なぜ私たちはベルトを締めるのか?ファッションに隠された意外な理由
ズボンやスカートを履くとき、当たり前のように手に取る『ベルト』。でも「どうしてベルトを締める習慣が生まれたの?」と考えたことはありますか?ただズボンが落ちないようにするためだけなら、サスペンダーでも紐でもいいはずです。実は、ベルトの起源には暗殺を防ぐためという歴史的な背景がありました。この記事では、2025年9月26日放送のNHK総合『チコちゃんに叱られる!』で紹介された内容をもとに、古代ローマから現代までのベルトの物語をたどります。読み終えるころには、毎日使っているベルトの見え方が少し変わるかもしれません。
ベルトの始まりは古代ローマから
ベルトの原型は、古代ローマ時代に生まれました。当時の人々はゆったりとした布をまとい、腰のあたりを細い布の紐で締めることで衣服の形を整えていました。代表的なのが『トガ』や『チュニカ』と呼ばれる衣服です。しかし、この方法では腰回りが不安定で、衣服の下に小さな短剣などの武器を隠しやすいという問題がありました。結果として、暗殺事件が発生する危険が高まってしまったのです。
こうした社会状況から、ローマではポケット付きの衣服が禁止されるようになりました。ポケットは便利ですが、中に武器を隠されると周囲にとっては大きな脅威となるためです。その代わりに普及したのが、腰に下げる『サクス』と呼ばれる小物入れでした。これは財布や小刀、お守りなどを入れるための入れ物で、常に身に着けておける便利なものとして広まりました。
ただし、サクスを細い紐で吊り下げていると、どうしても重さでズレたりたるんだりしてしまいます。そこで登場したのが、より太くて頑丈なベルトです。革や布を幅広く加工したベルトを腰に巻くことで、サクスをしっかりと固定できるようになり、実用性と安全性が大きく向上しました。これが現在私たちが使うベルトの直接的な原型となりました。
また、古代ローマの兵士たちは、ベルトに剣や道具を吊るして戦場に向かいました。単なる衣服の固定具ではなく、戦うための必須アイテムでもあったのです。こうした軍事的な用途もあいまって、ベルトは社会に欠かせない存在として根付いていきました。
ポケットの普及とベルトの一時的な衰退
時代が進むと、17世紀のヨーロッパでは銃の普及により戦い方や服装のあり方が大きく変化しました。それまで腰に武器や小物を吊るしていた習慣は薄れ、代わりに衣服そのものにポケットがつけられるようになったのです。ポケットは単なる収納場所ではなく、外からも分かるように大きく、時には装飾を施して仕立てられました。上流階級にとってポケットは「富と身分を示すアクセサリー」のような存在であり、金貨や宝石を入れるだけでなく、あえて人に見せて誇示するための役割を果たしていました。この時代、ベルトは一時的に姿を消し、ポケットを強調するファッションが主流となったのです。
ところが18世紀から19世紀にかけて、流行は再び変わります。特にアメリカでは、ズボンを固定するためにサスペンダーが一般的になりました。肩から吊るす仕組みは実用的でしたが、暑い地域では上着を着ない人が増え、サスペンダーがむき出しになってしまいます。当時の感覚ではサスペンダーは下着に近いもので、人前にさらすのは恥ずかしいとされました。
そこで注目されたのが軍隊用のベルトです。兵士たちが制服の一部として使用していたベルトは、武器や道具を装着するために頑丈でありながら、外見も引き締まって見えるという利点がありました。軍服の影響は民間のファッションにも広まり、サスペンダーの代わりにベルトでズボンを固定するスタイルが広がっていきます。やがてベルトは実用性とスマートさを兼ね備えた必須アイテムとなり、世界中に定着していきました。
ベルトと現代ファッション
現代のベルトは、もはや単なる「ズボンが落ちないようにする道具」ではありません。ファッションにおいて重要なアクセントとなるアイテムであり、用途や場面に応じて選び分けられるようになっています。たとえばカジュアルな場面では、ジーンズに合わせて革や布製のラフなベルトを使い、日常のスタイルにリズムを加えます。一方でビジネスやフォーマルな場では、スーツに合わせてシンプルで上質な革ベルトが欠かせません。特に靴や鞄と色や質感をそろえることで、全体の印象が引き締まり、身だしなみの完成度が高まります。
さらに注目したいのは、17世紀ヨーロッパの「飾りポケット」文化が現代の服飾にまで影響を与えている点です。当時、富や身分を誇示するために作られた装飾的なポケットは、今でもスーツの胸ポケットや飾りフラップという形で残っています。実際には物を入れない飾りとしての役割が強いこれらのデザインは、過去のファッションの名残を受け継いでいる証拠です。
つまり、ベルトとポケットは長い歴史を経ながら、その意味を少しずつ変えつつも、今の私たちの服装文化にしっかりと息づいているのです。毎日の装いの中に、古代ローマから続く知恵やヨーロッパの流行の影響が宿っていると考えると、ベルト一本にも奥深い物語が込められていることがわかります。
スタジオでのやり取りと人間味
番組ではチコちゃんが「締めたいものは?」と聞かれ、『サバ』や『コハダ』と答えて笑いを誘いました。ユーモアを交えながらも、ベルトの文化的背景をしっかり学べる展開でした。また、ファッション文化に詳しい辻元よしふみさんと、お笑い芸人ハンバーグ師匠とのやり取りも紹介され、古いアメリカのファッションへの熱い思いが伝わってきました。学問と日常がつながる瞬間に、視聴者も親近感を覚えたはずです。
まとめ
この記事のポイントは以下の3つです。
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ベルトは古代ローマで『暗殺防止』のために生まれた。
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ヨーロッパでは一度衰退したが、軍服をきっかけに世界中に広まった。
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現代ではファッションアイテムとして定着し、ポケット文化の名残とも結びついている。
ベルトは私たちの生活にあまりに当たり前に存在しますが、その裏には命を守るための知恵や、文化の変化が刻まれています。明日、ベルトを締めるときに少しだけ歴史に思いを馳せてみてください。きっと身近なファッションがもっと面白く感じられるはずです。
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