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NHK【クローズアップ現代】日本の“発酵食品”が世界でブーム!その陰で迫る危機と発酵デザイナー小倉ヒラクの挑戦|2025年10月21日★

クローズアップ現代

日本の“発酵食品”が世界でブーム!その陰で広がる危機とは

みそ、しょうゆ、納豆など、日本人にはおなじみの発酵食品が、いま世界の食文化の中心に躍り出ています。海外のシェフが『麹』を使ったソースを作ったり、『味噌』を取り入れたマリネ料理を考案したりと、これまで和食の世界にとどまっていた発酵の技が新しい形で進化しているのです。読者の中にも「海外で“KOJI”って文字を見た!」という方がいるかもしれませんね。
この記事では、世界で盛り上がる発酵ブームの背景と、日本の地域で進む“伝統の危機”、そして未来へつなぐためのヒントをわかりやすくまとめます。

美味しさと健康を両立させる「発酵のちから」

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海外で発酵食品が注目されている最大の理由は、「美味しいのに健康的」という点にあります。とくに日本の麹(こうじ)に含まれる酵素は、食材のたんぱく質やデンプンを分解して旨味(うま味)を引き出す働きをもち、料理に深みとまろやかさを与えます。塩分や油分を抑えても満足感のある味わいになることから、欧米の一流シェフたちがこぞって麹を使い始めています。

ニューヨークでは、ミシュラン星付きのレストランが味噌ソースのステーキ麹マリネの魚料理を提供し、素材の旨味を最大限に生かす調理法として高い評価を得ています。パリでは甘酒を使ったデザートが登場し、砂糖を使わず自然な甘みを引き出す「ナチュラルスイーツ」として人気を集めています。

さらに、発酵の過程で生まれる乳酸菌や善玉菌が、腸内環境を整える効果を持つ点も人気を後押ししています。腸は“第二の脳”とも呼ばれ、免疫力やメンタルバランスに関係することが知られています。そのため、腸活(ちょうかつ)を意識する人々が増え、発酵食品が「体の内側から整える食」として日常に取り入れられているのです。

いまや、ニューヨークやパリのスーパーには『MISO』『KOJI』と日本語で書かれた商品が並び、味噌やしょうゆが一般家庭の調味料として浸透しています。アメリカ西海岸では手作り味噌ワークショップが人気を集め、ヨーロッパでは日本の発酵文化をテーマにしたフェスティバルが開催されるほど。

こうした動きの背景には、単なる食の流行ではなく、「自然の力を借りて食材を生かす知恵」への共感があります。発酵は人の手がすべてを支配するのではなく、菌と人が共に働く調和の文化。この考え方が、環境への配慮やサステナブルな価値観とも重なり、発酵食品は「体と心を整える食文化」として世界の暮らしに静かに溶け込み始めています。

地方で進む“発酵文化の消失”という現実

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一方で、日本国内では深刻な問題が広がっています。長年、地域で受け継がれてきた味噌しょうゆどぶろくといった発酵食品が、後継者不足原材料の高騰によって次々と姿を消しつつあるのです。

たとえば、長野県の味噌蔵では、職人の高齢化が進み、若い担い手が現れないまま生産を続けることが困難になっています。熟練した手仕事で味を守ってきた蔵が、数十年の歴史を閉じて休業を余儀なくされた例もあります。味噌づくりは、気温や湿度を読みながら麹と向き合う繊細な作業で、長年の勘と経験が欠かせません。機械化が難しいこの伝統技術が、世代の断絶によって途絶える危機に瀕しています。

一方の島根県では、地元の米を使ったどぶろく造りが後継者不足で途絶えそうになっています。地域の祭りや行事に欠かせないどぶろくは、かつて地域の象徴でしたが、酒税法の改正や米の価格上昇、担い手の減少などが重なり、継続が難しくなっている現実があります。かつては地域の人々が仕込みに集まり、季節を感じながら醸してきた風景が、今では見られなくなりつつあります。

さらに追い打ちをかけているのが、原材料の国際価格高騰です。味噌やしょうゆの基礎となる大豆や米は、輸入依存が高まっており、世界的な需給の影響を受けやすい状況です。これにより、昔ながらの国産大豆地元米を使い続けることが難しくなり、地域独自の味を維持できない蔵が増えています。生産コストが上昇し、価格に転嫁できない小規模蔵は廃業の危機に直面しています。

もうひとつ深刻なのが、地域の微生物環境(菌の多様性)が失われつつあることです。発酵食品は、その土地の気候・風土・蔵に棲みついた菌(こうじ菌・乳酸菌・酵母など)が織りなす“微生物の共演”によって独特の香りと味を生み出してきました。蔵の木桶や壁、空気中に漂う菌が、その土地ならではの「味の記憶」をつくってきたのです。

しかし近年、工場の大型化や衛生基準の統一が進む中で、木桶の廃止ステンレス化が進み、菌が棲む“場”が失われています。温度・湿度・空気の流れが整いすぎることで、自然発酵に関わる菌が生きられなくなり、味の個性が薄れてしまうのです。かつての発酵蔵で育まれてきた菌の多様性は、地域文化そのものでもあり、それが消えることは「土地の記憶の消失」とも言えます。

番組で紹介されたある蔵元の言葉、「味噌から“土地の記憶”が消える」という一言が、この現状を象徴しています。地域の菌と人が共に育ててきた味が、経済や制度の変化によって静かに失われつつある――それが、いま日本の発酵文化が直面している現実です。

若い力と“デザインの発酵”でよみがえる伝統

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そんな中で、希望の光も見え始めています。廃業寸前だったしょうゆ蔵を、若手経営者と発酵デザイナー・小倉ヒラクさんが中心となって再生させた取り組みが、全国から注目を集めています。

小倉さんは「菌を見える化するデザイナー」として知られ、顕微鏡の中にある“発酵の世界”を、アートやデザイン、ワークショップを通じてわかりやすく伝えてきた人物です。彼が手がけるプロジェクトでは、伝統産業の現場にデザインと科学の視点を導入し、古い蔵の価値を現代の感性で再発見しています。

このしょうゆ蔵の再生では、まず蔵に棲む麹菌や酵母の特性を科学的に分析し、発酵環境を守りながら品質の安定化を図りました。同時に、従来の「古くささ」のイメージを払拭するため、パッケージデザインやロゴを一新。木桶のぬくもりを感じさせる色使いと、地域の風土を反映したデザインで、若い世代にも手に取りやすい商品に生まれ変わりました。

さらに、SNSを活用した情報発信にも力を入れています。仕込みの様子や発酵の変化を動画で紹介することで、見えない菌の働きを「育てる楽しさ」として共有。地域のカフェや商店と連携して発酵イベントを開くなど、「みんなで支える蔵」という新しい形が生まれています。発酵を“古い伝統”ではなく、“面白い未来の技術”として再定義するこの試みは、国内外のメディアからも高い関心を集めています。

東京農業大学の内野昌孝教授は、「発酵文化を未来へ残すには、科学と地域の知恵の融合が欠かせない」と語ります。微生物の研究を通じて品質を安定化させ、同時に地域固有の菌や風土を守る。この両輪が揃ってこそ、持続可能な発酵産業の未来が開けると指摘します。

実際、内野教授の研究チームでは、蔵に棲む菌をDNA解析によって特定し、環境要因との関係をデータ化する取り組みが進められています。これにより、後継者が交代しても“その蔵ならではの味”を再現できる可能性が高まり、伝統を科学的に守る道が広がっています。

小倉ヒラクさんが生み出すデザインと、内野昌孝教授が築く科学の橋渡し。その融合は、単なる「商品開発」ではなく、日本の発酵文化全体を未来につなぐ新しいモデルケースとして輝きを放っています。

“菌の声を聴く”文化を未来へ

番組の最後では、「発酵は人と菌の共同作業」という言葉が紹介されます。人が温度や湿度、環境を整え、菌(微生物)が自らの力で味や香りを育てていく――この絶妙な共生関係こそが、日本の発酵文化の本質です。どちらか一方では成立しない、自然と人間の“信頼関係”の上に成り立つ知恵。それは、単なる食品加工技術ではなく、何世代にもわたって育まれてきた日本人の生き方そのものでもあります。

いま、AIや機械の技術が急速に進化する中でも、この「自然と共に生きる知恵」は変わりません。デジタル化が進んでも、発酵という営みは“菌と人の対話”。どれだけ分析技術が進んでも、発酵の現場では“菌の気配”を感じ取りながら微調整を行う人の感覚が欠かせないのです。

小倉ヒラクさんは、「発酵は“いのちをつなぐ技術”。世界に誇れる日本の宝を、もっと面白く伝えたい」と語ります。菌を顕微鏡で観察し、そこに広がる世界を絵や音、デザインで表現する彼の活動は、発酵を“科学とアートの交差点”として再定義しています。菌が育てる味わいの奥には、見えない生命のリズムがあり、人と菌が互いに助け合いながら“生きる技術”を継承してきた歴史が息づいています。

今、日本各地で「菌の声を聴く人たち」が再び動き出しています。老舗蔵の味を守るために、微生物のDNAを科学的に記録しようとする研究者。自分の手で味噌を仕込み、発酵の手触りを学ぶ若者たち。地域の集会所で手作り味噌やぬか床教室を開く市民グループ。それぞれの取り組みは小さくても、確実に“発酵文化の未来”を支えています。

たとえば、長野県や秋田県では、地元の大学と蔵元が協力して「蔵付き菌の保存プロジェクト」を進めています。木桶や梁に棲む菌をサンプルとして保存し、将来的に蔵が建て替えられた際にも同じ味を再現できるようにする試みです。また、各地の発酵イベントでは、子どもたちが麹づくりを体験するワークショップも行われ、次世代への継承が始まっています。

日本の発酵文化は、決して過去の遺産ではなく、今を生きる人々の知恵と科学、そして情熱の結晶です。見えない菌と向き合いながら、命をつなぐ味を未来へと受け渡していく――それが、これからの時代にこそ必要とされる“人と自然の共生”の形なのです。

この記事のポイント

・世界では『麹』『味噌』など日本の発酵食品が健康志向と美食ブームの中心にある
・国内では後継者不足や原材料高騰で地域の蔵が減少
・若手やデザイナー、科学者の連携によって伝統の復活が始まっている
・「人と菌の共同作業」という日本独自の発酵文化は、未来の食のキーワードになる


放送後には、実際に番組で紹介された地域のしょうゆ蔵や復活プロジェクトの詳細、さらに専門家のコメントなどを追記予定です。
発酵文化のいまを伝える特集『クローズアップ現代 日本の“発酵食品”が世界でブーム その陰で危機が』は、2025年10月21日(火)19:30〜 NHK総合で放送予定。

出典:NHK総合「クローズアップ現代 日本の“発酵食品”が世界でブーム その陰で危機が」(https://www.nhk.jp/p/gendai/)


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