お盆の鳥取・海辺に広がる花見潟墓地の3日間
鳥取県琴浦町にある花見潟墓地は、日本海沿いに約2万基もの墓石が並ぶ、西日本最大級の自然発生型墓地です。お盆の時期になると、地元の人や遠方からの帰省客が集まり、迎え火や灯籠の明かりで埋め尽くされます。今回の「ドキュメント72時間」では、8月13日から16日までの4日間、この墓地を訪れる人々と風景にカメラを据え、その日々を追いました。番組では墓地の成り立ちや独特の風習、そしてそこに込められた思いが静かに描かれています。この記事では、放送で紹介された全エピソードと花見潟墓地の情報をまとめます。
花見潟墓地の概要と特徴
花見潟墓地は中世後期から形成されたとされる自然発生型墓地で、東西約350m、南北19〜79mに広がります。海に面した立地のため、潮風と波音が常に届く静かな空間です。中には赤碕塔や河原地蔵尊などの文化財があり、歴史的価値も高い場所です。文学では小泉八雲が新婚旅行で訪れた記録を残し、長大な墓地に霊気を感じたと記述しています。お盆には各家の墓前に灯籠が設置され、夜になると炎の明かりが海風に揺れ、幻想的な景観が広がります。
花見潟墓地で迎えたお盆の4日間の記録
8月13日(火)初日
撮影が始まった初日、真夏の強い日差しの下で、海岸沿いに広がる花見潟墓地には朝から絶え間なく人々が訪れていました。代々この地に墓を構え、長年守り続けてきたという自営業の男性は、家の歴史とともに続くお墓参りをこの日も欠かさず行っていました。墓前では親戚が揃い、線香の香りが立ちのぼる中で静かに手を合わせる姿が見られます。夕暮れが近づくと、迎え火の炎が次々と灯り、石碑や灯籠の輪郭が柔らかな光に照らされました。日が沈み夜が訪れると、人影は少なくなり、灯籠の明かりと波の音だけが残ります。海風に揺れるその光は、広い墓地全体を穏やかに包み込むようでした。この時間帯に訪れた教員の女性は、妹の墓前で一人静かに佇み、自らと向き合うひとときを過ごしていました。
8月14日(水)お参りが続く一日
2日目の朝、墓地の前に広がる海ではサーフィンを楽しむ人の姿が見られ、波の音が絶えず耳に届きます。その中でも、お参りに訪れる人は途切れません。祖父母の墓に花を手向ける家族は、小さな子どもにも先祖を敬う気持ちを教えていました。毎月欠かさず両親の墓参りを続ける70代の女性は、この日も季節の花を抱えて訪れ、墓前に彩りを添えました。近隣で仕出し料理店を営む女性は、お盆の注文が集中する繁忙期にも関わらず、合間を見つけて足を運びます。この日はさらに、祖母の初盆を迎えた男性が、家族総出で墓前を整え、供物や灯籠を準備する様子もありました。
8月15日(木)地域の暮らしに根付く墓地
3日目の朝、墓地の片隅ではゴミ袋を手にした男性が清掃をしていました。小さい頃から墓地を遊び場として育った彼にとって、墓参りのついでに掃除をすることは長年の習慣になっています。前日に取材した仕出し屋の女性とも再び顔を合わせ、この日は店の裏側や自宅の様子を見せてもらう場面がありました。調理場ではお盆料理の準備が進み、地域にとって墓地とお盆行事が生活と密接に結びついていることがよくわかります。花見潟墓地は単なる供養の場ではなく、地域の営みの一部として息づいていることを実感できた日でした。
8月16日(金)送り火と別れ
最終日の朝、まだ薄暗いうちから大阪から帰省した夫婦が父の墓前に現れました。父は急に亡くなっており、生前行っていた送り火の方法を思い出しながら、静かに火を灯していました。空はやがて灰色の雲に覆われ、雨が降り出します。そんな中、海外から来た女性は、離れた土地でも祈りを続けてきた思いを胸に手を合わせていました。終盤には、三世代が揃って墓地を訪れる家族の姿もあり、祖父母から孫までが一列に並び、ゆっくりと手を合わせる姿は、お盆が家族を結びつける重要な行事であることを物語っていました。
花見潟墓地の基本情報
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住所:〒689-2501 鳥取県東伯郡琴浦町赤碕
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電話:0858-55-7811(琴浦町観光協会)
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営業時間・定休日:常時開放
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アクセス:JR山陰本線「赤碕駅」から徒歩約10〜14分/日ノ丸バス「八幡坂」から徒歩約6分/駐車場あり(約33台)
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特徴:中世後期以降の自然発生墓地で、文化財や史跡が点在。お盆時期の灯籠景観は必見
花見潟墓地は、観光地でありながら、地域の人々にとっては日常の一部であり、家族や先祖との時間を過ごす場所です。「ドキュメント72時間」では、そこに集う人々の思いと、海辺の墓地が見せるお盆の表情が丁寧に描かれていました。静かな波音と炎の灯りが織りなす空間は、訪れる人の心に深く残る場所です。
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