闇の奥で輝く色がある サイエンスZEROが挑む『黒』の正体
このページでは『サイエンスZERO(2026年1月4日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
色彩の科学の中でも特別な存在である『黒』は、ただ暗いだけの色ではありません。自然界、伝統工芸、最先端技術の現場で、『黒』は常に主役として使われてきました。今回の放送では、科学者たちが長年向き合ってきた『黒』の正体に迫り、なぜ人はこの色に強く引き寄せられるのかが描かれます。
色の考え方はここから始まった ニュートンとゲーテの『黒』
番組の入り口となるのが、ニュートンとゲーテという二人の思想家による色彩理論です。
同じ『黒』を見つめながらも、二人が立っていた場所は大きく異なっていました。
ニュートンは、光そのものを科学的に分析しました。
太陽の光をプリズムで分解し、赤から紫までの色が光の中に含まれていることを示した人物です。この考え方では、『黒』は光が反射されず、目に届かない状態として位置づけられます。つまり『黒』とは、色の一つというより、光が欠けている結果だと考えられました。ここでは、色は物理現象として扱われています。
一方のゲーテは、まったく別の視点から色を見ていました。
彼が注目したのは、光そのものではなく、人が色をどう感じ、どう受け取るかという点です。ゲーテにとって『黒』は、単なる光の不在ではありません。暗さの中に生まれる重さ、深さ、感情の動きまで含めた色でした。『黒』は人の心や知覚と強く結びつき、見る人の状態によって印象が変わる色だと捉えられていたのです。
同じ『黒』でありながら、
光を測る科学の視点と
感じ取る人間の視点では、意味が大きく変わります。
この二つの考え方が並べて語られることで、『黒』は単なる暗い色ではなく、物理と感覚の境界にある色だということが浮かび上がります。番組では、この対比こそが、現在の色彩科学や知覚研究へとつながる重要な出発点であることが示されていきます。
イカ墨はただの黒じゃない 自然界のディスプレイ
自然界にある『黒』の代表例として番組で取り上げられるのが、イカ墨です。
これまでイカ墨は、敵に襲われたときに視界を遮り、身を守るための防御手段として知られてきました。
しかし、長年にわたる観察研究によって、その役割はそれだけではない可能性が見えてきます。
イカ墨の『黒』は、敵から逃げるためだけでなく、仲間に向けたサインとして使われている場面が確認されてきました。特に注目されるのが、求愛行動の中で見せるイカのふるまいです。
体の表面にある色素胞を使い、瞬時に模様や色を変えられるイカにとって、『黒』は単に周囲に溶け込む色ではありません。
あえて強い『黒』を見せることで、相手の視線を引きつけ、存在を際立たせる色として機能していると考えられています。明るい色と組み合わせることで、黒はよりコントラストを生み、相手に強い印象を残します。
この例から分かるのは、『黒』が隠すための色であると同時に、伝えるための色でもあるということです。
言葉を持たない海の生き物たちは、色そのものを使って情報をやり取りしています。イカ墨の『黒』は、自然界において色がどれほど重要な役割を果たしているかを、静かに示してくれます。
漆器の美しさを支える『黒漆』の科学
日本の伝統工芸に欠かせない存在として、番組で大きく取り上げられるのが『黒漆』です。
一見するとただ黒いだけに見える漆器ですが、近くで見ると、奥行きのある深い光沢を放っていることに気づきます。この不思議な美しさこそが、長年多くの職人や研究者を魅了してきました。
その鍵を握るのが、漆の主成分である『ウルシオール』です。
『ウルシオール』はおよそ100年前に存在が知られましたが、なぜ漆を塗り重ねることで、あれほど均一で深みのある『漆黒』が生まれるのか、その仕組みは長い間分かっていませんでした。単に黒い顔料を使っているわけではなく、光の反射や吸収のしかたが独特だったからです。
最新の分析技術によって、漆の表面で起きている現象が少しずつ明らかになってきました。
漆が固まる過程で生まれる非常に細かな構造が、光を乱反射させ、余分な反射を抑えています。その結果、『黒』でありながら、鈍く沈まず、内側からにじむような輝きが生まれていることが分かってきました。
この研究によって、『漆黒』は単なる色ではなく、光と物質がつくり出す現象であることが示されます。
長い歴史の中で職人が感覚的につくり上げてきた美しさが、現代科学によって説明されていく過程は、日本の伝統と最先端研究が重なり合う瞬間でもあります。
光をほぼ逃がさない『暗黒シート』最先端研究
現代科学が生み出した究極の『黒』として番組で紹介されるのが、『暗黒シート』です。
これは、産業技術総合研究所が開発した最先端素材で、これまでの常識をくつがえす性能を持っています。
最大の特徴は、光の吸収率が99.98%に達している点です。
目に見える光のほとんどを吸収し、反射をほぼ完全に抑えます。人の目には、そこに“奥行き”すら感じられないほど、極限まで黒い黒として映ります。
この性能を支えているのが、シート表面に作られた微細な構造です。
表面は一見なめらかに見えますが、実際には光が入り込む無数の凹凸があり、入射した光は内部で何度も反射を繰り返します。その結果、外に戻ることができず、光が内部に閉じ込められる状態が生まれます。黒い色を「塗っている」のではなく、光を逃がさない仕組みそのものが作られているのです。
この『暗黒シート』は、見た目のインパクトだけでなく、実用面でも大きな意味を持ちます。
宇宙観測では、わずかな反射光が観測の精度を左右します。精密機器の内部でも、不要な反射は測定誤差の原因になります。そうした場面で、この究極の黒は、正確なデータを得るための重要な役割を果たします。
番組では、『黒』がもはや色の話にとどまらず、未来の科学技術を支える機能的な存在へと進化していることが示されます。
暗さの中に価値を見いだし、光を制御するために生まれた『暗黒シート』は、現代科学がたどり着いた『黒』のひとつの到達点といえます。
まとめ 『黒』は終点ではなく始まりの色
『黒』は光がない色ではありますが、同時に多くの情報と可能性を秘めた色でもあります。自然、文化、科学のすべてをつなぐ存在として、『黒』は今も研究され続けています。
放送を見終えたとき、『黒』を見る目が少し変わっているはずです。
【サイエンスZERO】“生殖”のミステリー!生き物の根源に挑む|生殖・生命の起源・ミジンコ生殖・オスから卵子|2025年12月28日
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