発酵で整う、一汁一菜の食卓
このページでは『小雪と発酵おばあちゃん 土井善晴さんと“発酵”一汁一菜(2026年2月19日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
料理研究家の土井善晴さんが語る一汁一菜の考え方と、小雪さんが出会ってきた各地の発酵食。奄美大島のなり味噌や、京都・一休寺の塩辛納豆など、素朴なのに力強い味わいが登場します。毎日のご飯が、少しやさしく感じられる30分です。
土井善晴さんがうなった、発酵の「一汁一菜」再発見
番組の芯にあるのは、土井善晴が提案してきた一汁一菜という考え方です。
一汁一菜とは、かんたんに言うと
「ご飯を真ん中に、汁ものが一つ、菜(おかず)が一つ」
この組み合わせで、ごく普通のご飯をきちんと整えましょう、という提案です。
ただし土井さんは、「形に縛られすぎなくていい」とも話します。具だくさんのみそ汁があれば、それ一つで汁と菜をかねた一皿になる。そこにご飯と、もしあれば漬物。
それだけで立派な食事だ、と番組の中でも繰り返し語られていました。
みそや漬物はどちらも発酵食品です。
こうじ菌や酵母、乳酸菌といった微生物が、ゆっくりと糖やたんぱく質を分解し、うま味や香りを作ってくれます。発酵の力が重なることで、品数が多くなくても、味わいの深さと満足感がぐっと増すのです。
「がんばりすぎない。続けられる形で台所を回す」という、土井さんらしい視点が、発酵食の映像とともに、静かに心に残るパートでした。
奄美大島の発酵食・なり味噌とは?ソテツが守ってきた島の知恵
続いて番組で大きく取り上げられたのが、奄美大島などに伝わる発酵調味料、なり味噌です。
「なり」とは、南の地域で育つ木ソテツの実のこと。
この実を砕き、水にさらして毒を抜き、乾燥させてでんぷん質の粉にしたものに、こうじと大豆、塩などを合わせて発酵させて作るのがなり味噌です。
昔の奄美地方では、ソテツは「飢えをしのぐ命の木」とも言われ、作物のとれにくい土地で人々を支えてきました。ソテツの実や幹に含まれるでんぷんを、無毒化して食べられるようにするには、多くの経験と時間が必要です。
なり味噌には、そうした「生きのびるための知恵」がぎゅっと詰まっています。
番組では、奄美の家庭でなり味噌を使った具だくさんのみそ汁を作る様子が映し出されました。
土井さんも一口食べて、「こんな味は知らなかった」と驚くほど。ソテツ由来の香ばしさと、こうじ味噌とはまた違うコクが、ご飯の甘みを引き立てていました。
なり味噌の具だくさんみそ汁で味わう「一椀で成立する一汁一菜」
なり味噌を使ったみそ汁は、この回のハイライトです。
番組では、根菜や季節の野菜をたっぷり入れた具だくさんのみそ汁が登場しました。具を噛むたびに、野菜の甘さとだしのうま味、そしてなり味噌の深い味が重なり、「一椀でじゅうぶん」と思える満足感が伝わってきます。
ここでは、番組の流れと、なり味噌の特徴を参考にした「家庭で作りやすい一例」として、なり味噌の具だくさんみそ汁のレシピを載せておきます(分量は番組公式ではなく、家庭用の目安です)。
【なり味噌の具だくさんみそ汁(2〜3人分の参考レシピ)】
材料
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なり味噌 大さじ2(なり味噌が無い場合は、なり味噌大さじ1+好みの麦みそや米みそ大さじ1でも)
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水 600ミリリットル
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だし用昆布 5センチ角1枚
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お好みの根菜(大根・にんじんなど) 合わせて150グラム程度
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たまねぎ 1/4個
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じゃがいも 1個
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豚こま切れ肉 50〜70グラム(魚や島の魚介を使ってもよい)
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ねぎ 少々
作り方
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昆布と水を鍋に入れ、10〜15分ほどおいてから弱火にかける。沸騰前に昆布を取り出す。
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根菜とじゃがいもは食べやすい薄切りかいちょう切り、たまねぎは薄切りにする。
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昆布だしの鍋に豚肉と野菜を入れ、中火でコトコト煮る。アクが出たらすくう。
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具に火が通ったら火を弱め、なり味噌をおたまの中で溶きながら加える。
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ふつふつと沸く手前で火を止め、最後に刻んだねぎを散らす。
なり味噌自体にうま味と塩分がしっかりあるので、ほかのおかずがなくても、ご飯とこの汁ものだけで「一汁一菜」が成立します。
発酵の力と野菜の甘さが合わさることで、品数よりも「満足感の質」が大事なのだと、自然に気づかせてくれる一椀です。
京都・酬恩庵(一休寺)の塩辛納豆 一休寺納豆おにぎりのうま味
もう一つの大きな柱が、京都府京田辺市にある禅寺酬恩庵(一休寺)に伝わる一休寺納豆(塩辛納豆)です。
一休寺納豆は、いわゆる「糸を引く納豆」とはまったく別物。
大豆をこうじや塩で長く発酵・熟成させたもので、表面は黒褐色、味は強い塩気と濃厚なうま味が特徴の発酵食品です。寺で作られるため「寺納豆」、また塩辛さから「塩辛納豆」「唐納豆」とも呼ばれてきました。
番組では、この一休寺納豆を細かく刻み、炊きたてのご飯に混ぜ込んでおにぎりにする場面が映し出されます。
米の甘み、塩辛納豆の深いうま味、口の中でほろっとほどける食感。おかずが並んでいなくても、「これ一つで十分ごちそう」と感じられる、力強い味わいでした。
一休寺納豆は、もともと修行僧たちの貴重なたんぱく源であり、保存食でもありました。
奈良時代に唐から伝わった豆豉の流れをくむとされ、のちに一休宗純禅師らが京の寺々で改良を重ねてきた、と紹介する資料もあります。
何百年も続く発酵食が、いまも台所で生きている——番組は、その歴史の重みと、日々のおにぎりの素朴さを、同じ画面の中にそっと並べて見せていました。
塩辛納豆とふつうの納豆の違い 発酵の仕組みと歴史をやさしく解説
ここで、番組の流れに合わせて、塩辛納豆とふだん食卓に並ぶ糸引き納豆の違いを、やさしく整理しておきます。
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糸引き納豆
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納豆菌(枯草菌の仲間)で発酵
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豆の表面に白い膜ができ、ねばねばと糸を引く
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比較的短い期間で発酵が進む
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塩辛納豆・寺納豆
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主にこうじ菌や酵母、乳酸菌などで発酵
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糸は引かず、表面は乾いた感じで黒っぽい
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塩分濃度が高く、長期保存向き
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うま味が凝縮されているので、調味料として少量使うことも多い
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歴史的には、塩辛納豆のような寺納豆の方が古く、後から糸引き納豆が広まったと考えられています。寺で作られてきた背景には、「肉や魚を食べないかわりに、大豆からしっかり栄養をとる」という、精進料理の考え方もありました。
番組では細かい化学的な説明まではしていませんが、「同じ大豆でも、発酵のさせ方でこんなに姿が変わる」という発見が、一休寺の静かな風景とともに伝わってきます。
子どもと一緒に見ると、「納豆って一つじゃないんだ」と、ちょっとした自由研究のきっかけにもなりそうです。
【一休寺納豆おにぎりの作り方(家庭用の参考レシピ)】
材料(2〜3個分)
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炊きたてのご飯 約300グラム
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一休寺納豆(または好みの塩辛納豆) 大さじ1〜1と1/2
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好みで白ごま 小さじ1
作り方
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一休寺納豆が大きい場合は粗く刻む。
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温かいご飯に納豆と白ごまを加え、さっと混ぜる。
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手を水でぬらし、三角や丸など好きな形ににぎる。
塩分が強いので、ほかにおかずが少ないお弁当の日にもぴったりです。少しだけ添えた漬物と組み合わせれば、それだけで立派な一汁一菜のメインになりますね。
土井さん流・簡単お粥の作り方 胃腸と心を休めるやさしい一杯
番組の後半では、土井さん流の「簡単お粥」の炊き方も紹介されました。
お粥は、米と水さえあればできる、とても静かな料理です。
でも、土井さんは「静かな料理だからこそ、ちゃんとおいしく作ってあげたい」と話します。
一汁一菜の延長線上にあるのが、このお粥。
胃腸が疲れている日、気持ちが落ち着かない日、「今日はこれくらいでいい」という着地地点として、お粥がそっと用意されているイメージです。
ここでは、土井さんの考え方や、これまで紹介してきたお粥レシピを参考にした「基本のお粥」の作り方を、家庭用としてまとめます。分量は一般的な目安です。
【基本の白がゆ(2人分の参考レシピ)】
材料
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米 1/2合(約75グラム)
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水 約600〜700ミリリットル(米の8〜10倍を目安に、好みで調整)
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塩 ひとつまみ(仕上げ用)
作り方
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米はさっと洗い、水けを切る。
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厚手の鍋に米と水を入れ、ふたをして中火にかける。
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沸いてきたら一度底から大きく混ぜ、ふたを少しずらして弱火にし、コトコト30〜40分炊く。
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時々鍋底をこそげるように混ぜ、焦げ付きを防ぐ。
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米の芯がなくなり、とろりとしてきたら火を止める。
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器に盛り、塩ひとつまみを添えるか、ごく少量を全体に混ぜる。
お粥は、固さを自分の体調に合わせて変えられるのも、うれしいポイントです。
さらっと食べたい日は水を多めに、もう少し食べ応えがほしい日は水を少なめにしてみると、自分のからだにちょうどいい一杯が見つかります。
消化しやすく水分もいっしょにとれるため、体調がゆらぐときに向く料理とされていますが、体質によって合う・合わないがあるので、無理のない範囲で楽しみたいですね。
発酵食が教えてくれる「がんばりすぎない」暮らし方
今回の『小雪と発酵おばあちゃん 選 土井善晴さんと“発酵”一汁一菜』は、派手なごちそうの番組ではありません。
登場するのは、奄美大島のなり味噌、京都の一休寺納豆(塩辛納豆)、具だくさんのみそ汁やお粥といった、素朴な料理ばかり。
けれど、その一つひとつの背景には、土地の暮らし、歴史、そして目に見えない発酵の力が息づいています。
土井善晴の一汁一菜の考え方は、
「もっとがんばって料理しなさい」というメッセージではなく、
「がんばりすぎなくていい。そのかわり続けられる形を、一緒に考えましょう」
という、台所に立つ人へのエールのように聞こえます。
ご飯とみそ汁、漬物、なり味噌のみそ汁、一休寺納豆のおにぎり、お粥。
どれも、特別な日だけでなく、ふつうの日にこそ寄り添ってくれる料理です。
発酵食の知恵と、一汁一菜のシンプルさ。
この二つが重なることで、「今日のご飯はこれでいい」と、肩の力をそっと抜いてくれる——そんな優しい30分を、そのまま食卓に持ち帰れるような回でした。
NHK【きょうの料理】土井善晴のふつうにおいしいもん|山芋たっぷり秋のお好み焼きレシピとあぶらげ納豆|2025年10月1日
土井善晴さんという存在
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(画像元:土井善晴 – Wikipedia)
番組に登場した料理研究家の土井善晴さんについて、ここであらためて整理して紹介します。一汁一菜という考え方を広めた人物として知られますが、その歩みや背景を知ると、番組で語られる言葉の重みがよりはっきり見えてきます。料理を「特別なもの」ではなく「毎日の営み」として見つめ続けてきた姿勢こそが、土井善晴さんの軸です。
料理人としての歩み
土井善晴さんは1957年、大阪府生まれです。父は料理研究家の土井勝さんで、家庭料理の世界で名を知られた存在でした。その環境の中で育ち、大学卒業後はスイスやフランスで西洋料理を学びます。帰国後は大阪の日本料理店「味吉兆」で修業を重ね、日本料理の技術と精神を体で身につけました。その後独立し、「おいしいもの研究所」を設立。家庭料理の本質を探り続けています。
広がった一汁一菜の提案
土井善晴さんの名前を広く知らしめたのが、一汁一菜でよいという提案です。ご飯と具だくさんのみそ汁、そこに一品あれば十分という考え方は、忙しい現代の暮らしの中で大きな共感を呼びました。NHK「きょうの料理」やテレビ朝日「おかずのクッキング」など、長年にわたり料理番組で講師を務め、家庭の台所に寄り添う発信を続けてきました。2022年度にはその功績が評価され、文化庁長官表彰を受けています。
代表作『一汁一菜でよいという提案』
代表作のひとつが『一汁一菜でよいという提案』です。この本では、料理の数を増やすことよりも、食事の土台を整えることの大切さが語られています。みそ汁を中心に据えることで、自然と栄養のバランスがとれ、無理なく続けられる食卓が生まれるという考え方です。多くの読者に支持され、家庭料理を見つめ直すきっかけを与えた一冊として知られています。
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