震災遺児の15年
東日本大震災から15年がたち、この日の「クローズアップ現代」は、被災地の風景そのものではなく、震災遺児として生きてきた子どもたちの時間に静かに光を当てました。卒業、就職、結婚、出産。人生が前に進むたびに、大切な人がもういない現実に向き合わされる。その重さは、年月だけでは消えません。番組では、親を失った子どもたちが大人になった今も、語り合える場を必要としていること、そして心のケアを社会がどう支え続けるかが問われました。支援は「その時だけ」で終わらない。そんな大事な事実が、ひとつひとつ丁寧に伝わる内容でした。
1810人の子どもたちが抱えてきたもの
番組が伝えたのは、東日本大震災で親を失い、遺児・孤児になった子どもが1810人にのぼるという現実です。そして15年がたった今、その約8割が成人しました。数字だけを見ると時間は過ぎたように見えますが、その中身はとても重いものでした。
子どもの頃は周囲の支えの中で日々を過ごしていても、大人になるにつれて「もう守られる側ではいられない」という空気に包まれます。それでも、心の中ではあの日が終わっていない。番組は、年月の長さと心の回復が同じではないことを、強い言葉ではなく、静かな積み重ねで見せていました。
節目のたびに戻ってくる震災の記憶
卒業式で親の姿を探してしまうこともある。就職や結婚、出産といった喜ばしい場面でこそ、「この場にいてほしかった人」がいない現実がいっそうはっきりする。番組概要にあるこの視点は、とても大きな意味を持っていました。
災害の傷は、被災した直後だけに表れるものではありません。人生の節目に触れたとき、あとから深く揺り戻されることがあります。トラウマ研究では、過去の出来事がそのまま消えるのではなく、その後の出来事によって再び痛みとして立ち上がることがあると考えられています。今回の番組は、まさにその現実を私たちに見せてくれました。
あしなが育英会が続けてきた支え
番組で大きく取り上げられたのが、長年にわたり遺児支援を続けてきたあしなが育英会です。同会は東日本大震災の直後から支援に入り、心のケア活動を始め、その後も継続して子どもたちを支えてきました。
あしなが育英会は2014年に、宮城県仙台市、宮城県石巻市、岩手県陸前高田市の3か所に「レインボーハウス」を設け、子どもたちが集い、気持ちを言葉にできる場づくりを続けています。災害支援というと、住まいや生活資金に目が向きがちですが、番組は「話せる場所」そのものが支援であることを、改めて伝えていました。
高校卒業後も終わらない支援の必要性
あしなが育英会はもともと、高校卒業後は自立の段階に入ると考え、支援を高校生までとしてきました。けれど、東日本大震災を経験した子どもたちからは、その先にもつながりが必要だという声が上がり、今も「集って語り合える場」の提供が続けられています。
ここに、この番組のとても大切な問いがあります。年齢が18歳や20歳になったからといって、悲しみが区切られるわけではありません。社会制度は年齢で線を引きやすいですが、人の心はそんなふうにきれいには区切れないのです。番組は、そのずれを見逃さずに描いていました。
心のケア縮小の動きが意味すること
番組では、被災地で心のケアが縮小する動きも伝えられました。震災から時間がたつと、支援の予算や人手はどうしても減りやすくなります。けれど、支援が必要な人の苦しみまで一緒に小さくなるわけではありません。そこに大きな難しさがあります。
災害後の支援で最後まで残りやすい課題のひとつが、見えにくい心の傷です。建物の復旧は目に見えますが、喪失感や孤立感は外から分かりにくいからです。だからこそ、支援が続いているかどうかを社会全体で気にかける必要があります。今回の番組は、その「見えにくさ」を見える形にしていました。
宮地尚子さんが示す支援の視点
出演した宮地尚子さんは、一橋大学大学院社会学研究科の特任教授で、文化精神医学、医療人類学、トラウマと文化・社会を主要研究領域とする研究者です。今回のテーマに、これ以上ないほど重なる専門性を持つ方でした。
宮地さんの研究分野から考えると、心の傷は個人の内側だけで完結するものではなく、家族、地域、社会との関わりの中で表れ、支えられていくものだと分かります。番組が、遺児本人の努力だけでなく、「周囲はどう支えていけるのか」「私たちにできることは何か」と問いかけたのは、その視点と深く重なっていました。
私たちにできること
この回を見て強く感じるのは、支援は特別な立場の人だけがするものではないということです。大きな支援団体に入らなくても、災害の記憶を忘れないこと、被災した人の時間の流れを決めつけないこと、それだけでも大事な一歩になります。
たとえば、次のような姿勢はとても大切です。
・「もう15年」と決めつけず、「まだ続いている痛み」があると知る
・ 節目の時期に苦しさが強まる人がいると理解する
・ 心のケアや居場所づくりの活動に関心を持つ
・ 被災地の課題を過去の出来事として片づけない
番組が最後に残したのは、重い現実だけではありませんでした。人は、支えがあれば前に進めるという小さくて確かな希望です。その希望を途切れさせないために、社会の側が学び続けることが必要なのだと感じました。
震災15年の今だからこそ考えたいこと
東日本大震災から15年という節目は、区切りではなく、見直しの時期なのだとこの番組は教えてくれました。子どもだった人たちが大人になった今、必要なのは「もう大丈夫だろう」という思い込みではなく、年齢を重ねても続く喪失の痛みを理解することです。
「これから」を歩む子どもたちというタイトルには、前へ進む明るさだけでなく、迷いながらでも生きていく現実が込められていました。だからこそ、この回は震災特集でありながら、未来の支え方を考える番組でもありました。見終えたあとに残るのは悲しみだけではなく、支える社会でありたいという静かな決意です。
まとめ
東日本大震災から15年。震災遺児として生きてきた子どもたちは、卒業や就職、結婚など人生の節目を迎えながら、それぞれの歩みを続けています。番組は、あしなが育英会の支援や、語り合える場の大切さを通して、長い時間の中で続く心のケアの必要性を伝えていました。災害の記憶は年月だけで消えるものではなく、社会が寄り添い続けることが大切だと感じさせられます。なおこの記事は公開時点の情報をもとにまとめており、放送内容と異なる場合があります。放送後、必要に応じて内容を追記していきます。
Eテレ【東日本大震災15年特集 ○○の扉、開けちゃいました。復興や災害研究@東北大学】東北大学 災害研究の現場とは 災害科学国際研究所と学生の好奇心が生んだ復興研究|2026年3月9日
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