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NHK【Dearにっぽん】馬と紡ぐ 僕らの夢〜北海道・厚真町〜 ばんえい競馬の引退馬が林業で再び輝く!馬搬士・西埜将世と女性職人・渡部真子の挑戦|2025年11月16日

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森で生きる、馬と人の物語

「機械の時代に、馬の力なんてもういらない」——そう思われて久しい現代で、再び“馬が主役”の仕事が北海道の森で息を吹き返しています。それが馬搬(ばはん)と呼ばれる、伐採した木を馬の力で運び出す伝統技術。力強いばん馬と人が息を合わせ、深い森の中を一歩ずつ進む姿は、まるで古い時代の風景のよう。それでも、そこに確かにあるのは「未来への挑戦」です。この記事では、西埜将世さんと相棒のばん馬カップくんが挑む、“馬と生きる林業”の物語をたっぷりと紹介します。

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きっかけは「馬にもう一度、働く場所を」

舞台は北海道・厚真町。静かな朝、西埜将世さん(44)は森に向かう前に、放牧中の愛馬・カップくんを探します。カップくんは体重1トンの栗毛のばん馬。穏やかな性格で、力も強い。しかしこの馬は、かつてばんえい競馬のデビュー戦でゴールできず、“競走馬失格”とされた過去を持っていました。
そんなカップくんを引き取ったのが西埜さんです。

西埜さんは恵庭市の出身。若いころは「やりたいことが見つからない」と悩み、就職しても心からの充実を感じられませんでした。転機となったのは林業の仕事。森の中で木を伐り出すうちに、「機械では入れない斜面や細道では、人と動物の力が必要だ」と気づいたのです。かつて日本各地で行われていた馬搬のことを知り、彼は次第にその魅力に引き込まれていきました。

「人間が手をかけ、馬が動く。呼吸や感情が伝わることで、初めて森が生きるんです」
その思いを胸に、西埜さんは会社を辞め、単身でスウェーデンへ渡ります。北欧では馬搬が今も盛んで、森を守る環境配慮型の林業として評価されています。そこで本格的に技術を学び、帰国後は厚真町で馬搬の仕事を立ち上げました。

馬と人の“真剣勝負”

厚真の森での仕事は、まさに「人馬一体の戦い」。この日は間伐作業。カップくんは太いロープを体に巻かれ、倒された木をゆっくり引き出します。急な斜面でも足を取られず、重い木を慎重に運ぶ姿に、西埜さんは小さく声をかけます。

「カップ、よし、行こう!」
その掛け声ひとつで馬が動くのは、信頼関係があってこそ。
「馬は感情を読むんです。心の底からの声じゃないと動いてくれない。こちらが迷っていれば、馬も不安になる」と西埜さん。
8年間にわたる活動の中で、馬の気分・体調・呼吸のすべてを感じ取りながら働く“感情労働”こそが、馬搬の真髄だと語ります。

現場では一つひとつの動作が命がけ。木が倒れる瞬間、ロープの張り具合、馬の重心のかけ方、全てを一瞬で判断します。重機よりもはるかに効率が悪いように見えても、森の地形を壊さず、動物にもやさしい。環境への負荷が最小限で済むのです。

若き女性が選んだ“馬と暮らす生き方”

西埜さんのチームには、もう一人の大切な仲間がいます。渡部真子さん。神奈川県の出身で、大学卒業後は牧場に勤めていましたが、思うように仕事にやりがいを見いだせませんでした。そんな時、西埜さんの活動をテレビで知り、「ここなら自分の手で馬と生きられる」と感じたといいます。

渡部さんは、娘を連れて厚真町へ移住。現在は4年目、ベテランのばん馬ウクルくんとペアを組んで働いています。ウクルくんは少し気分屋ですが、渡部さんが根気よく声をかけながら森を進む姿には、確かな絆が感じられます。

「馬は言葉ではなく、態度と呼吸で通じ合うんです。機嫌がいい日も悪い日もあるけど、心を合わせるときの手応えは格別です」
都会で感じた息苦しさから解放され、彼女は森の中で“本当にやりたかった生き方”を取り戻しました。

馬搬が生む、新しい森の循環

馬搬の魅力は、人と馬の絆だけではありません。森林保全の面でも大きな意味を持ちます。重機で木を引き出すと地面が掘り返され、根が傷つき、森の再生が遅れてしまいます。しかし馬搬では、馬が通る道幅が狭いため、環境をほとんど壊さずに作業が可能。さらに、運搬時の燃料を使わないためCO₂排出もありません。

この“森にやさしい林業”こそが、これからの時代に求められるスタイル。西埜さんたちは、地元の三菱マテリアル厚真森林や林業関係者とも協力し、馬搬の普及と技術伝承に力を入れています。将来的には、子どもたちが体験できる「馬と森の学び場」をつくる計画もあるそうです。

馬がくれた人生の軌跡

かつて“不要”とされた馬たちが、今では森の守り手として新しい役割を果たしています。
「人間の都合で見捨てられた命が、今こうして共に働けている。馬たちのおかげで、自分も生かされている気がする」
そう語る西埜さんの言葉には、深い優しさと責任がにじみます。

厚真町の冷たい空気の中、蹄の音が静かに響く。
その音は、自然と人間が再び寄り添おうとする未来へのメッセージのように聞こえます。

まとめ

この記事のポイントは以下の3つです。
西埜将世さんは、消えかけた「馬搬」を北海道・厚真町で復活させ、馬と人が共に働く新しい林業を実現している。
カップくんウクルくんなどのばん馬たちは、かつて競馬で活躍しながら行き場を失った存在だが、今は森を支える相棒として再び輝いている。
・機械よりも時間はかかるが、環境を守り、命を尊重するこの仕事は、持続可能な森づくりの希望になっている。

馬と人が心を合わせて生きる姿は、効率だけを追う現代への静かな問いかけです。
「本当に大切なことは何か?」――厚真の森から聞こえるその答えを、私たちももう一度見つめ直してみたいものです。


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