噛むことが、人生を支えている
このページでは『クローズアップ現代(2026年1月14日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
噛む力は、ただ食べるためのものではありません。元気に話すこと、しっかり食べること、自分の足で生きること。そのすべての土台にあります。高齢者の健康から、子どもの成長まで、静かに進む「噛めなくなる社会」。番組は、私たちの毎日の食卓と体に、いま何が起きているのかを問いかけました。
噛む力が注目される理由
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番組が真正面から問いかけたのは、「口は食べるためだけの器官ではない」という事実です。
噛む力は、食べ物を細かくして飲み込みやすくする働きにとどまりません。何を食べられるか、どんな栄養を選べるか、食事にどれくらい時間をかけられるか。その積み重ねが、体力や集中力、日々の生活の自立度を静かに左右します。
番組では、高齢者の要介護リスクや寿命との関係、働き盛り世代のストレス耐性、さらには子どもの発達や肥満との関連まで、噛む力が幅広い健康指標と結びついていることが示されました。
噛めなくなることは、年齢の問題ではなく、人生全体に影を落とす変化として描かれています。
ここで強調されたのは、「歯が何本あるか」だけでは健康は守れない、という現実です。
歯や入れ歯という道具がそろっていても、口を十分に使えていなければ、食べ方は偏り、噛まない食事が当たり前になります。その結果、栄養の質が変わり、体の調子や気力にまで影響が及びます。
噛む力の低下は、静かで気づきにくいからこそ厄介です。
しかし番組は、その小さな衰えこそが、心と体のバランスを崩す入口になっていると、断定的に示しました。噛むことは習慣であり、習慣は人生を形づくる。その事実が、重く、はっきりと浮かび上がります。
介護施設で進む「口を鍛える」習慣化
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番組で象徴的に描かれたのが、奈良・大和郡山の介護施設で続けられている「口を鍛える」取り組みです。
毎食前に、大きな声で歌う、はっきりと発音するなど、口まわりをしっかり動かす時間を設け、そのまま食事に入ります。特別な器具や難しい動作はなく、「口を使う準備」をしてから食べる流れが自然に組み込まれています。
この方法が力を持つ理由は、訓練を“イベント”にしていない点です。
口を鍛えることを特別なリハビリにせず、毎食前の当たり前の行動として定着させることで、口の動きが生活の一部になります。その結果、噛む・飲み込む・話すといった動作が、少しずつ底上げされていきます。
さらに施設では、食事そのものにも工夫が加えられています。
ただ柔らかくするのではなく、「噛む場面」を意識的に残す献立にすることで、口の運動と食形態が分断されません。噛む力を使うからこそ、口は機能を保ち続けるという考え方が、現場で実践されています。
高齢期の口の衰えは、突然ひとつの症状として現れるわけではありません。
むせやすさ、滑舌の低下、口の乾燥、噛みにくさなど、小さな変化が重なり合って進んでいきます。番組が示したように、これらはやがて食べる力の低下につながり、全身のフレイルにも影響を及ぼします。
だからこそ重要なのは、「弱ってから対応する」のではなく、日常の中で口を使い続けることです。
口を鍛える習慣化は、介護の現場だけでなく、これからの高齢期を支える新しい生活設計として、はっきりとした意味を持っています。
8020運動の次の課題は「使える口」
番組のスタジオでは、照山裕子さんが8020運動に触れながら、はっきりとした転換点を示しました。
「歯や入れ歯という道具がそろっていても、使えていなければ体の健康は保てない」。番組は、これまでの常識を更新する段階に入ったと断定的に伝えています。
8020運動は、1989年に国と日本歯科医師会が提唱した、「80歳で20本以上の歯を保つ」ことを目標にした国民運動です。
この取り組みによって、歯の本数を守る意識は社会に定着しました。しかし番組が突きつけたのは、その先に残された課題です。
歯が何本残っているかだけでは、食べ方の偏りや口の機能低下を止めきれない場面が増えています。
噛む、飲み込む、話す、唾液を出す、舌や唇を自在に動かす。こうした“機能”に目を向けた瞬間、高齢者の口の問題は、抽象論ではなく具体的な生活課題として浮かび上がります。
実際、国の資料や歯科分野のマニュアルでも、口腔機能の低下が低栄養やフレイルの進行と深く関わり、専門的な関与が必要な状態として整理されています。
番組が示したのは、歯を「守る」時代から、口を「使い続ける」時代への移行です。
8020運動の成果を無駄にしないためにも、次に問われるのは本数ではありません。
その歯と口で、きちんと噛み、食べ、話せているのか。そこにこそ、これからの健康の分かれ道があると、番組は明確に示しました。
子どもの口に起きている変化
番組は高齢者の問題だけで終わらず、いま子どもたちの口に何が起きているのかを真正面から取り上げました。
山口・周南の幼稚園では、子どもたちの噛む力が年々弱くなっているという実感が語られ、その背景として明確に示されたのが「噛む回数の減少」です。
番組で紹介された数字は象徴的です。
現代人が1回の食事で噛む回数は約620回。戦前と比べると半分以下にまで減っています。食事時間も短くなり、「戦前は22分で約1420回、現代は11分で約620回」という対比が示されました。
よく噛んでゆっくり食べるという行為が、日常から静かに消えている現実が浮き彫りになります。
噛む回数が減ることで、口の中では確実に変化が起きます。
顎を十分に使わなくなり、唇や舌を細かく動かす機会も減ります。すると、噛む・飲み込む・話すといった口の機能の獲得が進みにくくなります。
その影響は、食べ方だけにとどまりません。姿勢の崩れ、口呼吸、歯並びの乱れなど、別の問題として次々に表面化していきます。
こうした状態について、国は口腔機能発達不全症という概念で整理しています。
子どもの段階で「食べる」「話す」といった基本的な機能の習得がうまくいっていない状態を指し、健診などでの早期相談が重要だと位置づけられています。番組は、これは一部の特殊なケースではなく、身近な生活習慣の延長線上にある問題だと断定的に伝えました。
実際に番組では、大阪・吹田の歯科医院で、歯列矯正を受ける子どもが増えている事例にも触れられています。
歯並びの問題として表に出てくる前段階に、「噛まない」「噛めない」生活がある。その構図が、静かですがはっきりと示されました。
子どもの口の変化は、成長の個人差では片づけられません。
噛む力を使わない生活が当たり前になった結果として、口の発達そのものが置き去りにされている。番組は、その現実を強い言葉で突きつけています。
口腔機能発達不全症と推計患者数
番組の中で、ひときわ重く提示された数字があります。
それが、口腔機能発達不全症の子どもが推計で約180万人にのぼるという事実です。これは一部の例外的なケースではなく、社会全体に広がる規模の問題であることを、番組は断定的に示しました。
ここで見誤ってはいけないのは、「特別な症状を持つ子どもだけの話」にしないことです。
推計数がこれほど大きいということは、子ども側の問題というより、日常の食環境や生活習慣そのものが、口の発達に合わなくなっている場面が増えている、と読み取れます。
番組では、その要因のひとつとして、「噛まなくても食べられるものが好まれる」現代の食環境が挙げられました。
やわらかい、早く食べられる、手軽に済む。そうした便利さが重なるほど、子どもは噛む機会を失い、口を使って育つ時間が削られていきます。
重要なのは、口腔機能発達不全症が歯や顎だけの問題ではない点です。
噛む、飲み込む、話すといった基本的な動きは、食べ方、姿勢、呼吸、集中力にも連動します。口の発達が置き去りになると、その影響は生活全体に静かに広がっていきます。
だからこそ番組は、対策を歯科だけに任せる発想をはっきり否定しました。
食卓で「噛む場面を残す」こと、食事中にスマホやテレビに気を取られないこと、姿勢を整えて食べること。こうした生活側の設計そのものが、最大の予防策になります。
口腔機能発達不全症は、気づいたときにはすでに進んでいるケースが少なくありません。
しかし番組が示したように、それは突然現れる異変ではなく、毎日の積み重ねの結果です。口をどう使って生きているか。その問いが、子どもの将来を静かに左右していると、番組は強く訴えました。
今日からできる「噛む」底上げ習慣
番組は、「噛む力」を取り戻す方法を、特別な訓練ではなく生活の中に戻していく方向で示しました。
重要なのは、頑張らないことです。毎日続けられる形に落とし込めなければ、噛む力は積み上がりません。だからこそ番組では、グミやガムといった身近な食品を使う方法など、手軽さを重視したアプローチが紹介されました。
日常で意識する軸は、はっきりと3つに整理できます。
まず、食べる前に口を動かすことです。食前に声を出す、口を大きく動かす体操をするだけで、口の筋肉にスイッチが入り、噛む準備が整います。いきなり食べ始めるより、噛む動作が自然に出やすくなります。
次に、献立の中に「噛む担当」を残すことです。
すべてをやわらかくする必要はありません。少量でも噛みごたえのある食材を混ぜることで、口は使われ続けます。噛む場面をゼロにしないことが、噛む力を守る分かれ道になります。
そして、食べるスピードを落とすことです。
よく噛むことで満腹のサインが入りやすくなり、食べすぎも防げます。これは昔から言われてきた食育の基本ですが、番組はあらためて、その意味を強調しました。速さは便利でも、口の機能を削ってしまうからです。
高齢者にとっては、オーラルフレイルという考え方が大きな指標になります。
口の小さな衰えが重なり、噛む・飲み込む・話す力が落ちていくと、やがて全身のフレイルにつながります。だからこそ、口の変化に早く気づき、日常の中で使い続けることが欠かせません。
子どもの場合は、「噛ませる」より前に、「噛む機会を奪わない」ことが現実的です。
やわらかい、早い、ながら食べが重なると、口は使われなくなります。番組で紹介された“噛み噛みリズム体操”のように、遊びの延長で口を動かす導線をつくることで、噛むことが自然な行動として定着します。
噛むことは、努力ではなく習慣です。
番組が示したのは、噛む力を取り戻す近道ではありません。毎日の食卓と生活の中で、口を使い続けること。その積み重ねこそが、年齢を問わず心身を支える確かな土台になると、断定的に伝えました。
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