世界で評価される一方、足元が揺らぐ日本の発酵食品とは
このページでは『クローズアップ現代(2025年10月29日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
日本の発酵食品は今、世界から高い評価を受けています。しかしその一方で、国内の現場では存続の危機に直面している現実があります。なぜ海外ではブームが起き、日本では危機が深まっているのか。番組では、発酵食品が持つ価値と、その価値をどう守っていくのかが描かれました。
世界で広がる日本の発酵食品ブーム その背景
しょうゆ、みそ、納豆といった日本の発酵食品は、いま世界の食の現場で欠かせない存在になりつつあります。ニューヨークをはじめとした海外の都市では、しょうゆ情報センターなどが中心となり、日本の発酵文化を紹介する取り組みが続けられています。
海外の一流レストランのシェフたちは、発酵が生み出す『うま味』や香りに注目しています。素材そのものの味を引き立て、料理全体の完成度を高める力があるからです。さらに、発酵食品は腸内環境との関係が知られるようになり、健康意識の高い人たちの間で『ウェルビーイング』を支える食品として受け止められています。
アメリカやヨーロッパだけでなく、アジアや南米でもみその輸入量や消費が増え、日本の発酵食品を使った新しい料理や食べ方が生まれています。こうした流れの中で、日本の発酵食品は世界の食文化に自然に溶け込み、存在感を強めているのです。
ブームの陰で進む国内生産現場の危機
海外で評価が高まる一方、日本国内の生産現場は厳しい状況に置かれています。沖縄・那覇の味噌蔵では、近年の物価高が経営を直撃しました。原材料や燃料の価格が上がる中で、従来と同じやり方を続けることが難しくなっています。
そこに追い打ちをかけたのが“令和の米騒動”です。加工用米が手に入らなくなり、味噌の製造を一時中止せざるを得ない状況に追い込まれました。全国味噌工業協同組合連合会も、こうした問題が一部の蔵だけでなく、全国に広がる可能性があるとしています。
日常の食卓に欠かせないみそやしょうゆは、長年当たり前のように供給されてきました。しかし、その「当たり前」を支えてきた仕組み自体が揺らいでいます。高級品として売れば解決する問題ではなく、暮らしに根付いた食品だからこそ、影響は広く深いものになっています。
失われつつある郷土の発酵食品と継承の課題
番組では、地域ごとに受け継がれてきた郷土の発酵食品が、次々と危機に直面している現状も伝えられました。秋田県のハタハタずしは、原料となるハタハタの漁獲量が急激に減ったことで、従来の製法を続けることが難しくなっています。
宮崎県の天日干し大根も同様です。江戸時代から続く古い製法で、大根を干すための櫓を組む技術や、作業を担う人手が必要です。しかし少子高齢化が進む中で、その技術や知恵が十分に引き継がれていません。
郷土の発酵食品は、単なる特産品ではありません。その土地の気候や暮らし、人々の工夫が積み重なって生まれた文化です。人と技術の不足は、その文化そのものが消えてしまう危険をはらんでいます。
科学と工夫で守る発酵文化の新しい試み
危機の中でも、発酵文化を守ろうとする動きがあります。長崎県・対馬に伝わる『せんだんご』は、さつまいもを原料にした保存食で、島の厳しい環境を生き抜くために生まれました。対馬の郷土料理『ろくべえ』にも欠かせない存在です。
せんだんご作りには通常4か月ほどかかりますが、生産者の減少によって作り続けることが難しくなっていました。そこで内野昌孝氏の知見をもとに、東京農業大学と対馬市が協力し、微生物の力を活用して約2週間で作れる方法を編み出しました。
これは伝統を簡単に変える話ではありません。長い時間をかけて築かれてきた味や文化を守るために、科学の力をどう生かすか。その現実的な選択肢が示された取り組みでした。
物語と連携が生んだ逆転事例とこれからの発酵食品
香川県・小豆島の木桶醤油は、発酵食品の未来を考える上で象徴的な存在です。木桶仕込みの醤油は、需要の減少とともに職人も減り、存続の危機に立たされていました。
5代目を継いだ蔵元は、自ら木桶作りを学び、全国の蔵元に声をかけました。その結果、25の蔵元が連携し、『KIOKE』というブランドで木桶醤油の魅力を発信する動きが生まれました。味だけでなく、蔵の歴史や人の歩みといった『物語』が価値として伝わり、海外への販路が広がりました。
木桶醤油の輸出額は5年で3倍に伸びています。これは、発酵食品が持つ背景や文化を含めて伝えることが、大きな力になることを示しています。
多様な発酵食品を未来へつなぐために
小倉ヒラク氏は、発酵食品の価値を守るためには、買って支えること、そして実際に作ってみることが大切だと語りました。受け継ぎ方は一つではなく、地域や時代に合わせた多様な形があっていいという考えです。
日本の発酵食品は、世界で評価される存在になったからこそ、国内でどう守り、どう次の世代につないでいくのかが問われています。発酵食品は、味や健康だけでなく、人の暮らしや記憶と深く結びついた文化です。その価値をどう受け止めるのか。番組は、その問いを静かに投げかけていました。
スーパーの価格と木桶仕込みの価格差から見えてくる発酵食品の本当の価値

スーパーで日常的に手に取る発酵調味料と、木桶仕込みなどの伝統製法で作られた発酵食品。その価格差には、はっきりとした理由があります。どちらが良い悪いではなく、どう作られ、どんな時間と手間が積み重なっているのかを知ることで、発酵食品の見え方が少し変わってきます。
安価な発酵調味料が実現している理由
スーパーでよく見かけるしょうゆやみそは、比較的手ごろな価格で安定して並んでいます。これは、大量生産が可能な設備を使い、発酵や熟成の期間を短縮することで、コストを抑えているためです。原料も安定して仕入れやすいものが使われ、製造から出荷までの流れが効率化されています。その結果、毎日の料理に気兼ねなく使える価格が保たれています。暮らしを支える存在として欠かせない発酵食品であることは、間違いありません。
木桶仕込みなど伝統製法が高くなる背景
一方、木桶仕込みのしょうゆや、昔ながらの製法で作られる発酵食品は、価格が高くなる傾向があります。国産の大豆や小麦、塩など、原料選びに手間がかかり、発酵や熟成にも長い時間が必要です。木桶の中では、長年住み着いた微生物が働き、季節ごとの温度や湿度の変化も味に影響します。数か月から数年かけて仕上がるその過程は、人の目と経験に支えられています。時間と人の手が積み重なった結果が、価格に表れているのです。
価格差が教えてくれる発酵食品の価値
この価格差は、単に高い安いの違いではありません。安価な商品は日常の料理を支え、伝統製法の商品は発酵の奥深さや文化を感じさせてくれます。刺身やそのまま味わう料理では、木桶仕込みならではの香りやまろやかさが際立つこともあります。どちらを選ぶかは、料理の場面や求める体験によって変わります。発酵食品を選ぶことは、味だけでなく、その背景にある時間や文化を選ぶことでもあると感じさせられます。
気になるNHKをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。


コメント