呉の町に宿る“すず”の面影をたどる旅
2025年8月3日に放送されたNHKの特別番組「この世界の片隅に」の舞台を訪ねてでは、Kis-My-Ft2の宮田俊哉さんが広島県呉市を訪れ、映画『この世界の片隅に』の舞台となった地をめぐりました。戦時中の人々の暮らしを描いた作品の世界を、実際の街並みや遺された建物、証言者の声とともにたどる内容となりました。番組には監督の片渕須直さんも登場し、作品づくりへの思いや実際の取材風景について語られました。
すずが暮らした呉の町を歩く
宮田さんが最初に訪れたのは、映画の中で主人公のすずが結婚後に降り立ったバス停。その周辺から始まる旅は、映画のワンシーンを追体験するような感覚を味わわせてくれました。坂道を登った先には、すずの家のモデルとなった住宅跡があり、今は間取りを示す案内板が設けられています。映画の世界が現実の風景と重なり、作品の世界観がより身近に感じられます。
そこに現れたのが片渕須直監督。監督は原作漫画に魅了され、6年かけて時代考証を行い、細部までこだわって映画を完成させたと語りました。監督は当時の住宅の写真も持参しており、映画がどれほど丁寧に町を再現しているかが伝わりました。
戦艦大和を見た丘とすずの記憶
宮田さんは監督の案内で、すずと周作が戦艦大和を見つめた場所にも向かいました。ここは作品中でも象徴的な場面として描かれています。実際にその場所に立つと、呉がどれほど軍港として発展していたか、また戦争の時代にどのような日常が営まれていたかを実感できます。
呉市はもともと瀬戸内の穏やかな港でしたが、明治時代に海軍の拠点として発展し、戦艦をはじめとする多くの軍艦が建造されました。すずが呉にやってきた当時には、すでに人口40万人を超える活気ある町でした。
空襲の爪痕とミツ蔵の記憶
町の中で今も当時のまま残る建物のひとつが「ミツ蔵」です。映画にも何度も登場するこの建物は、呉空襲を生き延びた数少ない構造物として貴重です。監督が案内したのは、防空壕から避難したすずと姪の晴美が歩いていた場所。映画ではこの直後、爆撃に巻き込まれて晴美は命を失い、すずも右手を失うという衝撃の展開が描かれます。
実際にその場所に立つと、物語の重みがより深く感じられます。
慰霊の地と千人針の記憶
番組では、空襲に巻き込まれて400人以上が亡くなった女子挺身隊の慰霊碑「殉国之塔」にも触れました。地元の人々が今も大切に手を合わせ続けている場所です。また、戦地に向かう兵士の無事を願って女性たちが縫い上げた「千人針」も紹介されました。これらは戦時中の市民の願いが形になったものとして、現在も保管され続けています。
紙芝居で伝える記憶
最後に訪れたのは、戦争体験を伝える活動をしている中峠房江さんのもと。中峠さんは7歳のとき、姉とともに空襲を経験し、防空壕に避難した記憶を紙芝居にして、毎年地元の子どもたちに語り継いでいます。7月1日の呉空襲で父親を亡くしたという中峠さんは、当時のことを「死ぬという意味がわからなかった」と振り返ります。日常の中で歌を歌っていた家族の思い出も、強く印象に残っていると話しました。
宮田さんは、「80年前のことでも、今もその記憶は確かに残っていて、触れられるものなんだ」と感じたと結びました。戦争が終わってから80年が経った今も、あの時代の記憶は生き続けています。作品の舞台となった呉を訪ねることで、その歴史と人々の思いを受け取ることができました。
呉市内を歩いて巡る“すずさん”ゆかりの舞台めぐりルート
映画『この世界の片隅に』に登場した風景が今も残る広島県呉市。すずさんが暮らした世界を実際に歩いて体験できるモデルコースは、徒歩ルートとバス併用ルートの2種類があります。どちらもそれぞれの魅力があり、旅のスタイルにあわせて選べます。
徒歩だけでじっくり巡るルート(所要約5〜6時間)
呉駅を出発点に、徒歩だけで回れるおすすめルート。映画に登場した場所を順にたどることで、物語の世界観を肌で感じることができます。
まずはJR呉駅前にある「くれ観光情報プラザ」へ。ここではロケ地マップを手に入れることができるので、出発前に立ち寄って準備するのがおすすめです。
最初の目的地は「すずさん家」。呉市畝原町にある住宅街の一角に、映画の北條家の間取りを再現した“地面の間取り”があります。この場所は無料で見学でき、コンクリートに描かれた線や陰影から、すずさんが過ごした日々が静かに浮かび上がります。
次に訪れるのは「三ツ蔵(蔵本通り)」で、市街地シーンによく登場する風景がそのまま残っています。続く「青山クラブ」は、下士官兵集会所として使われていた歴史ある建物で、屋外からの見学も可能です。
そこからほど近い「海軍病院階段」では、円太郎さんを見舞うすずさんのシーンを思い出します。このエリアには呉市立美術館や入船山記念館もあるので、時間に余裕があれば立ち寄るのもおすすめです。
次は「神原国民学校跡〜防空壕跡地」へ向かいます。現在は更地になっていますが、ここではすずさんと晴美ちゃんが避難していたあの場面を思い出すことができます。
最後にたどり着くのが「歴史の見える丘」。ここからは呉港や造船所を一望でき、映画で描かれた風景そのものが広がっています。ゆっくり景色を楽しんだあとは、近くの「子規句碑前」バス停から呉駅まで戻ることができます。
バスと徒歩で気軽に楽しむ“ライト”コース(所要約半日)
もう少し時間を短縮したい方には、広電バスを利用したモデルコースも便利です。呉駅前から辰川線のバスに乗り、約13分で「辰川バス停」に到着。ここから徒歩で「すずさん家」を訪問し、段々畑や隣保館跡などをゆっくり散策します。
徒歩移動が負担に感じる場合は、バスで一駅戻ることも可能です。次に向かう「三ツ蔵」では、映画のワンシーンに重なる市街地の景色が味わえます。
その後は「歴史の見える丘」へ。ここでもすずさんが見ていた景色をそのまま体感でき、映画と現実が静かにつながる不思議な感覚に包まれます。帰りは「子規句碑前」からバスに乗って呉駅まで戻れば、無理なく充実した巡礼旅が楽しめます。
どちらのコースでも、時間に余裕を持って行動し、暑さ対策や休憩を取りながら無理のないペースで巡るのがポイントです。歩きやすい靴で、すずさんの足跡をたどるような旅を、心に残る体験として楽しんでみてください。
気になるNHKをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。
コメント