京都の自然と生きものが織りなす1000年の物語
2025年9月7日放送の「ダーウィンが来た!」では、1000年の都・京都を舞台に、古都の歴史と共に生きる動植物の世界が紹介されました。観光で訪れるとお寺や街並みに目を奪われがちですが、実はそこに多様な生きものたちが息づいています。この記事では、放送で取り上げられたエピソードをすべて詳しくまとめ、京都という都市がどのように人と自然の調和を保ってきたのかを解説します。読者の「京都に本当にそんな豊かな自然があるの?」「都会なのにどうして生きものが暮らせるの?」という疑問にも答えていきます。
お寺の森に広がる命のすみか
まず紹介されたのは、京都市左京区にある法然院の森です。この森はお寺の境内に広がっていますが、豊かな自然が残されており、多くの野生動物が暮らしています。
春になると、アオバズクが東南アジアから渡ってきます。毎年同じ森に戻り、子育てをする姿が見られるのは、森の環境が安定している証拠です。さらに、同じ森にはフクロウも巣を作り、ヒナを育てています。夜の森を響かせる鳴き声は、この土地の自然と文化を象徴する存在です。
そして、ひときわ注目を集めたのがムササビです。大きな飛膜を広げて滑空する姿は圧巻で、一度に100m以上移動できるといわれます。法然院の観察では、10匹以上のムササビが確認され、毎年繁殖も行われているそうです。ムササビは冬眠しないため、一年を通じて食料が必要です。この森には花や実をつける植物が多く、季節ごとに食べ物が確保できるのです。また、古木にできたウロ(樹洞)は巣作りにぴったりで、歴代のお坊さんたちが森を守り続けてきたことが、彼らの暮らしを支えています。
街なかに根づく鳥たちの暮らし
次に紹介されたのは、街中の寺院にすむ小さな鳥たちです。京都の寺の建物や装飾の隙間は、スズメにとって安全な巣作りの場。人と建物が密集する都市の中でも、スズメはしたたかに生きています。
さらに要法寺では、カモが地域の人気者になっています。カモの親子は境内で人々に見守られながら成長し、大きくなると広い水辺を求めて約700m離れた鴨川へ移動します。そのときには地域の人々が付き添って引っ越しをサポートする習慣があります。街と自然が分断されるのではなく、住民が関わりながら生きものと共に暮らす京都らしい光景です。
人と自然をつなぐ鴨川
京都を象徴する川といえば鴨川です。北山から流れ出し、市街地を貫いて南へ約30km流れる川ですが、その流域の7割は山地で、豊かな清流が街中まで届きます。
この川には20種類以上の魚が生息しており、さらに国の特別天然記念物であるオオサンショウウオも暮らしています。都市の中心部を流れる川でこれだけ自然が残されているのは驚きです。背景には市民による保全活動があります。魚が上流に戻れるようにと魚道が設置され、川の流れが分断されないよう工夫されています。
また、鴨川には多くの水鳥がやってきます。中でもゴイサギはおとなしい性格で、気の強い他のサギに追われがちですが、それでも川辺でひっそりと生き続けています。川を舞台に繰り広げられる鳥や魚の営みは、京都の街のすぐ隣で見られる自然のドラマです。
コケ庭に広がる生命の小宇宙
番組後半で紹介されたのは、鴨川の源流を守る志明院です。この寺は平安時代に空海が創建したと伝えられ、境内の奥から湧き出る水は鴨川の源流のひとつとして信仰されてきました。
京都盆地は雨が地下にたまりやすい地形で、その量は琵琶湖に匹敵するともいわれます。その地下水が各所で湧き出し、湿度の高い環境をつくるため、コケがよく育つ条件が整っています。志明院の境内には美しいコケ庭が広がり、そこに小さな命の循環が息づいています。
例えば、ミカドシリブトガガンボの幼虫はコケを食べて育ち、キシノウエトタテグモはコケでカモフラージュした巣をつくって獲物を待ち伏せします。さらに、クモに寄生して育つクモタケという菌も紹介され、自然界の厳しい生存競争を感じさせました。
また、寺の軒先ではオオルリがコケを材料に巣をつくり、ヒナを育てています。コケ庭を美しく保つには人の手で落ち葉を掃除したり、湿度を守る工夫が欠かせません。その日々の管理こそが、コケに依存して生きる生物たちの命を支えているのです。
ムササビの恋の季節
物語のラストは再びムササビに戻りました。秋になると繁殖の季節が訪れますが、メスがオスを受け入れるのはわずか1日。その短いチャンスをめぐって、オス同士が激しい競争を繰り広げます。滑空の名手である彼らのバトルは、森の夜に緊張感をもたらし、命の営みを感じさせます。
まとめ
今回の「ダーウィンが来た!」は、観光都市の顔を持つ京都が、実は豊かな自然と共存してきた場所であることを改めて示しました。お寺の森ではフクロウやムササビが暮らし、街中の寺ではスズメやカモが人と一緒に育ち、鴨川ではオオサンショウウオや魚たちが清流を守られながら生きています。さらに志明院のコケ庭では、小さな昆虫や菌類まで含めた多様な命が営まれています。
歴史ある建物や景観は人々の努力で守られてきましたが、その陰には自然環境も大切にする姿勢がありました。京都を訪れる際、観光名所の奥に広がるこうした自然の物語に目を向けると、旅の楽しみが一層深まります。人と自然が共に生きる1000年の都・京都の魅力は、これからも受け継がれていくでしょう。
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