家に眠る着物の活用法と手放し方
2025年6月19日に放送されたNHK総合「午後LIVE ニュースーン」では、午後5時台の特集として「家に眠る着物、どうする?」というテーマが取り上げられました。日本の家庭にある着物の数はおよそ3000万点とも言われ、新品価格に換算すると約8兆円にもなるという衝撃的なデータが紹介されました。今回は、着物の価値を知りたい人、手放したい人、再利用したい人に向けて、専門家のアドバイスやリメイクのアイデアが紹介されました。
着物バイヤーが教える「着物の見分け方」と価値の考え方
番組では、着物バイヤーの野瀬達朗さんが、300着以上の着物を所有する女性の自宅を訪れ、整理の手助けを行いました。女性は普段から着物を着ているものの、引っ越しを前に整理する必要があり、数を減らしたいと考えていました。
野瀬さんが注目したのは、結城紬(ゆうきつむぎ)、西陣織(にしじんおり)、大島紬(おおしまつむぎ)といった産地織物です。これらは特定の地域で受け継がれてきた技法で織られており、品質が高く評価されるため、価値も高いとされています。たとえば、結城紬には「証紙」と呼ばれる紙が付いており、これがあることでその着物が本物だと証明され、査定の際に高値がつく可能性があるそうです。
・証紙とは:産地の組合などが発行するもので、着物の品質や産地を保証するもの
・落款(らっかん)とは:作者や工房の印が入っているもので、着物におけるサインのような役割を果たす
また、加賀友禅なども紹介され、こちらは落款が入っているかどうかで価値が大きく変わると説明されました。これらの要素が揃っていると、買取価格にも大きな差が出てきます。
一方で、現在の日本人の体型に合ったサイズが大きめの着物は需要が高くなる傾向があります。昔の着物は小さいサイズのものが多く、現代人には着づらいため値段がつかないことが多いとのことでした。
さらに番組では、非常に希少な宮古上布(みやこじょうふ)が紹介されました。現在この布を新しく作ると一着で1000万円以上かかるとも言われているほど高価なものですが、証紙がついていなかったため査定価格がほとんどつかなかったと紹介されました。
・宮古上布は沖縄県宮古島で織られる伝統織物
・草木染めと手織りで時間をかけて作られるため希少価値が非常に高い
・しかし証紙がないと、他の布との違いが証明できず、価格が大きく下がる
野瀬さんは、価値ある着物をきちんと見極めたうえで、手放すかどうかを判断するのがよいと話していました。高値がつかない着物であっても、無理に売るのではなく、必要なものを残し、あとは着物が好きな人に譲ったり、次の使い道を考えて活かしていくことが大切だとまとめていました。
このように、着物の価値は「見た目」だけでなく「証明できる情報」「サイズ」「需要」など複数の要素で決まるということがわかります。特に産地が明確で証紙付きのものは、保存状態が良ければ資産的価値も高く、手放す際に有利になるようです。逆に、明確な証明がない着物は、たとえ希少な技法で作られていても市場では価格がつかないこともあるため注意が必要です。
着物を手放すには?買い取り以外の選択肢も
番組では、着物を手放すときの方法について、多角的な視点で紹介されました。着物は捨てるにはもったいないものが多く、まずは信頼できる呉服店など専門の業者に相談するのが第一歩としてすすめられました。専門家による査定を受けることで、価値のある着物を見落とさずに済むからです。
ただし、着物を処分する方法は買い取りだけに限らず、寄付やリユースなど多様な方法があることも番組では紹介されました。
・外国人観光客向けの着物体験ツアーを運営する団体では、使用できる着物の寄付を募っている
・海外で反物として再販するサービスでは、有料で着物を送ると現地で再利用される
こうしたサービスを利用することで、使わなくなった着物に新しい命を吹き込むことができます。捨てるのではなく、別の場所で必要としている人に届けるという考え方が広がっていることも印象的でした。
また、フリマアプリやネットオークションなどで、自分で着物を販売する方法についても紹介されました。ただし、スムーズに売るためにはいくつかのポイントが必要です。
・採寸を丁寧に行い、丈や幅、袖の長さなどを正確に記載すること
・検索にひっかかりやすいように、「振袖」「訪問着」「大島紬」「レトロ」などのキーワードを豊富に入れる
・状態の悪い着物でも「ハギレ」として出品すれば需要があることもある
このように、状態に応じた出品方法を選ぶことで、手放すハードルを下げられると紹介されました。特にハギレは、手芸や小物づくりをする人に人気があり、活用の幅が広い素材として評価されています。
着物の手放し方は、そのまま売るだけでなく、使う人や使い方を見つけて新たに活用していく発想が重要です。想い出の詰まった着物を、誰かの生活の中で再び役立てることができる方法を選ぶことで、気持ちよく手放すことができます。番組では、価値の有無にかかわらず、着物に込められた思いを無駄にしない方法がいくつも紹介されていました。
思い出を残すリメイク術の紹介
番組では、着物を捨てたり売ったりするのではなく、思い出を形として残すリメイクの方法も紹介されました。講師として登場したのは、着物リメイク教室を主宰する藤岡幸子さんです。彼女は、着物の美しい柄や布の風合いを活かしながら、日常で使える新しいアイテムへと生まれ変わらせる工夫を教えてくれました。
まず紹介されたのは、洋服やぬいぐるみ、小物入れなど。どれも元は着物だったとは思えないほど自然に暮らしの中に溶け込んでいて、着物が持つ柔らかさや上品さがそのまま活かされています。
・リメイクは、まず着物を解体して1枚の布に戻すことからスタート
・初心者は袖の部分をほどくところから始めると扱いやすい
・布を広げて縫い線を引き、まち針で止めてからミシンや手縫いで仕上げる
このようにして、バッグのような作品であれば手順もシンプルで、初めてでも挑戦しやすいとのことでした。布の縦の長さの3倍を目安に横の長さを取り、均等に区切って縫うことで、バランスの取れた形に仕上がるそうです。縫い代をしっかり確保することがきれいに仕上げるポイントとされました。
さらに番組では、うちわへのリメイクも紹介されました。こちらは特に簡単で、着物の柄がきれいに出る部分を型に合わせて切り取り、うちわの骨組みに貼るだけという方法です。工程が少なく、道具も特別なものを必要としないため、誰でもすぐに取り組めるアイデアとして紹介されました。
・柄を活かした配置を考えることで、オリジナル感のある作品になる
・のりで貼るだけで完成するため、お子さんと一緒に作ることもできる
そして、リメイクに慣れてきた人向けには日傘の制作も紹介されました。こちらは裁縫の技術や組み立ての知識が求められる上級者向けの内容ですが、完成すれば一生ものとして使える特別な作品になるとされました。
このように、着物の思い出を形として残す方法はたくさんあります。どれも、古くなってしまった着物や、もう着ることのない着物を無駄にせずに活かすアイデアばかりでした。着物には、持ち主の思い出や家族の歴史がつまっていることが多いため、単に処分するのではなく、新しい姿に変えて手元に残すという選択も、大切な方法のひとつだと番組は伝えていました。
着物と洋服を組み合わせた新しいスタイルも
番組では、着物のリメイクに加えて、洋服と組み合わせてそのまま着物を活かすスタイルも紹介されました。着物をほどいたり縫い直したりせず、そのまま羽織のように洋服の上から着るという簡単に取り入れられる活用法です。
この方法は、着物をファッションの一部として気軽に楽しめるため、リメイクの技術がなくてもすぐに実践できるのが魅力です。たとえば、シンプルなTシャツやパンツの上に着物をさっと羽織るだけで、一気に華やかで個性的なコーディネートが完成します。
・洋服の上に重ねることで、色柄の美しさや布の風合いがアクセントになる
・袖を通さず羽織るだけでもOKなので、着付けができなくても問題なし
・帯を使わず、紐やブローチなどで軽くとめるだけでも雰囲気が出る
このスタイルは、和洋折衷のファッションとして注目されており、日常の中で着物を楽しむ入り口としても最適です。さらに、着物を羽織にすることで布に直接はさみを入れずに済むため、いつでも元の着物に戻せる安心感もあります。
古くなったけど捨てられない思い出の着物、サイズが合わなくなってしまったけれど柄が気に入っている着物なども、この方法なら活かすことができます。番組では、リメイクに挑戦する前のステップとしてもおすすめの使い方として紹介されていました。洋服と着物を組み合わせることで、新しいおしゃれの楽しみ方が広がります。
まとめ
今回の放送では、「眠っている着物をどうするか」というテーマを通じて、手放し方や活用法が幅広く紹介されました。価値のあるものを見極める方法、売る以外の選択肢、そして思い出を形として残すリメイクまで、多くのヒントが詰まった内容でした。今後着物を整理しようと思っている方にとって、きっと役立つ情報ばかりだったのではないでしょうか。着物はただしまっておくのではなく、新しい形で活かしていくことが大切です。
コメント