船名に隠された日本の知恵と祈り
船に名前がついている理由を考えたことはありますか?普段何気なく目にしている『フェリー』や『漁船』の名前ですが、実は深い歴史と文化が込められています。「なぜ船名が必要なのか」「なぜ『丸』が多いのか」気になって検索している方も多いでしょう。私自身も最初は「ただの識別のため」と思っていましたが、調べていくと神様への祈りや人々の生活と結びついていることが分かり、驚かされました。この記事では、2025年9月26日放送のNHK総合『チコちゃんに叱られる!』で紹介されたエピソードをもとに、船名の謎を歴史・文化・言葉の面から分かりやすく解説します。読み終えたとき、きっと港や漁港で船を眺める目が変わるはずです。
船名が欠かせない最大の理由は「安全祈願」
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船に名前をつけるのは『安全祈願のため』です。海に出る船は、大きな自然の力に立ち向かう存在です。昔から人々は、海の安全を神様に祈ってきましたが、その際に船に名前がないと「どの船を守ってほしいのか」が分からないと考えられてきました。だからこそ、船には必ず名前を与える必要があったのです。
立命館大学の大形徹教授によると、現在では国土交通省の省令によって、船名は法律上も定められています。特に日本の領海外に出る船には必ず名前を持たせなければならず、その理由は「船のパスポート」を発行するためです。船のパスポートとは「船舶国籍証書」のことで、これがなければ国際的に航行することができません。つまり、船名は昔の祈りのためだけでなく、現代の国際ルールでも欠かせないものとなっているのです。
歴史を振り返ると、古墳時代にはすでに船名の記録が残されています。日本最古の船名とされるのが『枯野』という名前です。この名は、大自然の力に畏敬の念を抱いた当時の人々の心をよく表しています。自然と共に生きる古代人にとって、船は命を預ける大切な道具でした。そのため、単なる道具ではなく「魂を宿す存在」として、特別な名前を与えたと考えられます。
また、神奈川県三浦市の海南神社でも、船名は祈願の際に重要な役割を果たしています。神職の米田さんは「神様にお願いするときは、どの船の安全を祈るのかを分かりやすく伝える必要がある」と話しています。具体的な名前があることで、祈りの対象がはっきりし、神様にきちんと届くと信じられているのです。
さらに、日本では古くから船名に対するこだわりが強く、漁師や船主は家族や土地にゆかりのある言葉を選んできました。こうした伝統は現代のフェリーや漁船にも引き継がれており、船名は単なる識別のための記号ではなく、人々の願いや歴史を映す鏡のような存在になっています。
船名に多い「丸」の由来
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日本の船名で最も多いのが『〇〇丸』という形です。港に並ぶ漁船やフェリーを見渡すと、『松雄丸』『佐助丸』といった名前が数多く見られます。これらの名前には、土地や家族、信仰に由来する意味が込められていることが少なくありません。たとえば神奈川県の松輪漁港では、土地の名「松」と家族の名「雄」を合わせた『松雄丸』があり、また佐助稲荷神社を信仰する家では『佐助丸』と名付けられる例もあります。このように、船名は持ち主の思いや地域の歴史を反映しているのです。
では、なぜ「丸」という言葉が船名に添えられるのでしょうか。その語源については諸説あります。
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坂上田村麻呂の「麻呂」に由来する説
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城の中心部「本丸」にちなむ説
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「汚い」を意味する『まる』から来た説
特に注目されているのが、最後の「汚い=まる」説です。立命館大学の大形徹教授によれば、「まる」という言葉は排泄を表す動詞から派生し、『おまる』の語源にもつながっています。古来より「汚れたものには悪霊が近づかない」と考えられており、その考え方が船名にも取り入れられたのです。
この発想は人名にも見られます。たとえば源義経の幼名『牛若丸』の「丸」も、子どもを悪霊から守るためにつけられたとされています。つまり、「丸」という言葉には船や人を災いから守るおまじないの力が込められていたのです。
現代の私たちが港で目にする『〇〇丸』という船名は、単なる慣習ではなく、先人たちが命を守るために生み出した知恵の名残だといえます。
船名と人々の暮らし
『船名』は単なる識別のための番号ではなく、人々の暮らしや信仰と深く結びついた存在でした。歴史をさかのぼると、伊達政宗も豪華な船を所有し、その船に特別な名前を与えたと伝えられています。戦国大名にとって船は軍事や交易の要であり、ただの交通手段ではなく「家の威信」を示すシンボルでもありました。そのため、船名には繁栄や勝利への願いが込められていたのです。
一方で現代の船名にも、地域や暮らしに根ざした思いが反映されています。例えば津軽海峡フェリーのように、地域名を冠した船はその土地の誇りを表すと同時に、利用者に親しみや安心感を与えています。漁船においても、家族の名や信仰する神社の名を組み合わせたものが多く、船名には「生活の証」としての意味が色濃く残っています。
番組内ではチコちゃんが「もし自分で船に名前をつけるなら?」と聞かれ、『歌丸』と答えて笑いを誘いました。ユーモアのあるやり取りでしたが、実際の船名にも「笑い」「願い」「祈り」といった、人々の思いや願望が込められてきたことが分かります。港に並ぶ数々の船名を眺めると、その一つひとつに暮らしや文化の痕跡が宿っていることに気づけるのです。
番組トークから見える人間味
スタジオトークでは森泉さんが「自分は船酔いしやすいタイプ」と話し、沖縄ロケではずっと体調が悪かったと明かしていました。船名の謎から派生して、実際の体験談に結びつけるところが番組らしい温かさです。名前は安全祈願の象徴であると同時に、航海がどれほど人に影響を与えるかを思い出させてくれる要素でもあります。
まとめ
この記事のポイントは以下の3つです。
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船に名前をつけるのは『安全祈願』のためで、法律上も必須。
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『丸』は悪霊除けの意味を持つ説が有力で、古代から人々に親しまれてきた。
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船名は地域・家族・信仰と結びつき、暮らしや文化を映し出す存在である。
港で船を見かけたとき、その名前に込められた願いや祈りを想像すると、海と人との関係がより深く感じられるでしょう。あなたも次に港を訪れるときは、船名を一つひとつ読み解いてみませんか?きっとその奥にある歴史や文化が、もっと身近に感じられるはずです。
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