「依存症」前編|“やめられない理由”と“回復の道”
依存症という言葉は重いように感じますが、番組が掘り下げるのは「特別な誰かの話」ではありません。大学の飲み会のような日常のきっかけから始まり、気づいたときには抜け出せなくなってしまう、その過程にあるリアルです。
今回の『フクチッチ』は、依存症を“福祉の視点で楽しく学ぶ”という番組の特徴を活かしながら、当事者の声や歴史を交えて理解を深める構成になっています。
NHK【病院ラジオ(20)心の医療センター編】さいがた医療センターの治療プログラムとは?依存症と心の病に向き合う現場|2025年9月15日放送
依存が始まる“最初の一歩”と気づけない落とし穴
依存症は、ほどほどで終わらせるはずの行為がやめられなくなり、生活や心身のバランスを崩しても続けてしまう状態を指します。対象は『アルコール』『ギャンブル』『ゲーム』などさまざまですが、その入口にははっきりした共通点があります。
最初のきっかけは、大学の飲み会や友人との遊びといった、ごくありふれた場面です。楽しさや高揚感、達成感、ストレス発散のために始めた行為が、気づかないうちに生活の中心に入り込みます。
続けるほど、「これがないと落ち着かない」「今の気持ちを埋めたい」という感覚が強まり、行動の優先順位が少しずつ変わっていきます。
この時期は、本人も周囲も深刻さに気づきにくいのが特徴です。
「みんなもやっているから大丈夫」と思い込みやすく、問題が表に出るまで時間がかかることも多くあります。
ゲーム依存では、学校や仕事よりもゲームを優先してしまう状態が続き、できない時には強い不安や焦りが湧きます。
ギャンブル依存では、負けを取り返そうと何度も挑戦し、損失が損失を呼ぶ“負のループ”に入り込みます。
アルコール依存では、飲酒量が徐々に増え、生活リズムや健康が乱れはじめ、飲まずにはいられない状態になります。
これらは意思が弱いからではなく、脳の働き方や心の反応が変化してしまうことで起こるものです。
「気づいたらやめられない」という流れは、誰にでも起こり得る共通のメカニズムです。
本人だけの問題ではない…生活全体を揺らすリアル
依存症は、本人だけでなく周囲の人の生活まで揺らしてしまう大きな問題です。
『アルコール』では体調不良や内臓の負担が積み重なり、日常生活そのものが維持しにくくなります。『ギャンブル』では負けを取り返そうと繰り返すうちに借金が膨らみ、収入のほとんどがギャンブルに消えてしまうケースもあります。『ゲーム』では昼夜逆転や長時間プレイが続き、学校や仕事が続けられなくなることが増えていきます。
こうした変化は家庭にも影響します。
依存が進むと、嘘をついて行動を隠したり、約束を守れなくなったりするため、家族の信頼が揺らぎます。ときには喧嘩が増え、家族が疲れ果ててしまうこともあります。周囲に打ち明けられず、孤立が深まる状況が起こりやすいのも特徴です。
依存症の根底には、「本当はやめたいのにやめられない」という強い葛藤があります。そこに恥ずかしさや自責感が重なり、助けを求めることが難しくなります。問題が表に出るころには、本人も家族も限界に近い状態になっていることがあります。
さらに、依存症が“見えにくい病気”とされる背景には、社会的な偏見が関係しています。
行動依存は特に、周囲からは単なる趣味や息抜きのように見えるため、深刻さが理解されにくいまま進行しがちです。気づいたときには生活全体が揺らいでしまう――それが依存症のリアルです。
回復を切り開いてきた人たちの歴史と、その支え
依存症からの回復には、ひとりでは越えられない壁があります。
医療機関の専門家、自助グループ、相談員、そして家族の理解や寄り添いが重なり、ようやく“回復への道”が動き出します。安心して気持ちを話せる環境ができることで、長く続いていた隠す習慣がほどけ、ようやくスタートラインに立つことができます。
依存症支援の歴史をたどると、当事者の声が治療や制度づくりの中心にあったことがわかります。
アルコール、ギャンブル、ゲームといった種類の違いにかかわらず、依存の背景には脳や心の仕組みの共通点があります。その共通点を踏まえて、医療と支援の現場では、行動依存と物質依存を分けずに考えるプログラムが発展していきました。
グループミーティングや仲間同士の支え合いは、誰かが一歩踏み出す勇気につながり、その積み重ねが“回復の文化”をつくってきました。困難の中でもあきらめずに続けてきた人たちの経験が、今の支援の土台になっています。
こうした取り組みの広がりによって、依存症は「抜け出せない問題」ではなく、『出口の見える病気』として扱われるようになってきました。
今回の放送では、依存症を乗り越えてきた人たちの歩みが紹介される予定です。その経験には、回復の過程で何が救いになったのか、どんな支えが必要だったのかといった大切なヒントが詰まっています。
出演する 風間俊介、ブルボンヌ、松本俊彦、風間暁、山田ルイ53世、ゆめぽて、香月萌衣、中村幹太 が、このテーマにどのように向き合い、どんな視点を持ち寄るのかも見どころです。
まとめ
依存症は、誰にでも訪れうる身近な問題であり、“意思の弱さ”では説明できない複雑さがあります。
依存の始まり、深まる過程、本人と周囲の苦しさ、そして回復のしくみ――それらを知ることで、偏見ではなく理解から支えが生まれます。
依存症の奥にある“普通の人のつまずき”が見える回でした
依存症という言葉には重いイメージがありますが、番組ではその奥に“誰にでも起こりうる小さなつまずき”があることが見えてきました。
特別な性格や特殊な環境の人だけが悩むものではなく、大学生の飲み会や友人との遊びといった、ごく日常的な場面が入り口になることが語られていました。
最初は軽い気持ちで始めた行動が、気づかないうちに心の支えとなり、やがて生活の中心へと変わっていきます。楽しかったはずの時間が、「ないと落ち着かない」「やめられない」に変わる過程には、誰もが思い当たる瞬間があるはずです。
話を聞く中で、依存症は“自分とは無関係”と思い込んでしまいがちですが、実はとても身近な問題だと実感しました。
小さなきっかけが積み重なることで、本人の生活だけでなく、家族や周囲の毎日までも揺らしてしまう。そんなリアルな姿が伝わってくる回でした。
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