとして、八巻の姿勢や体の使い方が分析されました。
ポイントになっていたのは、
・骨盤がほどよく立った パワーポジション
・お尻の筋肉(大臀筋)や太ももの裏(ハムストリングス)をしっかり使えていること
・全身がガチガチではなく、必要な部分だけが締まっている脱力
空手の突きというと、腕の力で思い切り突っ込むイメージを持たれがちですが、本当に効く一撃は「足からの力」が通っています。
八巻の突きは、地面からの反力を体幹を通して拳まで一気に流すことで、“表面で叩く”のではなく“奥まで届く”感覚をつくっているのです。
中谷兄弟が語る、芯まで届くパンチと突きの共通点
番組の中盤では、ボクシングのパンチ と 極真空手の突き の共通点にも話が及びました。
中谷潤人が披露したのは、パンチを打つ時のこだわりです。
拳を握るとき、ただギュッと力を入れるのではなく、
「人差し指と中指の拳を意識して打つと、自分の骨格にはまりやすい」
と話します。
この意識を持つことで、腕の向きと手首、前腕の骨のラインが一直線に揃い、衝撃がぶれずに相手へ伝わりやすくなるのだといいます。
一方、八巻の突きも「芯をとらえる」「奥まで届く」という感覚を大切にしていました。
ボクシングと空手、ルールもグローブの有無も違う競技ですが、
・足から力を伝える
・体の軸を崩さない
・最後の瞬間だけギュッと締める
という考え方には、しっかり共通点が見えてきます。
総合格闘技・伊澤星花 どんな体勢からも極まる腕ひしぎ十字固め
3人目の主役は、女子総合格闘技界で無類の強さを見せる 伊澤星花 です。
伊澤は ディープ・ジュエルス で2階級制覇を達成し、さらに総合格闘技イベント RIZIN のスーパーアトム級王者としても活躍。腕十字固めなどの一本勝ちが多い、「極めのスペシャリスト」として知られています。
彼女の“勝負を決める一手”は、もちろん 腕ひしぎ十字固め。
番組では、総合格闘技で不利だと言われがちな ガードポジション(下からの体勢) から、どうやって腕十字に持ち込むのかが解説されました。
伊澤は、あえて相手が「殴りやすい」と感じるような位置に体を置きます。
そして相手がパンチを振り下ろしてきた瞬間、体をスッと回転させ、自分の脚で相手の腕と頭をコントロール。気づけば完全な腕十字の体勢になっているのです。
ここで岡田は、技のポイントとして 「空間」 に注目します。
相手の腕が通る“空中の線”を読み、その線を自分の体でふさぐようにポジションを取っている、という解説でした。
腕ひしぎ十字固めは、柔道やブラジリアン柔術でもよく使われるオーソドックスな関節技です。
しかし、伊澤のように「どんな体勢からでも同じ形に持っていける」選手は多くありません。
その裏には、何度もスパーリングを重ねて身につけた タイミングの感覚 と、相手の動きを読む “場の支配力” があるのだと感じさせてくれるシーンでした。
「タイソンと戦えるなら戦う」八巻建志が描いた異種格闘技の秘策
番組では、1990年代に盛り上がった 異種格闘技戦 の話題にも触れます。
その時代、極真空手の選手たちにも、総合格闘技団体からオファーが届いていました。
八巻にも、プロボクシングの伝説 マイク・タイソン との対戦を想定した話があったそうです。
八巻は冗談めかしつつも、「タイソンとやれるならやる」と本気で研究していました。
スタジオでは、そのとき考えていた “タイソン対策の一手” を再現します。
突進力のある相手に対して、まずは 上段への前蹴り で勢いを止める。
それによって、相手の意識を顔・上半身に向けさせ、次に 中段への攻撃 でさらに意識を分散。
最後に、足元へ 下段回し蹴り を叩き込んでダメージを蓄積させる——。
これは、極真空手ならではの 「三段構え」 のような発想です。
実現こそしませんでしたが、世界最強クラスのボクサーと戦うために、どんな“絵”を描いていたのかが垣間見える、ファンにはたまらないコーナーでした。
ブラジリアン柔術・石黒翔也「ショウヤロック」と最新グラップリング理論
4人目は、ブラジリアン柔術黒帯で、世界トップレベルのグラップリング大会でも結果を残している 石黒翔也 です。
石黒は、世界的な総合格闘技イベント ONE Championship のサブミッショングラップリング部門でも活躍。IBJJF世界選手権など、メジャー大会で入賞を重ねる日本人トップグラップラーです。
そんな石黒の“勝負を決める一手”が、彼の代名詞にもなっている 「ショウヤロック」。
ショウヤロックは、相手の首を自分の脇でしっかりと挟み込み、上体を反らせながら 頸椎(首の骨)周りに強いプレッシャーをかける 危険な技です。
ただ力任せに絞めているのではなく、
・相手の頭の位置
・自分の腰の高さ
・足のフックのかかり方
を細かく調整しながら、少しずつ逃げ道をふさいでいくのが特徴です。
番組では、このショウヤロックに至るまでの組み立ても紹介されました。
数年前、柔術界で大流行した 「キス・オブ・ザ・ドラゴン」 という足を絡めるテクニックに対し、石黒は 「クラブライド」 というコントロールで対抗。
相手の腰の後ろに自分の足を絡め、常に背中側をキープし続けることで、相手の得意な動きを封じたうえで、自分の得意なショウヤロックに持ち込んでいく——。
ここにもやはり、単なる力比べではない 「場の支配」 の考え方が貫かれています。
石黒翔也 vs 中谷潤人 明鏡止水だから実現した夢のグラウンド対決
番組終盤では、この番組ならではの夢の企画が用意されていました。
それが、石黒翔也 vs 中谷潤人 のグラウンド限定対決です。
ルールは石黒にとってかなりハンデのあるもので、
・石黒は「手でつかむ行為」が禁止
・中谷は「胸を合わせれば勝ち」
という条件つき。
ふたりが組み合うと、石黒は足さばきと腰の動きだけで、中谷の体をコントロールしていきます。
中谷も必死に重心を乗せ、ボクサーならではのバランス感覚で踏ん張りますが、なかなか完全には上を取り切れません。
時間が来て対決が終わると、中谷は
「ずっとコントロールされていました」
と素直に感想を述べます。
一方の石黒は、中谷について
「切り替えが上手」
とコメント。
一瞬で状況を判断し、次の動きに移る“反応の速さ”は、リングで世界を相手に戦ってきたボクサーならではの武器だと語りました。
このコーナーは、競技が違っても「強い選手どうしが技術を認め合う」尊さを感じさせてくれます。
勝ち負けではなく、お互いの持ち味を引き出し合う、番組タイトルどおりの 「明鏡止水」 の時間でした。
4人のトップファイターに共通する「場の支配」とは何か
今回登場した4人のファイターは、競技もキャリアもバラバラです。
・世界3階級制覇ボクサー 中谷潤人
・極真空手のグランドスラム王者 八巻建志
・女子総合の支配者 伊澤星花
・世界で戦う柔術グラップラー 石黒翔也
しかし、番組を通してじっくり見ていくと、彼らにははっきりした共通点がありました。
それは、技そのものよりも先に、まず 「場を支配する」 ことを考えている、ということです。
相手の動きがどこへ向かうのか。
次の一手を、体の角度や重心の位置から読み取る。
空いている“空間”を先回りして奪いにいく。
そのうえで、自分の得意な ビーストモード、一撃必殺の突き、腕ひしぎ十字固め、ショウヤロック に持ち込んでいきます。
「強い技」を探すのではなく、
「技が決まる状況」を自分で作り出す。
この視点こそが、トップ選手たちの “勝負を決める一手” の正体なのだと感じさせてくれる回でした。
格闘技が好きな人はもちろん、スポーツ全般や仕事の勝負どころに興味がある人にとっても、学びの多い30分だったのではないでしょうか。
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