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NHK【小泉八雲のおもかげ】ばけばけトミー・バストウ巡るアイルランドとニューオーリンズ クレオール文化と松江の記憶|2025年11月3日★

人物

異国を旅した心の軌跡 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の物語

朝ドラ『ばけばけ』でヘブンを演じるトミー・バストウが挑むのは、単なる役作りのための取材ではありません。それは、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)という一人の文学者の人生を追体験する、魂の旅です。ドラマの舞台でもある島根県松江をはじめ、彼の人生に大きな影響を与えたアイルランドニューオーリンズを巡りながら、トミーは“異国の中で自分を見つけた男”の足跡をたどります。この記事では放送前の時点でわかっている情報をもとに、ハーンが世界を旅した意味を深く掘り下げ、後日放送内容を反映して追記予定です。

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アイルランド 孤独が育てた異文化への感受性

1850年6月、ギリシャのレフカダ島で生まれたラフカディオ・ハーンは、幼くして運命の荒波に翻弄されます。父はアイルランド人の軍医チャールズ・ブッシュ・ハーン、母はギリシャ人のローザ・カッシマティ。国籍も文化も異なる両親の間に生まれた彼は、幼少期に両親が離別し、母国語さえ安定しない環境で育ちました。その後、アイルランド・ダブリンにある父方の大叔母サラ・ブレナンのもとに預けられます。

この頃から、ハーンは“外の世界から自分を見つめる”感性を持つようになります。異国の血を引きながらも、保守的なアイルランド社会の中で自分の居場所を見つけられず、孤独を感じていたと言われています。16歳のときには事故で左目を失明。視覚を失う痛みと引き換えに、彼は「見るのではなく、感じ取る」観察力を身につけました。

彼が後年に描いた『知られぬ日本の面影』には、そんな彼の“内側のレンズ”が反映されています。風景を見つめるだけでなく、人の心の機微や空気の揺らぎまでを文章でとらえる力。その根底には、このアイルランド時代に育まれた「他者として世界を感じる感性」が息づいています。

アイルランドはまた、カトリックとプロテスタントの対立、イギリス支配という複雑な政治的背景を抱えた地でもありました。こうした社会的緊張の中で育ったことが、彼の“境界に立つ人間”としての視点を形成したといわれています。19歳で故郷を離れたとき、彼の胸には「どこかに本当の自分の居場所があるはずだ」という強い願いがありました。

ニューオーリンズ 人種と文化が交わる街での覚醒

アイルランドを後にしたハーンは、19世紀後半のアメリカへと渡ります。最初はシンシナティで新聞記者として働きますが、やがてより自由な文化の香りを求めて南部のニューオーリンズに移住します。そこは、フランス、スペイン、アフリカ、そしてカリブの文化が混ざり合う“人種の坩堝”でした。

この地でハーンは、自身の中に眠っていた好奇心を完全に解き放ちます。彼は路地裏に入り込み、クレオール系住民の言葉、音楽、宗教、料理を克明に記録。黒人霊歌やブードゥー信仰に見られる“見えない力への畏れ”に、日本の民俗信仰と共通するものを感じていました。

1885年に出版された『La Cuisine Crèole(ラ・キュイジーヌ・クレオール)』は、ニューオーリンズの庶民の台所を描いた最初期のレシピ集として知られています。単なる料理本ではなく、彼はその背景にある文化や生活をも文章で伝えました。彼にとって食文化とは、人間の記憶そのものだったのです。

また、当時のアメリカ社会では差別の中にあった黒人や混血の人々に寄り添い、主流文化が見落としていた“もう一つのアメリカ”を描こうとしました。こうした姿勢は、後の日本での執筆活動でも貫かれます。人々の心の奥に潜む“物語”を記録しようとする視線――それは、ニューオーリンズという街で完成されたと言えるでしょう。

松江 静かな湖畔で見つけた“日本の心”

1890年、ラフカディオ・ハーンは日本へ渡ります。当初の目的は英語教師としての赴任でしたが、彼を迎えたのは宍道湖の静かな波と、神々の国・出雲の穏やかな空気でした。赴任先は島根県松江市。ここでの1年余りの滞在が、彼の人生を大きく変えます。

松江では、侍の末裔や庶民、僧侶、漁師といった人々と触れ合いながら、日本の“情緒”に心を奪われていきます。街の人々の優しさ、季節ごとの行事、神話の残る土地。彼はそれらを丹念に観察し、『日本の面影』のもととなる記録を取り始めます。

この地で出会ったのが、後に妻となる小泉セツでした。彼女を通じて日本人の精神性に深く触れたハーンは、やがて日本国籍を取得し、「小泉八雲」と名乗ります。松江の風景と人々との出会いは、彼が“自分の居場所”を初めて見つけた瞬間でした。

現在の松江には小泉八雲記念館旧居が残り、執筆机や蔵書など、当時の生活を今に伝えています。宍道湖畔に沈む夕日や、武家屋敷の町並みは、彼が感じた「静けさと魂の美」をそのまま宿しています。番組ではトミー・バストウがこの地を歩き、八雲が見た“日本の原風景”を追体験する姿が描かれるでしょう。

世界をつなぐ精神の旅

小泉八雲の生涯は、異文化の狭間を漂う一人の旅人の記録でもありました。アイルランドでの孤独、ニューオーリンズでの多様性、松江での精神的救済――この三つの地が彼の文学と人生を形づくりました。
彼の作品には「境界に立つ人間」への共感が流れています。見知らぬ文化を恐れず、むしろその“異質さ”を美として受け入れる。彼が生きた時代の西洋では珍しい視点でした。現代のグローバル社会にも通じるこの考え方は、今なお読む人の心に新しい光を灯します。

そして、その精神を演じるトミー・バストウもまた、イギリス出身の俳優として日本で活躍しています。自らも“異国で生きる者”として、八雲の心情を誰よりもリアルに感じ取っているのです。彼が旅先でどんな表情を見せるのか――その姿は、八雲が遺した“共感の文学”の現代的再生となるでしょう。

まとめ

この記事のポイントは以下の3つです。
アイルランドでの孤独と葛藤が、異文化への深い感受性を育てた
ニューオーリンズで多文化の息づかいに触れ、人間の多様性を理解した
松江で“日本の心”と出会い、自らの居場所を見出した

『ばけばけ』で描かれるトミー・バストウの旅は、単なるロケではなく、二つの時代と二人の人生を重ねる“心の対話”です。放送後には、アイルランドや松江での具体的なエピソード、現地取材の映像内容を追記予定です。

小泉八雲が生涯をかけて探したのは、言葉や国境を越えた“魂の共鳴”。そのおもかげを今、現代の俳優トミーが再び呼び覚まそうとしています。彼らを結ぶ静かな旅が、きっと私たちの心にも深い余韻を残してくれるでしょう。


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