ご近所から魚屋さんが消えた!?住民が立ち上げた新しい挑戦
かつて日本の住宅街には、歩いて数分のところに魚屋や八百屋がありました。買い物ついでに世間話をして、旬の魚の食べ方を教えてもらえるような温かい交流の場でした。しかし今、そうした風景は急速に失われつつあります。特に高齢化が進む地域では、商店街の閉店が相次ぎ、「新鮮な魚を買いたいけど近くにお店がない」という声が多く聞かれるようになりました。こうした問題に直面した鎌倉市今泉台の住民たちは、「店がないなら自分たちで作ろう」と立ち上がり、鮮魚店「サカナヤマルカマ」を誕生させたのです。
商店街が消えていく背景
全国的に商店街の衰退が問題になっています。その理由のひとつが、経営者の高齢化と後継者不足です。令和3年度の調査では、全国の商店街のうち64.5%が「後継者がいない」と回答。東京都では68.4%にも上りました。さらに、来街者数が減ると空き店舗が増え、買い物客がさらに減るという悪循環に陥ります。郊外型の大型商業施設が増えたこともあり、利便性や品ぞろえで劣る商店街は競争力を失いつつあるのです。鎌倉市今泉台でも、かつてはあった魚屋が閉店し、買い物に不便さを感じる住民が増えていました。
住民と漁業者の協働による店づくり
そんな中で生まれたのが「サカナヤマルカマ」です。地域住民と鹿児島県阿久根市の漁業者がタッグを組み、一般社団法人を母体として運営されています。阿久根の漁業者は、魚価の低迷や販路不足に悩んでいました。一方、今泉台の住民は「魚屋がない」という不便を抱えていました。この二つの地域課題を結びつけることで、新しい仕組みが生まれたのです。
運営に関わるのは、地元の町内会長や住民ボランティア。販売や広報だけでなく、イベントの企画まで協力し合いながら支えています。単に「商品を売る店」ではなく、「地域が一緒に育てる店」というスタイルが特徴です。
総菜販売が暮らしを支える
サカナヤマルカマの人気の理由のひとつが、総菜販売です。新鮮な魚をそのまま販売するだけでなく、刺身盛り合わせや日替わりの総菜、干物などを扱っています。「魚をさばくのが大変」「一人分の調理は面倒」という声に応え、買ってすぐに食べられる商品をそろえているのです。
例えば、岩牡蠣や炭焼きの魚に加え、煮付けやフライといった家庭的な惣菜も提供。移動販売では昼休みに食べられるような軽食タイプの総菜もあり、忙しい家庭や高齢者に喜ばれています。実際に「魚屋が復活して夕食づくりが楽になった」という声も寄せられています。
地域の食文化を守る拠点に
サカナヤマルカマは、ただの魚屋ではありません。地域の食文化を未来に受け継ぐ拠点でもあります。「マルカマクラブ」というイベントでは、魚のプロが調理法や魚の背景を教えてくれるワークショップを開催。子どもから大人まで楽しみながら魚食文化を学べる場になっています。
また、関東ではあまり流通しない魚種を扱うことも特徴です。こうした取り組みによって、地域の食卓に新しい食材を届け、食文化の多様性を広げています。さらに、地元の祭りやイベントにも出店し、住民同士の交流の場を作る役割も果たしています。
買い物の楽しみを取り戻す
サカナヤマルカマの存在によって、「買い物が楽しみになった」という声も増えています。かつて商店街で交わされたような「今日は何を買おうかな」「どうやって調理するのがいい?」という会話が、再び地域に戻ってきたのです。これは単なる買い物以上に、生活の豊かさや人と人とのつながりを生み出しています。
まとめ
-
商店街の衰退の背景には高齢化・後継者不足・大型店との競合がある
-
「サカナヤマルカマ」は住民と漁業者の協働で誕生した鮮魚店
-
魚販売だけでなく総菜や移動販売で暮らしを支える
-
食文化を学び継承する拠点として地域に根付いている
この取り組みは、「地域の課題は地域で解決する」というシンプルで力強い答えを示しています。サカナヤマルカマは、魚屋の復活以上に、住民の生活を豊かにし、人と人をつなぐ新しい時代の“商店街”の形を描いているのです。
コメント