Eテレ【地球ドラマチック】アナホリフクロウに魅せられて〜草原の復活物語〜 生態と保護活動が変えたオレゴン州の今｜2025年12月22日

アナホリフクロウはなぜ特別な猛禽類なのか

『アナホリフクロウ』は、フクロウの仲間の中でも非常にめずらしい生活スタイルを持つ猛禽類です。多くのフクロウが森の中で木の洞や高い場所をねぐらにするのに対し、アナホリフクロウは草原に広がる地面の穴をすみかとして利用します。自分で穴を掘ることはほとんどなく、地中に巣穴を作る哺乳類が残した穴を使って暮らすため、草原の環境と密接に結びついて生きています。
また、夜行性のイメージが強いフクロウとは違い、日中でも活動する姿が見られるのも特徴です。草原に立ち、周囲を見渡しながらエサを探す姿は、猛禽類らしい鋭さと同時に、どこか親しみやすさも感じさせます。昆虫や小型の動物を捕食することで、生態系のバランスを保つ役割も担っており、アナホリフクロウの存在は草原の健康状態を映す指標とも言えます。

草原が消えたことで起きた危機

アナホリフクロウが直面している最大の問題は、生息地である草原そのものが失われてきたことです。かつて『オレゴン州』には、見渡す限りの開けた草原が広がっていましたが、農地への転用や都市開発が進むにつれ、その風景は大きく変わっていきました。
草原が減ると、エサとなる昆虫や小動物が減少するだけでなく、巣穴を提供してきた哺乳類の数も少なくなります。結果として、アナホリフクロウは繁殖する場所を失い、地域から姿を消していくことになりました。草が伸びすぎたり、土地が細かく分断されたりすることも、見通しのよい環境を好むこの鳥にとっては大きな障害となります。番組では、こうした環境の変化が静かに積み重なり、危機につながっていった過程が描かれます。

人工の巣穴から始まった保護の挑戦

生物学者が最初に取り組んだのが、『人工巣穴』を草原に設置する試みです。自然の巣穴が失われた環境でも、アナホリフクロウが安心して暮らせるよう、地中にトンネル状の通路と巣室を備えた構造が作られます。
ただ巣穴を作るだけではなく、設置する場所の地形や周囲の見通し、外敵から身を守れるかどうかまで考え抜かれます。巣穴同士の距離や配置も重要で、つがいが落ち着いて繁殖できる環境を整えるため、試行錯誤が続きます。こうした地道な作業はすぐに成果が見えるものではありませんが、草原に再び命の拠点を作るための大切な一歩として積み重ねられていきます。

1羽ずつ向き合う生態調査の積み重ね

この番組の大きな特徴は、『個体識別』による細かな生態調査です。アナホリフクロウは1羽ごとに識別され、それぞれの行動や移動、繁殖の様子が長い時間をかけて記録されます。
こうした調査によって、どの巣穴が使われやすいのか、どのようにつがいが形成されるのかといった傾向が少しずつ見えてきます。鳴き声の違いや移動のルートなど、これまで十分に分かっていなかった点も明らかになり、草原での暮らしの全体像が浮かび上がっていきます。派手な演出はなくても、積み重ねられたデータが保護活動の確かな土台になっていることが伝わってきます。

ヒナの誕生が教えてくれる草原の変化

人工巣穴に住み着いたつがいからヒナが生まれる場面は、保護活動の成果が形として現れる瞬間です。親鳥が巣穴にエサを運び、ヒナが少しずつ外の環境に慣れていく様子は、草原が再び命を育てる場所になりつつあることを示しています。
やがてヒナは巣穴の外に姿を見せ、成長とともに巣立っていきます。この一連の流れは、単に個体数が増えたという意味だけでなく、草原の環境が安定し始めていることの証でもあります。人の手による支えと、自然本来の力が重なり合い、少しずつ復活へ向かう草原の姿が、静かに描かれていきます。