喪失の中でも笑って生きる 間垣の里で紡がれてきた87年の時間
このページでは『ETV特集 選 間垣の里のしさのばあちゃん(2025年12月27日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
能登半島の小さな集落で生きてきた一人の女性の人生を通して、自然と共に暮らすこと、ふるさとを失うこと、それでも前を向いて生きることの意味が描かれます。
2024年の地震と豪雨という大きな出来事を経て、何を失い、何を手放さずに生きているのか。この番組を知ることで、災害の数字だけでは見えない『人の時間』に触れることができます。
能登半島・間垣の里で生きてきた87年の暮らし
しさのばあちゃんは、能登半島にある『間垣の里』で生まれ、育ち、87年という長い人生をこの土地とともに歩んできました。
日本海から吹きつける強い風や、身にしみるような冬の寒さは、ここでは特別なものではなく、昔から当たり前に受け入れてきた自然の一部でした。天気や季節の変化に逆らうのではなく、その流れに合わせて暮らし方を整えていくことが、この里の日常でした。
畑を耕し、土の感触を確かめながら作物を育て、芽吹きや収穫を通して季節の移ろいを体で感じる毎日。そうした積み重ねの中には、便利さや効率では測れない、静かで確かな豊かさがありました。
長い時間をかけて続いてきたこの暮らしは、単なる生活の形ではなく、しさのばあちゃん自身の生き方そのものです。そしてそれは同時に、間垣の里が育んできた歴史であり、土地と人が共に重ねてきた時間の記憶でもありました。
高さ3メートルの間垣と、支え合ってきた集落の記憶
間垣の里を象徴してきたのが、高さ3メートルを超える『間垣』です。
竹や木を何層にも組み上げて作られた間垣は、日本海から吹きつける強い季節風や冬の厳しい寒さから家々を守るために生まれた、先人たちの知恵でした。自然の力を力で抑え込むのではなく、受け止め、やり過ごすための工夫として、長い年月をかけて形づくられてきました。
間垣は一軒の家だけで完結するものではありません。壊れれば近所同士で声をかけ合い、材料を集め、手を動かして直してきました。そこには「自分の家だけ守れればいい」という考えはなく、集落全体で暮らしを守るという意識が根付いていました。
人と人との距離が近く、困ったときには自然と助け合う。そんな集落の記憶は、今もなお、しさのばあちゃんの言葉や、静かに立つその佇まいの中に息づいています。長く続いてきた間垣の風景は、支え合って生きてきた人々の関係そのものを映し出してきました。
2024年の地震と豪雨が奪った家・畑・ふるさと
2024年、能登半島を襲った地震と豪雨は、間垣の里の風景を大きく変えてしまいました。
これまで当たり前にそこにあった家は崩れ、手入れを続けてきた畑は荒れ、長年にわたって守り受け継いできた間垣も大きな被害を受けました。自然と共に築いてきた暮らしの土台が、一気に揺らいでしまったのです。
被害は建物や土地だけにとどまりませんでした。住み慣れた場所に誰も住めなくなり、「ここが自分のふるさとだ」と呼んできた場所そのものを失うという現実に直面します。戻る場所があると思っていた日常が、突然途切れてしまいました。
何十年もの時間をかけて積み重ねてきた暮らしが、一瞬で崩れてしまう。その重みは、被害の数字や規模だけでは表しきれません。間垣の里で生きてきた人々にとって、それは生活の喪失であると同時に、記憶や時間を奪われる出来事でもありました。
誰も住めなくなった里と、仮設住宅での現在の生活
災害のあと、しさのばあちゃんは仮設住宅での暮らしを続けています。
これまで当たり前だった、土に触れながら畑に出る生活とは大きく様子が変わり、今は限られた空間の中で一日一日を過ごしています。季節の変化を肌で感じる時間も、以前とは違った形になりました。
それでも、生活を途中で投げ出すことはありません。できることを見つけ、できる範囲で手を動かし、日々の営みを積み重ねています。環境が変わっても、自分のリズムで暮らしを続ける姿がそこにあります。
誰も住まなくなった間垣の里と、現在の仮設住宅での暮らし。その両方を知っているからこそ生まれる思いがあります。失われた場所への気持ちと、今を生きる現実。その間にある揺れや静かな覚悟が、番組を通して淡々と伝わってきます。
毎週続く一時帰宅と、失われた場所との向き合い方
しさのばあちゃんは、仮設住宅での生活が始まったあとも、毎週欠かさず『一時帰宅』を続けています。
壊れてしまった家や畑、かつての姿を残す間垣のある里に足を運び、自分の目で現状を確かめるその時間は、過去の暮らしと今の生活をつなぐ大切なひとときです。ただ眺めるだけでなく、そこに立ち、空気を感じることで、自分の人生と土地の時間を重ね合わせています。
すべてが元に戻らないという現実を、しさのばあちゃんは受け止めています。それでも、思い出や場所を完全に切り離すことはせず、心の中で関係を保ち続けています。
失われた場所と向き合い続けるその姿は、ふるさととは建物や土地だけではなく、積み重ねてきた時間や記憶そのものなのだと、静かに問いかけてきます。
笑顔を失わずに生きる姿が伝える喪失と再生の意味
多くのものを失ったあとも、しさのばあちゃんは笑顔を忘れずに日々を生きています。
その表情は、無理に気持ちを奮い立たせているものではなく、長い人生の中で自然と身につけてきた強さがにじみ出たものです。つらさを抱えながらも前に進む、その姿は特別な言葉を必要としません。
喪失の中にあっても、人は生き続け、また時間を重ねていくことができます。何かを失ったからといって、人生そのものが止まるわけではありません。日々を積み重ねることで、新しい形の暮らしが生まれていきます。
『喪失と再生』という言葉の重みを、声高に語るのではなく、静かな日常の中で伝えてくれる。それこそが、この番組が持つ大きな意味であり、見る人の心に長く残る理由です。
まとめ
『ETV特集 選 間垣の里のしさのばあちゃん』は、能登半島の一つの集落と、一人の女性の人生を通して、災害のその先にある現実を映し出します。
家や土地を失っても、人生まで失われるわけではありません。
間垣の里で生きてきた87年の時間と、今も続く毎日の中に、人が前を向いて生きるための確かなヒントが込められています。
NHK【明日をまもるナビ(180)】能登半島地震2年 人口減少の中での復興|輪島市の子ども支援とごちゃまるクリニック、関係人口の力|2025年12月14日
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