なぜハンコは赤いのか?知られざる日本文化の秘密
私たちが日常生活で使う『ハンコ』。宅配便の受け取りや契約書の署名の代わりなど、押すたびに赤い印影が残りますよね。けれど、よく考えてみると「なぜ赤色なのか?」と疑問に思ったことはありませんか?黒や青ではなく、赤が主流になったのには、歴史や文化、そして実用的な理由が深く関わっているのです。この記事では、その背景をわかりやすく掘り下げていきます。
古代から続く「朱色」の力
結論から言うと、赤が選ばれた大きな理由のひとつは顔料の保存性と鮮やかさです。古代から『辰砂(しんしゃ)』や『水銀朱』と呼ばれる赤い鉱石が朱肉の原料に使われてきました。これらは発色が強く、年月を経ても色あせにくい性質があります。契約や証明など「長く残す必要があるもの」にとって、赤は理想的な色だったのです。
中世や近世に入ると、これらの鉱石を油や繊維に混ぜて練り合わせる技術が広がり、現在につながる朱肉が形づくられていきました。朱肉が広まったことにより、赤は「信頼できる印影を残せる色」として日本社会に定着していったのです。
墨とのコントラストで「一目でわかる」
日本では文書が墨で書かれるのが一般的でした。そのため、文字が黒い文書に赤い印影を押すと、強いコントラストが生まれます。黒の中に赤が浮き立つことで、印がどこにあるのかがひと目で確認でき、視認性が高まりました。契約書や公的文書において「確かに押された」と一目でわかることは、信頼性を高めるために非常に重要だったのです。
赤は「権威」と「神聖」の色
朱色は日本文化において、古来から特別な意味を持つ色でした。神社の鳥居や祭具、護符などに朱色が多用されているように、赤は『魔よけ』『神聖さ』『吉祥』を象徴する色と考えられてきました。
歴史を振り返ると、江戸時代以前に幕府が発行した公式文書には『朱印状』と呼ばれるものがありました。そこには赤い印が押されており、幕府の権威を示す大切な証として扱われていました。さらに海外貿易に許可を与える制度『朱印船』の名にも朱印が登場し、朱色が「正当性と権威」を象徴する色であったことがわかります。
こうした歴史的背景からも、「赤い印影は権威あるもの」という認識が人々の間に浸透していきました。
信頼性を保証する「赤」
ハンコを押す行為は、文書の正当性を保証するものです。赤い印影は目立ちやすく、長期保存しても消えにくいため、証拠性を担保するのに最適でした。実は法律で「赤でなければ無効」と決められているわけではありません。現在でも黒や青のインクは市販されていますが、実務では赤が圧倒的に選ばれています。つまり「赤であれば安心」という社会的合意が形成され、結果的に赤が標準色となったのです。
赤以外の印鑑はどうなの?
技術の進歩によって、黒や藍色などの朱肉も作られるようになりました。趣味の蔵書印やオリジナルデザインの印鑑では、赤以外の色を使うこともあります。しかし、契約書や公的文書ではやはり赤が基本とされます。理由は簡単で、赤がもっとも認知度が高く、信頼されているからです。たとえ法律上は他の色でも効力を持ちますが、相手の安心感を得るには赤が欠かせないのです。
中国文化との関わり
日本の印章文化は中国から伝わったものです。中国でも古代から印は朱色を背景に押されることが一般的でした。『朱文印章』と呼ばれる赤地に白抜きの印影は、権威や身分を示すものとして重んじられ、日本にもその文化が受け継がれています。日本独自の発展を遂げつつも、中国文化との共通点からも、赤が持つ特別な意味は強固なものになっていったといえるでしょう。
『チコちゃんに叱られる!』での放送内容
2025年10月3日の放送では、この「なぜハンコは赤なのか?」という疑問を、歴史ドラマや実験を交えて解説します。ゲストの吉瀬美智子さんと板垣李光人さんが登場し、普段気にもしなかった赤い印影の秘密に驚く場面も見どころです。番組を見れば、当たり前に思っていた行為に隠された文化的な背景が見えてきて、日常を違った角度でとらえられるようになるはずです。
この記事のポイント
-
赤は顔料として鮮やかで色あせにくく、長期保存に向いていた
-
墨(黒)との対比で目立ちやすく、印影が確認しやすかった
-
日本文化において赤は『神聖』『魔よけ』『権威』を象徴していた
-
法律上は他の色も可能だが、社会的に赤が最も信頼されている
-
中国から伝わった印章文化の影響も大きい
私たちが無意識に使っている赤い印影には、長い歴史と文化の積み重ねがあります。朱肉の赤は、ただの色ではなく「信頼・権威・安心」を示す象徴なのです。次にハンコを押すとき、そこに込められた歴史を少し思い出すと、日常がほんの少し豊かに感じられるかもしれません。
(※この記事は放送前の内容をもとに執筆しています。放送後に追加情報を追記予定です)
気になるNHKをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。
コメント