“グレーなハラスメント”とは?職場のモヤモヤ問題
10月27日放送のあさイチ(NHK総合)は、「不機嫌・ため息・舌打ち・苦労自慢…」といった日常の中の“なんとなくイヤな空気”をテーマに取り上げます。明確な暴言や威圧がなくても、受け手が「つらい」「居づらい」と感じるような言動が、近年“グレーゾーン・ハラスメント”として注目されています。
スタジオにはこがけん、犬山紙子、そして津野香奈美教授(神奈川県立保健福祉大学大学院)や向井蘭弁護士が出演。MCの博多華丸・大吉、鈴木奈穂子アナウンサーとともに、笑いも交えながら職場で起こるリアルな人間関係の難しさを掘り下げます。
「グレーゾーンハラスメント」とは何か
最近の企業アンケートによると、職場で「ため息をつかれた」「舌打ちをされた」「挨拶をしても無視された」といった曖昧な嫌がらせを経験したと回答した人が、全体のおよそ半数以上にのぼっています。これらの行為は明確な暴言や暴力ではないため、法的なパワーハラスメントの定義に当てはまらないケースが多く、被害を受けた側も「大げさに感じられるのでは」「自分が我慢すればいい」と考え、声を上げづらい状況に置かれがちです。
しかし、こうした“グレーゾーン”の言動は、受け手の気持ちを確実にすり減らしていきます。特にため息や不機嫌な態度は、直接的な言葉がなくても「自分のせいかもしれない」と相手に罪悪感を与え、職場の雰囲気を悪化させることがあります。心理学ではこれを「不機嫌の伝染」と呼び、人の感情が周囲に広がる現象として知られています。上司やリーダーの表情一つで部署全体の空気が変わるのも、この影響によるものです。
番組では、こうした現象をわかりやすく伝えるために実際の職場を再現したVTRを放送。部下が不機嫌な上司の態度にどう反応するか、また上司側がどんな意図でその態度を取っていたのかを双方の視点から検証します。そこでは「自分では気づいていなかった」「悪気はなかった」と話す側の無自覚さと、「些細な仕草でも強いストレスを感じる」と語る被害側の声が対照的に描かれます。
さらに番組では、共感疲労というキーワードにも注目。これは、他人の感情に共感しすぎて自分が疲弊してしまう心理状態のことで、近年では医療・介護・教育など人と関わる職場で特に問題視されています。常に気を使い続けることで、心身のバランスを崩す人が増えているのです。
心理学の専門家は「ため息や不機嫌な態度が続く職場では、共感疲労が連鎖し、チーム全体の生産性が下がる」と指摘しています。つまり、ひとりの態度が組織全体に影響を与える――それが“グレーなハラスメント”の怖さです。
こうした背景から、番組では「職場の空気そのものをどう変えていくか」という視点にも踏み込みます。心理的安全性を高め、誰もが安心して意見を言える雰囲気をつくることが、ハラスメント防止の第一歩だと強調されています。
若手の声と中高年の葛藤
今回の特集のもう一つの柱は、職場で誰もが悩む「指導とハラスメントの線引き」です。多くの中高年世代は、「昔は叱られて当たり前だった」「甘やかすと人は伸びない」という考えのもとで育ってきました。一方で、いまの若手世代は「感情的に責められると萎縮してしまう」「怖い上司とは距離を置きたい」という感覚を持つ人が増えています。こうした価値観の違いが、無意識のうちに“グレーゾーン”を生み出す大きな要因になっているのです。
番組では、実際の現場の映像を通じて、指導者側と部下側のすれ違いを描きます。上司が「成長してほしい」と思って厳しい口調で注意しても、部下は「人格を否定された」と感じてしまうことがあります。逆に、若手が自主性を重んじて距離を取ると、「反抗的」「やる気がない」と誤解されるケースもあります。どちらも悪気はなくても、認識のずれが積み重なることで、職場の関係がぎくしゃくしていくのです。
こうした現状を受けて、番組に出演した津野香奈美教授(神奈川県立保健福祉大学大学院)は、「時代の変化に合わせたコミュニケーション教育」の重要性を強調します。津野教授は、かつての“叱る文化”が通用しなくなっている現代では、相手を理解する力や言葉の選び方が、上司の最も大切なスキルのひとつだと説明しました。特に若手世代は、言葉よりも“態度や雰囲気”から感情を読み取る傾向が強く、上司のわずかな表情や口調の変化も敏感に感じ取ります。そのため、「何を言うか」よりも「どう伝えるか」が問われる時代になっているのです。
さらに津野教授は、これからの上司像として「選ばれる上司」という考え方を紹介しました。これは、部下が「この人のもとで働きたい」と思えるような存在になることを意味します。単に仕事の指示を出すだけでなく、部下の気持ちに寄り添い、話を聴き、失敗を責めずに共に考える姿勢が求められています。最近注目される「上司選択制度」もその流れのひとつで、部下が自分に合う上司を選べる環境を整えることで、信頼関係が深まり、離職率の改善にもつながっています。
指導のあり方は時代とともに変化しています。かつては「強く叱ること」が育成の一手段だった時代から、今は「対話しながら支える」時代へ。番組では、厳しさよりも“信頼を軸にした指導”こそが人を育てるというメッセージが繰り返し語られました。ハラスメントにならないための境界線を学ぶことは、単にトラブルを防ぐためではなく、より良いチームをつくるための第一歩として捉えられています。
「上司選択制度」という新しい働き方
今回の特集で注目されたのが、全国でも珍しい「上司選択制度」という新しい仕組みです。これは、部下が自分の直属の上司を選べる制度で、すでに北海道の建築構造設計会社などで導入されています。従来のように会社が一方的に上司を決めるのではなく、部下が「自分が最も働きやすい」「信頼できる」と感じる上司を選ぶことで、職場の人間関係の質を高めることを目的としています。
この制度を導入した企業では、導入前と比べて離職率が明らかに低下し、チームの風通しが良くなったという成果が出ています。社員同士のコミュニケーションが増え、仕事上の悩みを共有しやすくなったことも大きな変化のひとつです。上司側も「選ばれる立場」になったことで、自分のマネジメントを見直す意識が高まり、より積極的に部下の話を聞くようになったといいます。
番組では、実際にこの制度を取り入れている企業の現場を取材。社員のインタビューでは「自分の意見を受け止めてくれる上司を選べたことで、働く意欲が上がった」「以前よりも会話が増えて、職場の雰囲気が明るくなった」といった声が紹介されました。管理職の側からは「部下に選ばれるためには、自分の言動を常に省みるようになった」「リーダーシップとは信頼されることだと気づいた」という言葉も聞かれました。
この制度の根底には、「上司が評価される時代」から「上司が選ばれる時代」へという価値観の変化があります。上下関係よりも、信頼・共感・聞く力を重視する組織文化へとシフトしているのです。専門家の分析によると、上司選択制度は単なる制度改革ではなく、心理的安全性の高い職場をつくるための象徴的な取り組みでもあります。社員が安心して意見を言える環境こそが、生産性や創造力の向上につながる――その実例として、番組では丁寧に紹介されました。
被害を感じたときの行動ステップ
職場で「これは少しおかしい」「この空気がつらい」と感じたとき、我慢してやり過ごそうとする人は少なくありません。ですが、専門家は「感じた違和感を放置しないことが最も大切」だと警鐘を鳴らしています。特に“グレーゾーン”のハラスメントは、明確な暴言や暴力のように周囲がすぐ気づくものではないため、本人が声を上げなければ問題が可視化されにくいのです。
番組では、実際に相談できる公的な窓口がいくつも紹介されました。たとえば、厚生労働省の「総合労働相談コーナー」では、職場でのトラブルや人間関係の悩みを匿名で相談できます。全国379か所に設置されており、相談員が無料で対応してくれます。また、法務省の「みんなの人権110番」は、人権侵害に関する相談全般を受け付けており、ハラスメントのほかセクシュアルマイノリティや外国人労働者などの相談も扱っています。さらに、日本労働組合総連合会(連合)が運営する「労働相談ダイヤル」も心強い味方です。専門の担当者が電話やメールで対応してくれ、会社に相談しにくい人でも利用しやすい仕組みになっています。
こうした相談を行う際には、記録を残すことがとても重要です。メモ帳やスマートフォンのアプリで、日付・時間・場所・発言内容・相手の名前などを簡単に書き留めておくだけでも構いません。メールやチャット履歴が残っている場合は削除せず保管しておくことで、後に証拠として役立つことがあります。番組で紹介された弁護士の向井蘭氏も、「小さな違和感のうちに記録しておくことが、後で自分を守る大きな力になる」と語っていました。
また、相談は一人で抱え込まないことも大切です。信頼できる同僚や家族に話すだけでも、心の負担が軽くなり、冷静に状況を整理しやすくなります。もし社内の人に話すのが難しい場合は、外部機関の窓口やオンライン相談を活用する方法もあります。最近では、24時間対応のチャット相談や、女性専用・若年層向けなど、状況に合わせたサポートも充実しています。
“グレーなハラスメント”ほど、「これくらいは我慢すべきかもしれない」と思ってしまいがちです。しかし、違和感を感じた時点でそれはすでにSOSのサイン。早めの相談と記録こそが、状況を悪化させないための最も現実的な対処法です。番組では、誰もが安心して働ける環境をつくるために、社会全体で相談しやすい風土を育てていくことの重要性が強調されていました。
LIVE中継:秋田・男鹿の『漁師町の石焼鍋』
番組後半では、秋田県男鹿半島からのLIVE中継が登場。漁師の知恵から生まれた郷土料理『石焼鍋』が紹介されます。
熱した石を木桶に入れて海の幸を一気に煮立てる豪快な料理で、味噌ベースのだしに魚介や野菜の旨味が溶け込みます。石が入る瞬間の“ボコボコッ”という音と湯気の立ち上がりは圧巻。
秋田杉の香りが漂う木桶と、金石(かないし)と呼ばれる特製の石が生む熱伝導の妙も見どころです。地元の漁師さんたちの手際と活気が、まさに“ライブ感”満点で伝わる内容になるでしょう。
ゴハンだよ『きのこたっぷり!ごまみそつくね』
料理コーナー「ゴハンだよ」では、井原裕子さんが秋の味覚を使った『きのこたっぷり!ごまみそつくね』を紹介します。
鶏ひき肉に香り豊かなきのこを混ぜ込み、甘辛いごまみそだれで照りよく仕上げる、シンプルながら奥深い家庭料理。冷めてもおいしいのでお弁当にもおすすめ。季節のきのこ(椎茸・舞茸・えのきなど)を使い分ければ、香りと食感の違いが楽しめます。
放送で明かされる“働きやすい職場”のヒント
今回のあさイチは、ハラスメントという重いテーマを、実例と専門家の知見を交えながら身近な問題として考える構成になっています。
「自分はそんなつもりじゃなかった」がトラブルを生む現代。相手の感じ方を尊重しながら、自分の言動を見直す機会になる内容です。
また、秋田の美しい海景と温かい郷土料理、季節の食卓を彩る料理紹介など、“心をほぐす”コーナーとのバランスも番組の魅力。朝の時間にふさわしい、考えさせられつつも前向きになれる放送になるでしょう。
まとめ
この記事のポイントは次の3つです。
・「ため息」「舌打ち」など、日常的な行為もハラスメントの要因になり得る
・上司・部下の間で生まれる“グレーゾーン”を理解し、対話の文化を育てることが重要
・“選ばれる上司”の時代に必要なのは、信頼と共感のマネジメント
番組では、実際の事例とともに「どこまでが指導で、どこからがハラスメントなのか」を考えるヒントが語られます。放送後には、紹介された企業事例や専門家のコメント内容を追記予定です。
ソース:
NHK番組表(https://bangumi.org/tv_events/Ak0EgALbwAM)
弁護士JP(https://www.ben54.jp/news/2547)
KOKUYO ManaBiz(https://www.kokuyo-furniture.co.jp/solution/mana-biz/2024/10/post-739.php)
詩の国商店(https://shinokuni-store.com/media/ishiyakinabe)
レシピサイトNadia(https://oceans-nadia.com/user/28/recipe/127123)
グレーゾーンハラスメントを防ぐ“3つのセルフチェック項目”

ここからは、私からの提案です。ハラスメントの多くは、明確な悪意ではなく“無意識の言動”から生まれます。自分では「普通に接しているつもり」でも、相手が不快やプレッシャーを感じている場合があります。以下の3つのチェック項目を意識して振り返ることで、職場の雰囲気を大きく変えることができます。
① 感情を持ち込んでいないか
忙しさやストレスから、知らず知らずのうちに不機嫌な態度をとっていませんか。ため息、舌打ち、無言の圧力などは、言葉以上に強いメッセージとして相手に伝わります。特に立場のある人の表情やトーンは部下に影響しやすく、「自分が何か悪いことをしたのか」と萎縮させてしまうことがあります。感情が高ぶったときは、その場で注意や指導を行わず、少し時間を置くのも大切です。
② “昔はこうだった”という基準で判断していないか
「自分たちの頃はもっと厳しかった」「若手は甘えている」といった言葉は、経験から出る善意のアドバイスのつもりでも、相手には比較や否定として受け止められます。世代や価値観が多様化する中で、“今の職場の常識”に合わせる柔軟さが求められます。指導する際は、「あなたならどう思う?」「どんなやり方がやりやすい?」と、相手の考えを引き出す対話型のコミュニケーションを意識しましょう。
③ 指導の目的が“成長支援”になっているか
注意や指摘が「相手を動かすための発言」になっているかを見直します。感情的な言葉や皮肉、苦労自慢は、改善よりも防御反応を引き起こしがちです。目的が“指導”であっても、方法を誤ると“攻撃”に見えることがあります。伝えるときは「どうすれば良くなるか」を一緒に考える姿勢を持ち、相手が次の行動をイメージできるように話すことが大切です。
この3つの項目を定期的に見直すことで、職場に“心理的安全性”が生まれます。実際、多くの企業では管理職研修やハラスメント防止研修の中で、こうしたセルフチェックを日常的に取り入れています。自分の言動を見直すことは、部下を守ることだけでなく、組織全体の信頼を築く第一歩になります。
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