『逆境的小児期体験ACE(2)リスクの軽減と予防』
子どもの頃に受けた逆境体験が、大人になった自分の生きやすさ・生きづらさを決めてしまう——そんな現実が、近年の研究で明らかになってきました。
2025年に放送されるハートネットTVの特集は、この問題を社会全体で考えるための重要な機会です。とくに今回は第2回として「リスクの軽減と予防」に焦点が当てられ、支援の現場で何が行われているのか、そして社会として何を求められているのかに光が当たります。
ACE(Adverse Childhood Experiences)は、単なる心理的なつらさの話ではありません。身体の健康、心の安定、学び、働き方、人間関係、そして人生の選択肢そのものにまで影響していく、大きな社会課題です。
そのため、このテーマを理解することは「子どもの未来を守ること」だけでなく、「大人になった私たち自身の生きづらさのルーツを知り、改善すること」にもつながっていきます。
Eテレ【ハートネットTV】特集・逆境的小児期体験ACE(1)成人後も続く生きづらさ 拡張版ACEとPCEsの最新知見|ACEスクリーニング日本の課題|2025年11月24日
ACEとは何を指すのか
ACEとは、子ども時代に起こる逆境的体験の総称です。代表的なものとして挙げられるのは次のとおりです。
・保護者からの暴力(身体的・心理的)
・育児放棄(ネグレクト)
・家族の精神疾患
・家族のアルコール・薬物依存
・親の離婚や別離
・家庭内での過度な不和
・適切な養育者との安定した関係の欠如
これらの体験は、一つひとつだけでも心に深い影響を与えますが、複数が重なると影響が強まりやすいことが分かっています。
ACEが注目されるのは、単なる「つらい過去」だからではありません。
幼少期は脳や神経系が発達していく非常に重要な時期であり、その時期の強いストレスは脳の構造・ホルモンの働き・免疫系の成長にまで影響を及ぼす可能性があるからです。
また、ACEによって育った子どもは、大人になってから以下のようなリスクが高まる傾向があると研究で示されています。
・うつ・不安・自己否定感
・自傷行為や自殺企図
・慢性的な病気のリスク増加(心疾患・糖尿病など)
・対人関係が続かない、親密な関係を築きにくい
・学業・仕事の継続が難しい
・経済的困難が連鎖する
つまりACEは、「心の問題」にとどまらず、人生全体を左右する深いテーマなのです。
どうしてACEが健康や人生に影響するのか
ACEが心身に影響を及ぼす仕組みとしてよく挙げられるのが、『トキシックストレス』です。
これは、長期間続く強いストレスのことで、脳の発達を阻害したり、ストレスホルモンの調整を乱したり、免疫機能に影響したりすると言われています。
本来なら安心して成長できるはずの環境が、恐怖・不安・孤独で満たされると、体は常に「危険」に備えるモードになり、健康にも大きな負担がかかります。
さらに、ACEの数が多いほどリスクが高まる『量–反応関係』が示されています。
これは、ACEが単発ではなく累積することで影響が大きくなるという点で、支援の必要性をより強調する根拠になります。
ACEのリスクを軽減する支援とは何か
ACEは「過去のこと」ではなく、「今からでも変えられること」がある領域です。
支援の基本方針として大切なのは次の三点です。
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子どもが安心して育てる環境を整える
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保護者・家庭に寄り添う支援を広げる
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地域・学校・医療・福祉が連携し、見守りの網を広げる
具体的には、次のような実践があります。
・妊娠期から子育て家庭をサポートする家庭訪問支援
・乳幼児健診での早期発見・相談
・子ども家庭支援センターでの継続的サポート
・学校でのトラウマ配慮型教育(trauma-informed care)
・地域の居場所づくり、交流の場の提供
・保護者のメンタルヘルス支援
・経済的支援によるストレスの軽減
ACEは家庭の問題だけでなく、社会全体の問題です。
だからこそ、社会的な支援が必要になります。
日本で広がるACE関連の取り組み
日本でもACEに関連した取り組みが着実に増えています。
認定NPO法人フローレンスは、子どもの逆境に焦点を当て、記事や勉強会を通じて社会理解を広げています。
病児保育や赤ちゃん縁組、こども宅食など、家庭を包括的に支える仕組みを実践している点が特徴的です。
また、立命館大学の研究では、児童養護施設出身者のACEスコアを調査し、支援の必要性をデータとして示しています。
子どもの声を丁寧に聴くアドボカシーの重要性や、情緒発達を支える教育的な取り組みも紹介されています。
さらに、CAPセンター・ジャパンによるACE啓発セミナーは、地域の教育・福祉関係者が協力し合うきっかけをつくり、「地域全体で子どもを守る文化」を育てています。
行政レベルでは、子ども家庭庁の体制強化や、日本版CAC(チャイルド・アドボカシー・センター)導入の議論が進み、制度面での後押しが整いつつあります。
残された課題と今後の方向性
ACEに関する支援は広がってきていますが、課題も多く残されています。
・地域ごとに支援の質や量が大きく異なる
・専門職の不足
・家庭に支援が届きにくいケースがある
・当事者の声が制度設計に十分反映されていない
・支援の効果測定が難しい
ACE支援が社会に根付くには、「個人の問題ではなく社会全体の課題である」という認識が広がることが欠かせません。
そして、支援へのアクセスをもっと平等にし、子どもも大人も安心して相談できる社会の基盤が必要です。
まとめ
ACEは、子ども時代の逆境体験が大人の生きづらさに影響するという重要なテーマです。
今回のハートネットTVの特集は、そのリスクを減らすための支援や予防の最前線を知る貴重な機会になるでしょう。
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