今回のチコちゃんは「食パン・一輪車・ノイズキャンセリング」
今回えらばれたのは、「食パン」「一輪車」「ノイズキャンセリング」の3つのテーマです。番組表にも「なぜ食パンを焼くとおいしくなる? なぜバランスの悪い一輪車に乗るようになった? なぜノイズキャンセリングは騒音を消せる?」と3つの素朴な疑問が並んでいます。
どれも、日常の中でなんとなく知っているつもりのことばかりです。
パンは焼いた方がおいしいし、一輪車は「そういう乗り物だから」と思ってしまいます。
ノイズキャンセリングも、なんとなく静かになるから便利、くらいで深く考えません。
そこにチコちゃんが、いつもの決めゼリフで切り込みます。
ぼんやり生きていると見逃してしまう「なぜ?」を、科学や歴史の専門家と一緒に解き明かしていく構成です。
食パンはなぜ焼くとおいしくなるのか
番組で最初に取り上げられたのは、「なぜ食パンを焼くとおいしくなるのか」という疑問でした。ここで大事なポイントになったのは、表面と中で起きている変化が違うということです。
表面では、熱によって糖とアミノ酸が反応し、あの香ばしい香りやきつね色の焼き目が生まれます。これは食品の世界でよく知られる反応で、パンや焼き菓子、肉の焼き色などにも関わる現象です。パンの外側が「パリッ」と感じられるのは、こうした加熱の変化がしっかり起きるからです。いっぽう中では、でんぷんが水を取り込みながら状態を変え、もっちり、ふんわりした食感につながっていきます。焼くことで外と中の役割がはっきり分かれ、1枚のパンの中に食感の差が生まれるのです。
番組ではこの仕組みを、工学院大学の山田昌治博士がわかりやすく解説していました。工学院大学は東京・西新宿に新宿キャンパスを持つ大学で、工学や建築などの分野で知られています。新宿駅から近い都市型キャンパスを持つ一方、八王子キャンパスも展開していて、理工系の教育研究を広く行っています。
トーストのおいしさは、ただ「温かいから」ではありません。香り、焼き色、表面の軽さ、中心のやわらかさがいっしょに立ち上がるからこそ、人は焼いたパンをおいしいと感じます。朝の食卓で何気なく食べている1枚にも、こんなふうに科学が重なっているのだと思うと、いつものトーストが少し特別に見えてきます。
エントロピー増大の法則がトーストの食感を変える
この話をぐっとおもしろくしていたのが、番組がエントロピー増大の法則までつなげていたことです。少しむずかしく見える言葉ですが、番組では「物事は放っておくと、よりばらけた状態、乱雑な状態へ向かう」という考え方として紹介されていました。
パンを焼くと、まず表面が先に熱くなり、中心はまだ低い温度のままです。つまり焼いている途中のパンの中には、熱いところと冷たいところが分かれて存在しています。この差があると、全体はできるだけ均一な状態に近づこうとします。そこで表面付近の温まった水分が中心へ移動し、中心の食感がもちもち、ふんわりと感じられる方向に動いていく、という説明でした。番組ではコーヒーにミルクを入れると自然に混ざっていく例も出され、難しい話を身近な感覚に引き寄せていました。
ここで補足すると、パンや焼き菓子の世界では、表面で進む褐変反応と、内側で進むでんぷんの変化や水分の移動が、食感を左右する大事な組み合わせとして知られています。だからこそ、表面をしっかり熱しつつ中の水分を残す焼き方が、おいしさに直結しやすいのです。番組で紹介された「焼く前にトースターを温めると、表面と中の温度差が大きくなり、よりおいしくなりやすい」という話も、この流れで見るとすっと理解できます。
科学の言葉はふつう少し遠く感じますが、今回の説明は、食パン1枚を通して「宇宙の法則」と暮らしがつながる驚きを見せてくれました。大げさではなく、朝のトーストを見る目が変わる回だったと思います。
なぜ一輪車に乗るようになったのか
2つ目のテーマは、見た目にも不思議な一輪車です。そもそも、2輪でもふらつくのに、なぜ人は1輪だけの乗り物に乗るようになったのか。番組の答えは、とても意外で、もともと危なさを持っていた昔の自転車の流れの中から生まれた、というものでした。
番組では、自転車の始まりとして1817年のドイツで作られたドライジーネが紹介されました。これはペダルがなく、足で地面を蹴って進む乗り物で、今の自転車の原型とされます。そこから1860年代には、フランスで前輪にペダルが付いたミショー型ベロシペードが登場しました。さらに1回のペダル回転でより長く進みたいという発想から、前輪を大きくしたオーディナリーへと進んでいきます。自転車文化センターも、所蔵車の紹介の中でドライジーネを1817年の「世界最初の自転車」、オーディナリーを1870年代の代表的な歴史的自転車として案内しています。
ただし、この大きな前輪の自転車は、速く走れる反面、重心が高くなりやすく、急停止や段差に弱い面がありました。自転車文化センターの研究報告でも、前輪の大きなオーディナリーは運転が難しく、転倒しやすいことが解説されています。番組が示したのは、こうした「ちょっと危うい自転車」を器用に乗りこなす流れの中で、だったら前輪だけでバランスを取ってみよう、という発想が一輪車誕生のきっかけになったという見方でした。
この説明のおもしろさは、一輪車を最初から独立した遊び道具として見るのではなく、自転車の進化の枝分かれとして見せてくれるところです。安定を求めて進化した現代の自転車とは逆に、危なさや器用さの中から生まれたのが一輪車だと考えると、その存在の見え方が一気に変わります。
ドライジーネからオーディナリーへ 自転車の進化と一輪車誕生の背景
番組で一輪車の話を深めてくれたのが、自転車文化センターと日本自転車普及協会に関わる森下昌市郎さんでした。自転車文化センターは東京・品川区上大崎にあり、外部展示室として東京・北の丸公園の科学技術館2階に「自転車広場」を持っています。そこでは自転車技術の変遷が紹介されていて、歴史的な自転車の流れを学べるようになっています。
歴史をたどると、自転車は「もっと遠くへ」「もっと速く」という願いの中で形を変えてきました。前輪が巨大化したオーディナリーは、その象徴のような存在です。高い目線で走れる気持ちよさがある一方で、乗り降りの難しさや転倒の危険も大きかった。現代の感覚で見れば不安定ですが、当時はそれでも前へ進もうとした技術の結果でした。番組の説明がよかったのは、その不安定さがただの失敗ではなく、新しい発想へつながった点まで見せてくれたところです。
そして今の日本では、一輪車は学校現場にも深く根づいています。公益社団法人日本一輪車協会は、全国の小学校やスポーツ施設200か所へ、年間2000台の一輪車「宝くじ号」を寄贈する事業を続けていると案内しています。さらに同協会は、一輪車が平衡感覚、反射神経、敏捷性、体幹の育成にもつながると説明しています。番組で語られた「小学校に一輪車が広まった理由」には、こうした教育的な評価の積み重ねも背景にあります。
つまり一輪車は、昔の危うい自転車の名残であると同時に、今では子どもたちの体づくりや挑戦心を育てる道具にもなっています。歴史の偶然から生まれたものが、時代をこえて別の意味を持つようになる。その流れまで感じられるのが、このテーマの深みでした。
72時間で一輪車に挑んだ理由と練習の積み重ね
番組では理屈だけで終わらず、東京都新宿区で活動する一輪車クラブUnicycle新宿Azaleaの現場も映されました。このクラブは公式案内でも、東京都新宿区を中心に活動し、新宿区内の小学校体育館を使って週末や平日の夜に練習していること、小中学生を中心に幅広い年代のメンバーがいることを紹介しています。また、日本一輪車協会のクラブ紹介にも、活動地域が東京都新宿区であることが記載されています。
ここで印象に残ったのが、番組スタッフののぶくんが72時間で一輪車に乗れるかに挑戦したくだりです。最初は壁や人の手を借りながら乗るところから始まり、少しずつ姿勢や体の置き方を学んでいく。うまくいかない時間のほうが長いのに、練習をやめない。その積み重ねがとても人間らしく映っていました。番組の中では、子どもたちがかなり厳しい予想をしていたのも正直で、だからこそ大人の挑戦が余計に胸に残ります。
指導した下山和大さんは、一輪車競技の世界大会で実績を持つ人物として知られています。日本一輪車協会の国際大会関連ページや本人プロフィールでも、世界大会での優勝歴が確認できます。番組の挑戦は最終的に72時間で「乗れた」とまではいきませんでしたが、それでも乗り方の感覚に近づいていく過程がていねいに映されていました。
一輪車は、見る側からすると華やかです。でも実際は、姿勢、目線、体重移動、怖さとの付き合い方を少しずつ体に覚えさせる運動です。番組はその地道さをちゃんと見せていて、だからこそ「乗れなかった」で終わらず、「挑戦することそのものが価値になる」と感じられるパートになっていました。
ノイズキャンセリングはなぜ騒音を消せるのか
3つ目の疑問は、いまや多くの人がイヤホンやヘッドホンで使っているノイズキャンセリングです。番組の答えはとても明快で、「真逆の音をぶつけているから」でした。
音は波として伝わります。山と谷を持つ波なので、ある音に対してちょうど反対向きの波を重ねると、互いを打ち消し合うことがあります。番組では、元の音を反転させた「真逆の音」を同時に鳴らすと、耳にはほとんど聞こえなくなる実験が紹介されていました。聞こえなくなるというと不思議ですが、魔法ではなく、波の重なり方を利用した現象です。立命館大学の西浦敬信教授は、情報理工学部で音響工学を専門とし、研究分野としてノイズキャンセリングを含む音響信号処理を掲げています。大学の研究者紹介でも、その専門性が明記されています。
この技術は、周囲の騒音をマイクで拾い、その場で逆向きの波を作って耳に届くノイズを減らす仕組みとして広く使われています。立命館大学は以前、NHKの**チコちゃんに叱られる!**で西浦教授の研究室が取り組むノイズキャンセリング技術が紹介されると案内しており、研究室がこの分野の実践的な研究を進めていることがわかります。
ふだんは「雑音が減って便利」で終わりがちな機能ですが、その裏には音の性質を正確につかみ、瞬時に処理する技術があります。耳に見えない音の世界を、目に見える理屈として感じさせてくれたのが、このパートの強さでした。
真逆の音で打ち消す技術はどこまで広がっているのか
番組では、ノイズキャンセリングがイヤホンやヘッドホンだけではなく、ほかの機器にも広がり始めていることにも触れていました。実際、立命館大学の案内でも、西浦敬信教授の研究はノイズキャンセリングにとどまらず、音環境の解析、理解、再現、合成へと広く展開していることが示されています。
ここで少しだけ背景を補うと、騒音を消したいという考えは、単に「静かにしたい」だけではありません。必要な音だけを聞き取りやすくしたい、会議の声を通しやすくしたい、作業環境をよくしたいという目的にもつながります。だからこそ、PCマイクや通話機器、車内や作業現場など、活用の幅が広がってきました。音を消すというより、音を整える技術として考えると、この分野の進化がとてもわかりやすくなります。
今回の番組でよかったのは、難しい装置の話に寄りすぎず、「元の音と逆向きの音を重ねると消える」という核の部分をしっかり見せてくれたことです。音は目に見えないので、しくみを知らないままだと不思議なまま終わりがちです。でも、山と谷の関係だと考えると、急に身近になります。こういう伝え方は、さすがチコちゃんに叱られる!らしいところです。
食パンも、一輪車も、ノイズキャンセリングも、知らなくても毎日は過ごせます。けれど、知ると世界が少しだけ立体的になります。今回の回は、その楽しさをまっすぐ届けてくれる内容でした。検索で答えを探してきた人にとっても、見終わったあとにもう1歩だけ深く理解できる回だったと思います。
NHK【チコちゃんに叱られる!】おしぼり文化の起源と土壌シードバンク、滝が凍らない科学を探る 歴史と自然の謎|2026年2月27日
気になるNHKをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。


コメント