ため息やちゃん付けも?職場で広がる“グレーなハラスメント”とは
職場で何気なく発したため息や舌打ち、あるいは“ちゃん付け”の呼び方。あなたに悪意がなくても、相手にとっては大きなストレスになることがあります。最近では、そんな「グレーゾーンのハラスメント」が増えているのです。「自分は大丈夫かな?」と不安になった人もいるのではないでしょうか。この記事では、NHK『あさイチ』(2025年10月27日放送)で紹介された事例をもとに、ハラスメントの境界線と、その防ぎ方についてわかりやすく解説します。
グレーゾーンのハラスメントとは?日常の何気ない行動が人を傷つける
厚生労働省によると、職場でのハラスメント相談件数はこの3年間で約1.4倍に増加しています。内容を見ると、かつてのような暴言や暴力といった明確なパワハラだけでなく、「ため息」「舌打ち」「ちゃん付け」など、相手に直接手を出さなくても精神的に圧力を与える“グレーゾーン”のハラスメントが急増しています。
職場の人間関係がフラット化し、年齢や役職に関係なく意見を交わす場面が増えた一方で、「どこまでが冗談で、どこからが嫌がらせなのか」が分かりづらくなっている現状も背景にあります。
番組に出演した犬山紙子さんは、「ため息はシチュエーション次第」と話しました。相手にプレッシャーをかけるようにため息をつけば当然ハラスメントになり得るが、仕事で集中している時や疲れた時の無意識なため息まで責めるのは違うと指摘しました。そのうえで、「注意の仕方や伝え方次第で、相手が受け取る印象は大きく変わる」と語り、言葉よりも“空気”の伝わり方こそが重要だと強調しました。
また、こがけんさんは職場の“空気”の難しさを自身の経験として語りました。「飲み会で注文を聞いたほうがいい先輩と、自分で頼みたい先輩がいて、どちらに合わせればいいか分からない」「後輩に挨拶をしたほうがいいと伝えたいけれど、注意したらハラスメントになるかもしれない」と、現場で感じる“指導の線引き”の悩みを明かしました。
こうした“グレーな行動”は、行為そのものではなく「相手がどう感じたか」で評価が変わります。ため息一つ、呼び方一つでも、職場の雰囲気や人間関係によって受け取り方が大きく異なるのです。専門家の間では、ハラスメントを防ぐにはルールよりも「信頼関係」と「対話の習慣」が鍵になるとされています。
指導とハラスメントの境界線はどこにある?
40代から60代の上司たちに取材すると、「注意はするな」「優しく教えましょう」という昨今の職場風潮に戸惑う声が多く聞かれました。若手社員への接し方が変化し、「厳しく指導するとハラスメントだと言われるかもしれない」と、注意すべき場面でためらってしまう上司も少なくありません。
例えば、新人の常識不足にどう対応するか。ある上司は「知らない人だと思って、一から丁寧に教えるようにしている」と話し、別の上司も「やんわり伝えれば角が立たない」と工夫している様子を語りました。とはいえ、やさしく伝えたつもりでも、相手によっては威圧的と感じることもあり、どこまでが“やさしい指導”で、どこからが“パワハラ的行為”になるのか、その線引きは非常にあいまいです。
専門家は、パワーハラスメントに該当するかどうかは次の3つの条件で判断されると説明しています。
① 優越的な立場を背景にした言動であること
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
③ 労働者の就業環境を害していること
つまり、上司が繰り返し強い口調で叱責したり、「マニュアルを読め」と突き放して具体的な説明をせず放置したりするような行為は、積み重なることでパワハラと認定される可能性があります。単発では注意や指導の範囲に見えても、反復されることで“精神的圧力”として評価されるのです。
こうした問題の背景には、指導の目的が「育てる」から「叱らない」に極端に振れてしまったこともあります。職場では今、上司と部下のあいだで“伝える勇気”と“受け取る柔軟さ”の両方が求められています。
被害の実態 同僚・上司からの“見えない圧力”
番組では、実際にハラスメント被害に苦しんだ2人の女性の体験が紹介されました。どちらも暴力や怒鳴り声のような“明確なパワハラ”ではありませんが、日々の小さな行為の積み重ねが、心を深く傷つけていました。
50代のさゆりさんは、職場で上司から冷たい態度を取られるようになったといいます。仕事で判断に迷い、上司に相談すると「マニュアルを見て」と一言だけ。以降は、話しかけても無視され、周囲の空気も次第に冷たくなっていきました。直接的な暴言はないものの、孤立させるような態度が続き、精神的に追い詰められていったのです。
一方、20代の教員すみこさんは、上司の厳しい指導に苦しみました。資料を確認するたびに「違う」「ダメ」と真っ向から否定され、そのたびに上司はボールペンで机を叩きながら指摘。周囲の人にもその音が響き渡るほどだったといいます。次第に恐怖心が強まり、出勤前に吐き気を感じたり、不眠が続いたりと、身体にも異変が出始めました。最終的には休職を余儀なくされました。
このような“見えない暴力”は、言葉よりも深く傷を残します。怒鳴られたり殴られたりはしていなくても、毎日のように無視されたり威圧的な態度を取られることで、人は自分を責めてしまい、心身のバランスを崩してしまうのです。精神的圧力は目に見えにくく、周囲からも気づかれにくいぶん、より深刻な影響を及ぼします。
「ちゃん付け」はどこまでOK?愛称とハラスメントの微妙な線
一見すると親しみを込めた呼び方のように思える“ちゃん付け”ですが、職場ではこれがハラスメントと受け取られることもあります。特に相手が年下や後輩、女性である場合、「軽く見られている」「子ども扱いされている」と感じる人も少なくありません。呼び方一つでも、立場や関係性によって受け止め方がまったく変わるのです。
番組では、実際に裁判で「ちゃん付け」がハラスメントと認定された事例が紹介されました。ただしこれは“ちゃん付け”という呼び方だけが問題視されたのではなく、他の威圧的な行為や侮辱的な態度と合わせて判断されたケースでした。つまり、「呼び方そのものがNG」というよりも、背景にある力関係や言動の積み重ねが大きく影響しているのです。
スタジオでは、こがけんさんが「荻野目洋子さんが“荻野目ちゃん”って呼ばれてたから大丈夫じゃない?」と笑いを交えてコメント。これに対し、出演者たちは和やかに反応しながらも、「相手との関係性が大切」「親しみを示したつもりでも、相手がどう感じるかを意識することが大事」と口を揃えていました。
同じ呼び方でも、信頼関係のある相手なら心地よく響きますが、そうでない相手に使えば無礼にもなり得ます。日常の中にある“距離の取り方”が、いま改めて問われているのです。
上司を選べる?札幌の会社のユニークな取り組み
番組で特に注目を集めたのが、札幌市の企業で導入されている「上司選択制度」です。これはその名の通り、社員が自分の上司を選べる仕組み。従来のように人事が一方的に配置を決めるのではなく、部下が「自分に合う上司」を選択できるという画期的な制度です。
この制度を実際に活用したのが、入社10年目の渡辺梨沙さん。彼女は、以前の上司のもとで過剰な仕事量に悩み、休日返上で働く日々を送っていました。そんな中、この制度を利用して上司を菅野さんに変更。菅野さんはスケジュール管理の達人として社内でも定評があり、仕事量は以前とほぼ同じにもかかわらず、渡辺さんは「定時で帰れるようになった」と話していました。無理な残業が減り、仕事と私生活のバランスが取れるようになったことで、心にもゆとりが生まれたといいます。
会社全体でも変化がありました。上司選択制度を導入してから、離職率は11.3%から4.8%へと大幅に改善。社員の満足度が上がり、チーム内のコミュニケーションも活発になったそうです。制度がもたらしたのは、単なる人事の仕組みの改革ではなく、信頼に基づく職場文化の再構築でした。
スタジオで犬山紙子さんは、「イエスマンばかりが集まる組織は怖い。でも、こうやって部下が上司を選べる仕組みなら、意見が言いやすくなるし、ダメ出しももらえることで上司も成長できる」とコメント。権力の上下ではなく、“相互成長”という新しい働き方が広がりつつあることに共感していました。
上司選択制度はまだ一部の企業にとどまっていますが、「人間関係の相性を重視する人事」の流れは、これからの時代に求められる組織づくりのヒントとなりそうです。
ハラスメントにならない伝え方とポジティブフィードバック
若手社員への接し方に悩む上司に向けて、番組で紹介されたのが「ポジティブフィードバック」という考え方です。これは、相手を否定するのではなく、前向きに改善を促す伝え方のこと。叱るよりも「支える」ことで、人は本来の力を発揮できるとされています。
その基本は、次の3ステップです。
① まずほめる:相手の努力や成果を見つけて言葉にする。「ここが良かった」と具体的に伝えることで、安心感を与えます。
② 改善点を伝える:否定ではなく提案の形で伝える。「もっとこうすると良くなる」と未来形の言葉を使うのがポイントです。
③ 期待や応援の言葉で締める:「あなたならできる」「次も楽しみにしてる」といった言葉が、モチベーションを引き上げます。
この3ステップを意識することで、相手を萎縮させず、むしろ「自分を見てくれている」と感じさせる信頼のコミュニケーションが生まれます。単なるテクニックではなく、人と人との関係を前向きに築くための姿勢でもあります。
スタジオでは博多華丸さんが「味方がいると思えるだけで乗り越えられる」と語り、共感を呼びました。叱るよりも支える、命令するよりも寄り添う。その空気をつくることこそが、現代のリーダーに求められている姿なのかもしれません。
相談窓口が機能していない現実
地方公務員として働くさくらさんは、育児のために時短勤務をしていることを理由に、職場で理不尽な扱いを受けていました。上司や同僚からは「早く帰られて迷惑」「旦那に任せればいいのに」といった言葉を浴びせられ、必要な資料をわざと高い棚に置かれるなど、陰湿な嫌がらせも続いたといいます。
勇気を出して職場の相談窓口に通報しましたが、対応した担当者から返ってきたのは「繊細すぎるんじゃない?」「隠されたなら探せばいい」「あの上司がそんなことをするわけがない」という冷たい言葉でした。相談のはずが、逆に責められるような形になり、心が折れそうになったとさくらさんは話していました。
こうしたケースは、決して珍しくありません。最新の調査によると、約8割の企業がハラスメント相談窓口を設置している一方で、実際に働く人の6割が「何もしていないと思う」と回答しています。制度はあっても、運用が追いついていないのが現状です。相談しても「気のせい」「性格の問題」と片づけられてしまえば、被害者はますます声を上げにくくなります。
もし社内で問題が解決できない場合は、労働組合や総合労働相談コーナー、そして法テラスといった外部機関を利用することが勧められています。これらの機関では、第三者の立場から専門的な助言や対応を受けることができます。相談する場所を変えることで、ようやく救われるケースも多いのです。
ハラスメント問題は、被害者の我慢や努力で解決できるものではありません。大切なのは、「声を上げてもいい」「相談していい」と感じられる仕組みと雰囲気を、職場全体でつくることです。
まとめ:小さな違和感を見逃さずに
この記事で紹介したポイントは次の3つです。
・ため息やちゃん付けなど、日常の言動が“グレーなハラスメント”になる可能性がある
・上司選択制度やポジティブフィードバックなど、職場を変える取り組みが始まっている
・相談窓口が機能しない場合は外部機関への相談も重要
ハラスメントは「加害・被害」だけの問題ではなく、職場全体の空気や人間関係の質に関わるものです。小さな違和感を無視せず、誰もが安心して働ける環境づくりを意識していきましょう。
LIVE中継:秋田・男鹿の『漁師町の石焼鍋』
番組後半では、秋田県男鹿半島からのLIVE中継が登場。漁師の知恵から生まれた郷土料理『石焼鍋』が紹介されます。
熱した石を木桶に入れて海の幸を一気に煮立てる豪快な料理で、味噌ベースのだしに魚介や野菜の旨味が溶け込みます。石が入る瞬間の“ボコボコッ”という音と湯気の立ち上がりは圧巻。
秋田杉の香りが漂う木桶と、金石(かないし)と呼ばれる特製の石が生む熱伝導の妙も見どころです。地元の漁師さんたちの手際と活気が、まさに“ライブ感”満点で伝わる内容になるでしょう。
ゴハンだよ『きのこたっぷり!ごまみそつくね』
料理コーナー「ゴハンだよ」では、井原裕子さんが秋の味覚を使った『きのこたっぷり!ごまみそつくね』を紹介します。
鶏ひき肉に香り豊かなきのこを混ぜ込み、甘辛いごまみそだれで照りよく仕上げる、シンプルながら奥深い家庭料理。冷めてもおいしいのでお弁当にもおすすめ。季節のきのこ(椎茸・舞茸・えのきなど)を使い分ければ、香りと食感の違いが楽しめます。
グレーゾーンハラスメントを防ぐ“3つのセルフチェック項目”

ここからは、私からの提案です。ハラスメントの多くは、明確な悪意ではなく“無意識の言動”から生まれます。自分では「普通に接しているつもり」でも、相手が不快やプレッシャーを感じている場合があります。以下の3つのチェック項目を意識して振り返ることで、職場の雰囲気を大きく変えることができます。
① 感情を持ち込んでいないか
忙しさやストレスから、知らず知らずのうちに不機嫌な態度をとっていませんか。ため息、舌打ち、無言の圧力などは、言葉以上に強いメッセージとして相手に伝わります。特に立場のある人の表情やトーンは部下に影響しやすく、「自分が何か悪いことをしたのか」と萎縮させてしまうことがあります。感情が高ぶったときは、その場で注意や指導を行わず、少し時間を置くのも大切です。
② “昔はこうだった”という基準で判断していないか
「自分たちの頃はもっと厳しかった」「若手は甘えている」といった言葉は、経験から出る善意のアドバイスのつもりでも、相手には比較や否定として受け止められます。世代や価値観が多様化する中で、“今の職場の常識”に合わせる柔軟さが求められます。指導する際は、「あなたならどう思う?」「どんなやり方がやりやすい?」と、相手の考えを引き出す対話型のコミュニケーションを意識しましょう。
③ 指導の目的が“成長支援”になっているか
注意や指摘が「相手を動かすための発言」になっているかを見直します。感情的な言葉や皮肉、苦労自慢は、改善よりも防御反応を引き起こしがちです。目的が“指導”であっても、方法を誤ると“攻撃”に見えることがあります。伝えるときは「どうすれば良くなるか」を一緒に考える姿勢を持ち、相手が次の行動をイメージできるように話すことが大切です。
この3つの項目を定期的に見直すことで、職場に“心理的安全性”が生まれます。実際、多くの企業では管理職研修やハラスメント防止研修の中で、こうしたセルフチェックを日常的に取り入れています。自分の言動を見直すことは、部下を守ることだけでなく、組織全体の信頼を築く第一歩になります。
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