能登に息づく発酵の記憶と未来
このページでは『小雪と発酵おばあちゃん 斎藤工と能登へ いしり(2026年1月22日)』の内容を分かりやすくまとめています。
能登の静かな集落で受け継がれてきたのは、イカの内臓を発酵させて生まれるいしりという、土地の時間そのもののような調味料です。強い香りの奥にあるのは、海と人の暮らしが重なってきた歴史でした。
復興支援をきっかけに能登へ通う斎藤工さん、発酵の知恵に寄り添う小雪さん。伝統を守る生産者、料理で伝えるおばあちゃん、未来へつなごうとする高校生たち。いしりを軸に、人と土地がもう一度結び直されていく姿が描かれます。
いしりとは何か
いしりは、イカの内臓を塩で仕込み、長い時間をかけて発酵させて生まれる、能登だけに根づいた魚醤です。海の恵みを余すことなく生かすために生まれたこの調味料は、偶然ではなく、暮らしの中で必然として育ってきました。
イカを加工する過程で出る内臓を捨てず、発酵という力に委ねる。そこには「無駄にしない」という先人の強い意志があります。独特の香りと、舌に残る深い旨みは、短期間では決して生まれません。時間そのものが味を作り上げます。
魚醤としてのいしりは、塩が腐敗を防ぎ、自然にタンパク質が分解されることで液体へと変わっていきます。人ができるのは、見守ることだけです。だからこそいしりは、能登の風土と人の営みが一体となって生まれた、発酵の結晶だと言い切れます。
奥能登で育った発酵の理由
いしりが能登で生まれ、能登で守られてきたのには、はっきりした理由があります。材料がイカの内臓と塩だけという極めてシンプルな作り方だからこそ、味を決めるのは土地そのものです。奥能登の寒暖差のある気候、湿度や降水量のリズムが、発酵に最適な時間を与えてきました。
能登町の説明では、いしりには遊離アミノ酸が豊富に含まれ、タウリンやペプチドといった成分も確認されています。そのため、ただ塩辛いだけの調味料では終わりません。少量で料理全体の旨みを底上げし、日々の食卓を支えてきました。
真イカの内臓を使ういしりが能登町で作られていることが強調されるのも偶然ではありません。発酵の進み方も、香りの立ち方も、この土地でしか成立しない。いしりは調味料であると同時に、奥能登という地域そのものを映す味なのです。
震災後も作り続ける生産者の現場
地震によって日常が断ち切られても、いしり作りは終わりませんでした。今回の回では、被害を受けながらも生産を再開しようとするいしり生産者の姿が軸として描かれます。伝統を守るとは、過去を語ることではなく、今日もう一度仕込むことだと示されます。
能登半島地震のあと、貯蔵施設や水・電気といった周辺インフラが止まり、先の見えない状況に置かれた現場も少なくありません。特にいしりのように、時間そのものが価値になる発酵食品は、一度止まると取り戻すまでに何年もかかります。その重さを、生産者は真正面から受け止めました。
それでも倒壊した設備から原料を救い出し、補修を重ね、再び仕込みに向かう動きがありました。番組が描く「再開」は気合い論ではありません。積み上げられた作業と判断の連続です。復興支援で能登に通ううち、斎藤工さんがいしりの魅力に引き込まれていったという流れも、作り手の現場に視線を重ねる確かな導線になっています。
いしりを料理で広げる“おばあちゃん”たち
番組に登場するおばあちゃんたちは、いしりを守る人ではなく、使い続ける人として描かれます。伝統は棚にしまっておくだけでは残りません。毎日の料理に使われ、人の口に運ばれてこそ、生きた文化になります。
いしりは鍋や煮物の隠し味にとどまらず、魚介の香りと旨みを一気に引き出す力を持っています。貝焼きのような郷土料理の中でも、その存在は料理全体の芯になります。少量で味が決まり、家庭の台所を確実に支えてきました。
さらに乳製品と合わせてコクを深めるなど、柔軟な使い方も語られます。古い調味料でありながら、新しい表現を拒まない。その懐の深さが、いしりの強さです。おばあちゃんたちはレシピを教える人ではありません。土地の味を、次の誰かに手渡せる形へと変える、確かな発信者として立っています。
高校生が受け継ぐ継承のかたち
番組では、いしりを受け継ぐ存在として高校生たちが登場します。ここで描かれる継承は、家業をそのまま引き継ぐ話ではありません。学びの中で地域の食と向き合い、自分たちの言葉で価値を伝えていく、新しい関わり方です。
実際に、地域食材としていしりを題材にし、アイデアや背景を整理して発信する高校生の取り組みは公的資料でも紹介されています。いしりを“だし”の核として捉え、別の地域の食材と組み合わせ、食の可能性を再設計する。その視点は、伝統を未来へ押し出します。
次世代の継承は、工房の中で完結しません。料理として組み直し、言葉にして届け、誰かが手に取り、使うところまでを考える。だからこそ番組は高校生を映します。いしりが過去の遺産ではなく、これからも選ばれ続ける調味料であることを、はっきり示しているのです。
【小雪と発酵おばあちゃん】石川 大根ずしが「家庭でもいける」理由|身欠きにしん下処理と能登の冬発酵|2025年12月18日
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