石川・能登の冬が育てた大根ずしの世界
能登半島の冬は厳しく、静かです。その寒さの中で生まれ、長く受け継がれてきたのが『大根ずし』という発酵食です。小雪さんが訪ねるのは、観光地ではなく、日々の暮らしの中で発酵と向き合ってきた台所。この番組では、特別な人だけの料理ではなく、「手間はかかるけれど、家庭でも目指せる発酵」が描かれます。
石川・能登に伝わる発酵食「大根ずし」とは
大根ずしは、石川県、とくに能登地方で冬になると仕込まれてきた郷土の発酵食です。名前に「ずし」とつきますが、酢飯は使いません。主役は大根と身欠きにしん、そして甘酒や米麹です。寒い時期に仕込み、乳酸発酵の力でゆっくり味を育てていきます。
大根の水分と甘酒の甘み、身欠きにしんのうま味が合わさり、強すぎない酸味が生まれるのが特徴です。ごはんのおかずとしてだけでなく、冬の保存食、正月の一品としても大切にされてきました。
今回は「いける」発酵 家庭でも目指せる理由
この番組では、長い年月が必要だったり、特別な環境が必要だったりする発酵食が登場することもあります。しかし、今回の大根ずしは違います。仕込みから完成までの目安はおよそ2週間。材料も特別なものではありません。
冬大根、身欠きにしん、甘酒、昆布など、どれも手に入りやすいものばかりです。能登の冬の寒さは、家庭の冷えた場所でも再現しやすく、発酵が暴れにくい環境を作ります。「大変だけど無理ではない」という感覚が、この回の大きなポイントです。
身欠きにしんの下処理に込められた知恵
大根ずし作りで一番手間がかかるのが、身欠きにしんの下処理です。乾燥したにしんは、そのまま使うのではなく、時間をかけて戻します。
米のとぎ汁に浸して臭みをやわらげ、身をふっくらさせる作業は、見た目以上に根気が必要です。ただ、この工程を丁寧に行うことで、魚のうま味が引き出され、発酵した大根や甘酒と自然に溶け合います。干物を無駄なく使い、保存し、味に変えていく。この下処理には、能登の暮らしの知恵が詰まっています。
小雪さんが見つめる能登の暮らしと台所
小雪さんが番組で向き合うのは、作り方だけではありません。雪深い能登の冬、静かな台所、淡々と続く仕込みの時間。そこには、特別な言葉はなくても、暮らしのリズムがあります。
発酵おばあちゃんの手の動きや、道具の使い方、間の取り方から伝わってくるのは、急がず、無理をしない姿勢です。発酵は待つもの、見守るもの。その考え方が、台所全体の空気として映し出されます。
冬の保存食として受け継がれてきた大根ずしの魅力
雪に閉ざされる冬、能登では新鮮な野菜や魚がいつでも手に入るわけではありませんでした。大根ずしは、そんな冬を乗り切るための保存食として生まれました。
発酵によって味に奥行きが生まれ、大根の歯切れの良さと身欠きにしんのコクが合わさります。家庭ごとに配合や切り方が違い、「同じ大根ずしは二つとない」と言われるほどです。その違いも含めて、地域の味として大切にされてきました。
仮の大根ずしレシピ(放送前時点)
※放送前のため、番組で紹介される内容とは異なる場合があります。あくまで漠然としたイメージとしてのレシピです。
材料
・大根
・身欠きにしん
・甘酒
・米麹
・昆布
・にんじん
作り方
・大根は皮をむき、食べやすい大きさに切る
・身欠きにしんは時間をかけて戻し、下処理をする
・容器に大根、にんじん、にしん、昆布を重ねる
・甘酒と米麹を全体に行き渡らせる
・重しをして寒い場所で寝かせる
・途中で様子を見ながら、2週間ほど発酵させる
まとめ
『大根ずし』は、派手な料理ではありません。しかし、能登の冬と暮らしの知恵が詰まった発酵食です。NHK教育で放送される『小雪と発酵おばあちゃん 選 石川 大根ずし』は、作り方以上に、発酵とともに生きてきた人の時間を映し出します。放送後には、より具体的な工程や味の話が見えてくるはずです。
Eテレ【小雪と発酵おばあちゃん】宮崎・椎葉村“秘境グルメ”しその千枚漬けとヒエズーシー 山が育てた発酵の奇跡と人の知恵|2025年10月23日
能登の冬と「低温発酵」が相性抜群な理由

ここでは、番組を見て気づいた視点として、能登の冬と低温発酵の関係について紹介します。大根ずしが能登で育まれてきた背景には、寒さそのものを味方につける知恵があります。この考え方は、特別な設備がなくても、家庭の冷蔵庫や寒い廊下などを使って応用できます。発酵は温かい場所だけで進むものではなく、ゆっくり進む低温こそが、味を整える時間になるという点が大きなポイントです。
能登の冬が発酵に向いている理由
能登の冬は気温が低く、長い期間安定しています。この環境では、乳酸菌などの微生物が一気に活発にならず、静かに、時間をかけて発酵が進みます。急激な変化が起きにくいため、酸味が強くなりすぎたり、雑味が出たりしにくいのが特徴です。大根ずしのやさしい酸味と、素材の味がはっきり感じられるのは、この低温環境があってこそ生まれるものです。
家庭で再現できる低温発酵の場所
能登の自然をそのまま用意することはできなくても、家庭には似た環境があります。冬場の北向きの廊下、玄関近く、暖房の入らない部屋などは、低温発酵に向いた場所です。また、冷蔵庫の中でもチルド室や野菜室は、発酵を止めずにゆっくり進める環境になります。常温で置くよりも変化が穏やかになり、失敗しにくい発酵につながります。
ゆっくり進む発酵が生む味の深さ
低温発酵の一番の魅力は、時間が味を整えてくれることです。発酵がゆっくり進むことで、素材それぞれの味がなじみ、角が取れていきます。大根の辛みはやわらぎ、身欠きにしんのうま味は広がり、甘酒の甘さは前に出すぎません。待つ時間そのものが調味料になるという感覚は、能登の発酵文化を理解する大切なポイントです。急がず、寒さに任せることで、家庭でも落ち着いた味わいに近づけます。
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