雫石の人気ジェラート店「松ぼっくり」に学ぶ51歳からの冒険
岩手県雫石町にある人気ジェラート店「松ぼっくり」は、夏になると観光客や地元の家族連れで行列ができるほどのにぎわいを見せています。運営しているのは松原久美さん(75歳)。実はこのお店を始めたのは51歳のときでした。「50代からの挑戦なんて遅いのでは?」と感じる人もいるかもしれませんが、松原さんは地域を元気にするために立ち上がり、いまでは岩手を代表する人気スポットに育て上げています。この記事では、松原さんがなぜアイス屋を始めたのか、その背景や成功の秘訣、さらに地域とのつながりについて詳しく紹介します。
酪農家から新しい夢への転身
松原さんは雫石町の米農家に生まれました。中学卒業後に修行を積み、その後は酪農をスタート。牛を約40頭飼育し、全国でも表彰されるほどの実力を持つ酪農家となりました。安定した酪農経営をしていた彼が、なぜ全く違う分野であるジェラート作りを始めたのか。そのきっかけは、旅行中に偶然出会ったアイス製造機でした。
当時、海外の酪農家はただ牛乳を出荷するのではなく、チーズやアイスなど加工品に力を入れて収益を伸ばす動きをしていました。松原さんも「これからは加工が大事だ」と直感的に感じたといいます。さらに1998年に地震が発生し、街の復興を考えたとき「自分も何かできることをしたい」と思い立ったのです。
東京で学んだジェラートの技術
アイス屋をやると決めた松原さんは、東京で活躍するジェラート職人のもとを訪ね、基本から学びました。牛乳や生クリームの扱い方、果物や野菜を組み合わせる工夫、さらに接客の姿勢まで、すべてを一から習得しました。また、材料はできるだけ自分たちで調達する方針をとり、奥さんが畑で果物や野菜を栽培。まさに家族ぐるみでの挑戦となりました。
そして2001年、ついに「松ぼっくり」を開業。開店当日には祝賀会が開かれ、町の人々が大勢駆けつけました。酪農家がアイス屋を始めるという珍しさもあり、新聞やテレビでも紹介され、注目を集めました。
行列が絶えない理由とは
「松ぼっくり」のジェラートは常時10種類以上のメニューがそろっています。地元の牛乳を使った定番フレーバーから、旬の果物を取り入れた期間限定の味まで幅広く、何度訪れても新しい発見があります。店のすぐそばには自然あふれる場所が広がり、緑を眺めながらアイスを食べる時間は特別なひととき。口コミが広がり、岩手県内だけでなく青森や東京からも観光客が訪れるようになりました。
地域農家を支える直売所
経営が安定すると、松原さんは店の隣に農産物直売所を設置しました。ここには毎朝、近隣の農家が野菜や果物を持ち寄ります。駐車場まで販売スペースとして使われ、地元の人や観光客でにぎわうようになりました。
この直売所は農家にとっても大きな助けとなり、余った野菜を有効に販売できる場になっています。松原さんは「農家同士がつながりを持つことが、震災など非常時の助け合いにもつながる」と考えており、単なる商売を超えた地域連携の場になっているのです。
耕作放棄地の活用と観光地づくり
松原さんはさらに、耕作放棄地の再生という新たな挑戦にも取り組んでいます。人手不足で放置されていた土地を重機で整備し、景観を整える作業を自ら行っています。こうした取り組みで、新たな観光スポットを生み出し、町全体を盛り上げようという狙いがあります。アイス屋で生まれた雇用だけでなく、地域振興や観光促進にもつながる取り組みは、まさに「地域再生のモデル」とも言えるでしょう。
「松ぼっくり」が示す未来へのヒント
松原さんの挑戦は「遅すぎる挑戦はない」ということを教えてくれます。51歳から始めたアイス屋は、いまや地域を代表する人気スポット。ジェラートの美味しさだけでなく、直売所や観光地化への努力が相まって、多くの人を惹きつけています。
同じように「自分も何か新しいことを始めたい」と思う人にとって、この物語は大きな勇気になるでしょう。人生のどの段階からでも、新しい挑戦をすることで地域を変え、自分自身も成長できるという実例なのです。
まとめ
「松ぼっくり」は単なるアイス屋ではありません。雫石のまちを元気にする拠点であり、人と人をつなぐ場所です。ジェラートを楽しみに来た人が、農家の新鮮な野菜や果物を買い、町の景色に癒やされる。そんな循環が生まれています。
51歳からの冒険は、75歳となった今でも続いています。耕作放棄地の活用や地域観光の推進など、次々と新しい挑戦を重ねる松原さん。雫石を訪れたときは、ぜひ「松ぼっくり」に立ち寄り、その物語と共に味わうジェラートの特別さを体感してみてください。
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