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Eテレ【美の壺】今昔つなぐ 木桶(おけ)百年以上使い続ける湯桶の秘密と“たが締め技法”の極意、世界が注目したシャンパンクーラーとは|2025年11月24日

美の壺

今につながる“木桶文化”の奥深さにふれる

百年以上木桶を使い続ける老舗銭湯では、木が持つあたたかい手触りや香りが、訪れる人の心を落ち着かせる存在になっています。東京都北区の稲荷湯のように、長い歴史の中で木桶を使い続けてきた例があり、木という素材が持つ自然のぬくもりが、現代でも強く支持されています。
木桶は傷んでも部材を交換しながら使い続けられるつくりで、しっかり手入れすれば20年ほど現役で働くことができます。修理を前提にした構造こそ、長く受け継がれてきた理由です。

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京都・江戸中期創業の老舗桶店が守る湯桶づくりの技と精神

京都の祇園・大和大路通に店を構えるおけ庄 林常二郎商店は、江戸時代・弘化年間(1844〜1847年)創業と伝わる歴史ある桶店です。店を守る9代目の山本大輔氏は、現在も一つひとつ手作業で湯桶をつくり続けています。
湯桶づくりでまず大切なのは、木材選びです。桧(ひのき)や真桑(まくわ)は香りがよく、水に強いという特徴を持ち、木肌の美しさも際立っています。山本氏は木目がそろうように慎重に材を選び、桶にしたときに“ひとつの美しい表情”になるように意識して作業を進めます。
桶が円形になるよう木を組み、竹や金属のたがを均等に締め上げるたが締めは、熟練の勘が求められる工程です。木の反りや伸縮を予測し、年輪の方向を読み、長く使っても狂いが生じないように設計する職人の知恵が込められています。
かつて京都には町内ごとに桶屋があり、その数は約200軒にも上ったとされます。しかし時代の流れとともに桶店は減り、現在残るのは数軒のみ。おけ庄の湯桶は、暮らしの中で受け継がれた技の証であり、京都の生活文化を象徴する存在でもあります。

静岡の醤油蔵元が守り続ける“百年以上の大桶”の力

静岡には木桶仕込みの醤油を守り続ける蔵元があり、その中には百年以上前に作られた大桶を今も現役で使う場所があります。大桶は巨大な杉材を組み上げ、竹や金属のたがで締め、金釘を使わずに固定されることが多く、構造そのものが非常に強いのが特徴です。
例えば、笛木醤油が発表した「50石(約9,000リットル)」という途方もない大きさの木桶製作プロジェクトでは、現代でも職人の技術で大桶を造ることができることを証明しました。静岡県藤枝市では、青島桶店が蔵元と協力し、傷んだたがや板を交換しながら木桶を守り続けています。
木桶仕込みの最大の強みは、木材の内部に棲みつく微生物の力です。木の小さな隙間や呼吸性により、醤油づくりに欠かせない菌が適度に活動し、深いコクと香りを生み出します。百年以上使われ続ける大桶には、その蔵独自の微生物が生き、代替不可能な“味の記憶”が蓄積されています。
このような大桶は、ただの道具ではなく、蔵元の味を未来へつなぐ“生きた文化遺産”と言える存在です。

大桶職人が注ぎ込む細やかなこだわりと技術の継承

大桶をつくる職人は、木材の性質を読む“木の医者”のような存在です。素材には高野槇(こうやまき)や尾州檜(びしゅうひのき)といった希少で耐久性の高い木材を使い、含水率を丁寧に調整することで、割れや反りを防ぎます。
京都の桶屋近藤のように、一本の桶が完成するまでに約1年弱をかける工房もあり、乾燥・削り・組み立て・たが締めと、膨大な工程を積み重ねながら仕上げていきます。
たが締めでは、桶全体のテンションが均等になるよう固定し、水圧に耐えられるだけの強度を持たせます。木桶は一度使い始めると内部の菌が育ち、木と菌がともに呼吸するような状態となるため、使い込むほどに味わいが増す道具です。
部材を交換しながら使い続けられる構造ゆえ、「実質的に永久に使える」と語る職人もいます。大桶を次世代に受け継ぐことは、文化そのものをつなぐ作業でもあります。

桶の技を現代へ――バーカウンターとして生まれ変わる姿

近年、木桶の技術を活かしたバーカウンターが注目を集めています。伝統的な桶と同じように木材を曲げ、たがで締める工程を応用することで、丸みがありながら力強い存在感を持つカウンターが完成します。
木目の柔らかな表情や、ひとつひとつ違う風合いが空間に落ち着きを与え、飲食店やカフェバーでも人気が高まっています。桶の技をインテリアに転用することで、和の文化が新たな価値を生み、現代のデザインにも自然と溶け込むようになりました。

世界が注目した木製シャンパンクーラーの革新性

滋賀県比良では、中川木工芸の3代目中川周士氏が手がける木製シャンパンクーラー『konoha』が世界的な評価を集めています。
樹齢200年以上の高野槇や尾州檜を使い、均一で美しい木目が際立つデザインに仕上げられています。軽量で結露しにくく、保冷性も高いという機能性は、従来の木製品のイメージを大きく更新するものです。
中川氏は「桶は700年以上形の変わらないものだと思っていたが、この挑戦で価値観が変わった」と語っています。
伝統的な技と現代の感性が融合したこのアイテムは、木桶文化の未来を示す象徴でもあり、日本の手仕事の可能性を広げています。

まとめ

木桶は、日本の暮らしや文化とともに歩んできた道具です。銭湯の湯桶、京都の湯桶づくり、静岡の醤油蔵元の大桶、職人のこだわり、そして新しい形としてのバーカウンターやシャンパンクーラー――。
2025年の今、木桶は“歴史的な道具”であると同時に、現代の生活に寄り添う“進化する技術”でもあります。


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