A5ランクがあふれる時代に起きている焼き肉店の異変
このページでは『所さん!事件ですよ(2025年12月13日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
「高級なはずの和牛A5ランクが余っているのに、焼き肉店は次々と姿を消している」。番組は、この一見ふしぎな現象を手がかりに、日本の焼き肉業界と和牛生産の裏側を追っていきました。安い肉が手に入りにくくなった現場、高級肉が評価されにくくなった市場、その両方で何が起きているのかが見えてきます。
焼き肉店倒産が過去最多となった背景と業界の現状
全国におよそ1万5000店ある焼き肉店ですが、倒産件数は過去最多の水準に達しました。原因は一つではありません。まず大きいのが原材料費の高騰です。牛肉だけでなく、野菜、米、調味料まで値上がりし、さらに光熱費や人件費も上昇しました。
特に打撃が大きいのが、これまでコストを抑える要だったアメリカ産牛肉の値上がりです。輸入価格が上がる一方で、外食の価格は簡単には上げられません。値上げをすれば客足が遠のき、据え置けば利益が出ない。この状態が長く続き、体力のある大手チェーンだけが残り、個人店や中規模店ほど追い込まれていきました。
番組では、焼き肉店の倒産は「味」や「人気」の問題ではなく、構造的な問題であることが強調されていました。
和牛A5ランクが氾濫する仕組みと格付け制度の成り立ち
一方で、希少なはずの和牛A5ランクが「余っている」という現実があります。和牛の格付けは、日本食肉格付協会が定めた制度で行われます。「歩留まり等級(A・B・C)」と「肉質等級(1〜5)」の組み合わせで評価され、A5が最上位です。
この制度が整えられた背景には、1988年の日米牛肉輸入自由化交渉があります。安価な輸入牛肉が流入する中で、国産和牛の価値を守るため、品質を数値で示す必要がありました。その結果、霜降りの度合いが強く評価され、「霜降り=高級」という価値観が広く浸透していきました。
当時はA5ランクは確かに特別な存在でした。しかし、その成功体験が長く続いたことで、生産の方向性が一つに固定されていきます。
霜降り神話を支えた種牛と量産構造の実態
番組で象徴的に紹介されたのが、特定の種牛に依存した生産構造です。種牛「百合未来」は、年間およそ3万回も種付けに使われ、生まれた子牛は10万頭以上にのぼります。A5ランクの出現率は約9割とされます。
その血統をたどると、『平茂勝』『安福久』といった霜降りが入りやすい名牛が並びます。精液は冷凍保存され、1本8800円で全国に流通します。効率よく高ランクの肉が作れるため、生産者にとってはリスクの少ない選択でした。
結果として、1年間に出荷される和牛の半分にあたる約17万頭が、わずか15頭ほどの種牛の血を引く子牛という、極端な集中が生まれました。A5ランクは「希少」ではなく、「量産」される存在へと変わっていきました。
消費者の赤身志向と生産現場のミスマッチ問題
一方、食べる側の価値観は変わり始めています。脂が多くて重たい霜降りよりも、赤身のうまみや食後の軽さを求める人が増えています。
しかし生産現場では、簡単に方向転換できません。子牛1頭の仕入れ価格は平均で69万円、20か月間のエサ代が約45万円、施設維持費などを含めると124万円ものコストがかかります。有名ブランド牛では1頭180万円以上になることもあります。このため、「確実に高く売れるA5」を作らないと経営が成り立たないという事情があります。
赤身中心の和牛を作ろうとしても、その特徴を持つ種牛自体がほとんど残っていません。需要が変わっても供給が追いつかない。これがA5余りと価格低下を招いています。
脱・霜降り神話に挑む短角牛と幻の和牛の取り組み
番組は、霜降り一辺倒ではない和牛を守る人たちにも光を当てました。北海道・釧路市では『日本短角牛』を育てる牧場があります。昭和50年代には3万頭以上いた短角牛は、現在は約6000頭まで減りました。それでも赤身の味を評価する飲食店を中心に、首都圏などで提供が続けられています。
さらに紹介されたのが『竹の谷蔓牛』です。江戸時代後期、畑仕事の労働力として改良された牛で、適度なサシと赤身のうまみが特徴です。発酵飼料やヨモギを食べさせるなど、手間のかかる飼育を続け、血統を守るための協議会も立ち上がっています。こうした牛は「効率」では測れない価値を持っています。
多様な和牛を評価する新たな格付けと今後の可能性
現在の流通頭数を見ると、黒毛和牛は約177万3000頭、あか牛は約2万2000頭と大きな差があります。こうした中、高知県では『土佐あかうし』の赤身と脂のバランスを評価する独自の格付け制度を導入しました。
霜降りの量だけでなく、「どんな味か」「どんな料理に合うか」を評価する考え方は、これからの和牛に新しい選択肢を与えます。
焼き肉店の倒産という出来事は、単なる外食不況ではありません。和牛A5ランクを頂点とする仕組みが限界に近づき、食べる側と作る側の価値観をつなぎ直す時期に来ていることを、番組は静かに伝えていました。
NHK【うまいッ!】島育ちの黒毛和牛「東京ビーフ」に密着!青ヶ島から400kmの旅と絶品の味わい|2025年4月6日放送
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